甲状腺疾患の検診/NCIがんトピックス | 海外がん医療情報リファレンス

甲状腺疾患の検診/NCIがんトピックス

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甲状腺疾患の検診/NCIがんトピックス

原文掲載日:2003年8月1日
(古い記事のため下部に監修者の補足解説あり)

◇甲状腺疾患の検診とはどんなものですか?

検診の目的は、甲状腺疾患を早期につまり症状が現れる前に検出することです。

  • 多くの人々は検診を常に有益なものだと考えています。しかし、甲状腺疾患の検診を受けないとしても、その選択肢には正当性があります。検査の正確性は決して完璧ではありません。甲状腺疾患でないのに検診で異常という結果が出ることがあったり、甲状線疾患に罹患していても検診で正常と判定されたりすることもあります。このようなことはすべての検査で起こります。

  • 検診を受けることが有意義であるかどうかは自分で判断してください。選択に良し悪しはありません。検診を受けることを選択する人もいれば選択しない人もいます。

  • 下記に述べる情報で、甲状腺がん検診のメリットとデメリットに焦点を当てていきます。体内甲状腺ホルモン量の増減に起因する非がん性(良性)甲状腺疾患の検診には簡便な血液検査があります。血液検査の不便さや費用負担はありますが、それ以外にこの検査から不利益を生じる可能性はあまりありません。おそらく60歳以上の男女のうち、女性で1000人中14人、男性で1000人中9人程度の人々が、異常な甲状腺ホルモン値でありながら甲状腺疾患だと知らずにいた可能性があります。このような人たちは、検診を通して疾患が判明し、治療が行われるでしょう。しかし、甲状腺ホルモン濃度が明らかに異常である人々にとって治療は効果的であると考えられますが、甲状腺ホルモン濃度の異常がごく軽度である人々に対して治療が有効であるかどうかを判定できる有力なエビデンスはありません。


◇甲状腺がん検診ではどんなことが行われるのですか?

 がん検診は、簡単な検査を受けるだけの話ではありません。検診で検査結果が出た後に起こりうることを考える必要があります。

◇ 甲状腺がん検診の選択肢

 医師は、甲状腺の触診によって腫瘤または結節をチェックし、甲状腺がんの検査を行います。医師が結節を触知したとしても、それががんの存在を意味するわけではありません。ほとんどの甲状腺結節はがんではありません。

 甲状腺の腫瘤または結節を検査するには2つの方法があります:1)超音波検査:位置を突き止め腫瘤を描出する。2)生検:腫瘤ががん性であるかどうかを判定する。甲状腺超音波検査は甲状腺に音波を反響させることによって画像を作り出します。この手法によって痛みを伴うことなく迅速な検査ができます。しかし腫瘤ががん性かどうかの判定はできません。超音波検査器では人間の耳では聞くことのできない音波を使用します。コンピューターは、音波の反響音を使って超音波画像(ソノグラム)と呼ばれる画像を作り出すのです。この画像から、医師は結節の数量およびサイズを読み取り、結節が充実性であるか嚢胞性であるかを区別することができます。

 超音波検査による検診を選択した場合、医師はX線検査室やクリニックでの超音波検査手配するでしょう。検査は短時間で終わりますし、痛みも伴いません。この検査で甲状腺結節が見つかることがあります。見つかった場合、通常、さらに詳しく調べる精密検査を勧められます。精密検査では、結節が増殖していないか確認するための超音波検査の再検査、穿刺吸引細胞診、手術を行うことがあります。

 がんの確定診断には生検が必要で、通常は細い針を使用します。生検中に結節から採取した細胞を検査室で直接調べるのです。


◇穿刺吸引細胞診とはどのようなものですか?

 針を甲状腺に刺入して細胞を採取し、その細胞を顕微鏡で検査するものです。軽微な疼痛を感じたりあざができることもあります。 通常、穿刺吸引細胞診を行うと、結節にがんが存在するかどうかを知ることができます。しかし症例の約20%では参考になる結果が得られません。このような場合は別の生検または手術が必要になります。

◇甲状腺がん検診の利益にはどんなことがありますか?

#1がんを有しない人々に対する安心感

 検診を受ける人々のほとんどはがんではありません。このような人たちでは、がんではないことを再確認できるという利益が得られます。

#2がんを有している人の早期発見
がんである人も少数いるでしょう。このような人たちは検診をしなかった場合より早期に、おそらく非常に小さい時期にがんを検出できるでしょう。検診を受けない場合に比べ、比較的簡単な治療で済み、生存の可能性は高くなります。

◇甲状腺がん検診の不利益はどんなことですか?

