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2011/05/17号◆クローズアップ「分子標的薬併用療法に大きな期待、しかし多くの課題も」

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2011/05/17号◆クローズアップ「分子標的薬併用療法に大きな期待、しかし多くの課題も」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月17日号(Volume 8 / Number 10)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

分子標的薬併用療法に大きな期待、しかし多くの課題も

過去10年間で癌治療が大きく進歩した点として、癌細胞特有の異常を標的とするイマチニブ(グリベック)のような薬剤が導入されたことが挙げられる。しかし、このような薬を単剤で使用したときに、癌細胞がこの抗癌作用をすり抜けるようになることが少なくない。たとえば、1つのシグナル伝達経路からの癌増殖促進シグナルが遮断されると、腫瘍は他の経路を活性化することがある。

非臨床試験のエビデンスではあるが、分子標的薬を組み合わせて同時に複数の経路を遮断すると、薬剤耐性の発現を防いだり遅らせたりする可能性が示唆されている。研究段階の2種類の分子標的薬で、その一方または両方が単剤での抗癌効果がほとんどまたはまったくみられなかったにもかかわらず、併用すると相乗的な抗腫瘍効果が認められる場合もあった。

しかし、研究段階の分子標的薬を併用する臨床試験を実施するには、いくつかの大きな障壁がある。米国の薬剤開発システムは、単剤での試験を前提にデザインされている。はじめに安全性を評価する試験を行い、次により大規模の試験で有効性を評価する。薬剤は、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けてはじめて他の治験薬との併用試験が可能になる。

異なった製薬会社の2種類の新薬で試験を実施しようとすると、また別の障壁に突き当たる。このような状況では、「業務上の問題、法律上の問題、責任の問題、知的財産権の問題などが持ち上がり、あまりにも厄介なので誰も触れたがらない」とNCI指定のオハイオ州立大学総合がんセンター長であるDr. Michael Caligiuri氏はいう。

今月初め、Caligiuri氏は、NCI、FDA、製薬会社、その他の癌関連組織の代表が一同に会する抗癌剤開発円卓会議を主催した。この会議は、2種類以上の有望な研究段階の抗癌剤を共同開発する際に生じる障壁を克服するための勧告の策定を目指している。この会議の勧告は、年内に発表される見込みである。

指針の草案

FDAの医薬品評価研究センター長であるDr. Janet Woodcock氏によると、新薬を共同開発する際の問題の1つは、それぞれ別に開発、試験する場合と比べて薬剤の安全性と有効性に関する情報の提供が少なくなることである。

だが、患者にとってより有効性の高い薬剤の組み合わせを見つけることによって得られる利益は、その問題点を補って余りあるという。このため、2010年12月にFDAが発表した指針の草案では、2つ以上の研究新薬を併用する臨床試験は次の場合にのみ許可されるとしている。

・併用に説得力のある生物学的な根拠が存在する場合―
たとえば、薬剤が同じ分子経路の異なる標的を遮断する、複数の経路を遮断する、耐性を低下させる方法で標的を遮断する、低用量での投与が可能であり、毒性が低減されるなど

・前臨床試験または予備試験において、単剤での使用と比較して、併用のほうが相加作用が大きいか、応答が長く持続することが示唆される場合

・薬剤の個別開発が有効でないとする説得力のある理由がある場合―たとえば、単剤療法では耐性ができやすい、一方または両方の薬剤が単独では効果が低い可能性があるなど

適応的な臨床試験デザイン

併用療法の候補となる新しい分子標的薬の絶対数の多さだけでも、現在の薬剤開発システムの対応能力を超えていると、多組織の代表が集結した円卓会議で何人かが発言していた。メルク研究所の腫瘍臨床研究副所長であるDr. Eric Rubin氏の試算によると、10種類の新薬の可能な組み合わせをすべて順番に試験していくとおよそ90年かかるという。

「単発的な単剤の試験を何年もかけて完了させるようなやり方をこれ以上続けることはできません」とWoodcock氏はいう。「複数の標的、複数の癌、腫瘍内の複数の活性化された経路に対して、効果的に臨床試験をデザインする方法の検討が必要なのです」。

Rubin氏は、このような複雑な状況に対処するために必要な「適応的な」臨床試験デザインのモデルとして最近の2つの試験を引き合いに出している。BATTLE試験では、非小細胞肺癌患者から採取した腫瘍検体で特異的なバイオマーカーを調べ、この分析結果に基づいて、異なる分子標的薬療法を実施する4つの治療群のいずれかに患者を登録している。

もう1つは初期の乳癌女性を対象としたI-SPY2試験で、バイオマーカーを用いて、標準的な術前化学療法と併用して治験薬を投与した場合に利益を得る可能性のある患者を特定する。この試験の参加者は、エストロゲン受容体とHER2の状態などの因子から再発リスクが高いと判断されている。

モデル契約

NCIの癌治療評価プログラム(CTEP)が開発したテンプレートは、異なる製薬会社が所有する研究中の分子標的薬の共同開発をしばしば妨げる知的財産権の問題を解決するためのモデルとして役立つと、CTEPを監視するNCIの癌治療・診断部門(DCTD)長であるDr. James H. Doroshow氏は述べている。

CTEPのモデル契約では、すべての共同研究者は、薬剤併用試験から発生する知的財産権に対して、対価を払い、非独占的な、使用料無料のライセンスを供与される。NCIは現在、このような共同開発の契約を80以上のパートナー企業との間で100以上の新薬に対して結んでいる。CTEPは最近、同様の契約をバイオマーカー研究に広げることを提案した。

— Eleanor Mayfield

 

分子標的薬の共同開発における科学的難題を克服するために NCIは、分子標的薬の併用療法開発のための科学的難題に取り組む研究団体向けのリソースを準備している。たとえば、これまでは分子標的薬療法の臨床効果を評価する標準化された分析法がなかった。NCIは、分子標的薬の作用機序を評価する50以上の分析法を現在開発中である。これらの分析法は承認後、無償で研究団体に公開される。 NCIは、新たな化合物と上市済みの抗癌剤との併用試験を行う研究者が利用できる「セットメニュー」も開発した。FDAが承認した約100種類の癌治療薬を組み合わせて、研究団体が無償で利用できるようになっている。このリソースに関する情報と入手方法については、DCTDの創薬プログラムのウェブサイトに掲載されている。Doroshow氏によると、米保健社会福祉省の法律顧問室は、最近までNCIが研究目的で特許医薬品を購買または合成することを禁