#1がんを有していない人に対する偽陽性
結節が見つかったために偽陽性となる人もいるでしょう。このような場合、がんが存在するかどうかを確認するために、再検査、穿刺吸引細胞診、手術が必要となることがあります。最終的にがんは存在しないことが判るのですが 、診断に至る過程でストレスや不安に苛まれるとともに、不便さや実は必要のなかった手術による合併症の危険性があります。

#2早期治療による利益が不確かである
ほとんどの甲状腺がんが治癒可能であることは判明していますが、甲状腺がんの早期発見・早期治療によって追加の利益が得られるかどうかは不明です。甲状腺がん検診の長期的な利益に関して、信頼できる研究は存在しません。甲状腺がんが早期に発見された場合の治療が、遅く発見された場合と比べ軽く済むかどうか、確実には判明していません。

#3がんを有している一部の人に対する偽陰性
検診によってすべてのがんが発見されるわけではありません。ごく少数の人では結果が偽陰性となることがあります。がんであるのに異常なしと判定されるのです。このような人は、検診から利益を得ることはできません。

◇がんを正確に検出される人、および誤って判定される人は何人くらいいますか?

 頸部検査による検診と、超音波検査による検診では検出されるがんおよび偽陽性の数が異なります。

 下記の表は、頸部検査による検診と超音波検査による検診の利益と不利益を示しています。表中の数値は、影響を受ける人数を、研究者らの最も有力な推定に基づいて示したものです。正確な数値は地域や対象集団によって異なります。

*1000人を対象とし、頸部検査による検診を実施した場合

利益

不利益

920~960人ががんを有していないと正確に判定される。

40~80人が偽陽性となり、精密検査を勧められる:

  • ·         40~80人が超音波検査を勧められる。
  • ·         20~40人が超音波検査とともに穿刺吸引細胞診を勧められる。
  • ·         3~10人が超音波検査および穿刺吸引細胞診、さらに手術も進められる。

1~3人で早期にがんが発見される。比較的簡単な治療が必要になることもあるが治癒の可能性が高くなる。

1~3人で早期にがんが発見されるも治癒の可能性が高くならない。がんを有していると認識する期間が長くなるだけとなる可能性がある。

*1000人を対象とし、超音波検査による検診を実施した場合

利益

不利益

800~850人ががんを有していないと正確に判定される。

150~200人が偽陽性となり、精密検査を勧められる :

  • ·         70~120人が超音波検査を再度勧められ、70~80人が穿刺吸引細胞診を勧められる。
  • ·         10~15人が手術と穿刺吸引細胞診の両方を勧められる。

4~6人でがんが早期に発見される。比較的簡単な治療が必要となることもあるが、治癒の可能性が高くなる。

4~6人でがんが早期に発見されるも治癒の可能性は高くならない。がんであると認識する期間が長くなるだけの可能性がある。


◇甲状腺手術とはどんなものですか?

 甲状腺手術は、穿刺吸引細胞診で発見されなかった甲状腺がんの検出に必要になることがあります。通常、甲状腺手術の成功率は非常に高く、ほとんどの場合甲状腺の一部を切除するだけです。しかし一部の人では以下に示すような有害事象が発生します。

  • 副甲状腺(甲状腺に隣接)の損傷。この損傷により、1000人当たり10~15人の割合で一時的な低カルシウム血症および筋痙攣が引き起こされます。ごく少数の人(1000人の内7人程度)ではカルシウムサプリメントの摂取が永久的に必要になると思われます。

  • 甲状腺用薬剤が必要になること。甲状腺全体が摘出された場合は甲状腺ホルモン補充療法薬を服用しなければなりません。甲状腺の一部が切除された場合1000人当たり1~10人はホルモン補充療法薬の服用が必要になるでしょう。

  • 声帯を損傷し、嗄声になること。一般にこの症状は一時的ですが1000人の内7人程度の嗄声は永久的なものとなります。

  • 創傷に感染が発生し抗生剤投与が必要になること(1000人当たり3人程度)。

  • 術中に出血し輸血が必要になること(1000人当たり1人未満)。

  • 麻酔起因の死亡(1000人当たり1人未満)。

*これらの数値は平均の割合であり、対象集団、地域、手術法によって異なります。

◇甲状腺がんの検診を受けるかどうかをどのようにして決定することができますか?
選択肢:

  1. 通常の健康管理を続ける。症状が現れた場合に医師の診察を受け、症状をチェックしてもらう。

  2. 医師に頸部検査(触診)による検診を依頼する。

  3. 超音波検査の手配について医師に相談する。

意思決定までのステップ
下記を参考とし段階を踏んで意思決定に活かしてください。

ステップ1:ネバダ核兵器テストによるヨウ素131のあなたの推定被曝線量はどれくらいですか?
ステップ2:あなたに甲状腺がんが発生するリスクは何ですか?
ステップ3:あなたにとって、甲状腺がん検診の利益および不利益は、それぞれどれくらい重要ですか?
ステップ4:2つの検診法でどちらがあなたに最も適していますか?
ステップ5:意思決定前にどんな疑問がありますか?
ステップ6:意思決定について主治医と相談してください。

原文(Making Choices: Screening for Thyroid Disease)

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緒方登志文 訳
斎藤博(検診研究部/国立がん研究センター)監修
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 <監修者による補足情報>

甲状腺検診の最大の不利益―過剰診断という落とし穴
甲状腺疾患のスクリーニングに関するこの解説はスクリーニングの基本的な考え方に立ち、米国民に於いてのリスクを踏まえてどのようなステップで意思決定すべきか示したものである。一般に、人々は検診はやらないよりやるべきものと考えがちであり、その背景には早く疾患を見つけることが利益のみをもたらすという誤解がある。しかし検診では利益はありそうに見えて、実はないか、あるいはごく限られていることが多い反面、偽陽性、偽陰性、さらには精密検査による侵襲といった不利益は必然的に発生する。そのため、検診を行うことが行わない場合に比べて必ずしも良いわけではない。むしろ行ったほうが良いと判断できる検診はごく限られている。しかしそのことはなかなか理解するのが難しい。甲状腺検診において早く見つけることの意義、つまり利益と、偽陽性・偽陰性、検査・治療の負担、副作用といった不利益がどのくらいあるのか理解し易い形で情報が提供されている。しかしここに述べられていない甲状腺検診における最大とも言える不利益について知る必要がある。それは過剰診断がんという命を脅かさない甲状腺がんの発見による不利益である。そのような進行しないかあるいは非常に進行の遅いがんはどの種類のがんにも多かれ少なかれ存在するが、甲状腺では非常に高頻度に若年層から多く存在することが知られている。このようながんはほとんど進行せず、症状が全く出ないので「潜在がん」(注1)などとも呼ばれてきた。通常、検診以外には発見される機会はなく(注2)、診療では通常発生しない。通常の治療すべき甲状腺がんと区別はできない。

このようながんが一旦検診を行うと非常に多く見つかり、見つけられた人は不必要な検査、そして治療を強いられることになる。治療した人の中にはこの解説の中に述べられているような副作用としての神経障害等々が起こる人も必ず一定の割合で発生する。

上記の過剰診断による甚大な実害が最近起こっている。韓国において甲状腺がんの罹患(発生)率が短期間に10倍近く増加したのである。一方死亡率はがんの中でも最も低いレベルで全く増加はしていない。このような罹患率だけの増加が何故起こったか?それは韓国での乳がん検診に原因がある。韓国ではマンモグラフィによる乳がん検診が推奨されているが、その一方で推奨されない超音波検査による検診が多く行われている。その超音波検診の際についでに頸部をスキャンすることによって、実は見つける必要のない甲状腺がんが多く見つかってしまったのである。がんが増えたのではなく、甲状腺がん患者の10倍近い数の健常者を余計な検診によってがんにしてしまったということである。

検診の早期発見にだけ注目するとこのような悲劇が起こりかねない。過去には乳児の神経芽腫の検診で多くの子供が無駄に命を落とした例もある。がん検診の科学的根拠の指標は死亡率低下であることを理解しないままに検診を行うことの意味、その倫理的問題点を示している。なお、甲状腺がん検診の科学的根拠はない。

翻って現在の日本では福島の原発事故以降、甲状腺がんを心配する不安が社会に広がっており、その解決策を早期発見/検診と短絡する誤解が発生している。韓国の二の舞が懸念される。過剰診断された患者は身体的な不利益だけではすまず、がん患者として生きていくことが強いられる。

以上のように甲状腺の検診に伴う大きな不利益、問題点は過剰診断であり、それを正しく認識することが求められている。がん検診の科学的根拠が理解されず、主として医師の誤解によって科学的根拠の無いがん検診が横行している日本ではこのような危険が今後も当分は避けられないだろう。

注1:甲状腺の潜在がんと過剰診断がんは全く同一のものではないが、ほぼ同じがんの集合と考えられる。
注2:前立腺がんとともに、司法解剖などでもよく見つかるがんとしてよく知られている。つまり、死因とはならない甲状腺がんが高頻度に存在するということである。

 

 

**有効性の確立していない検診の不利益についての、韓国の統計資料**

参考文献
Moynihan R et al. Preventing overdiagnosis:how to stop harming the healthy. BMJ 2012
Davies L et al. increasing incidenc of thyroid cancer in the United States, 1973-2002. JAMA 2006

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斎藤博(国立がん研究センター 検診研究部部長)
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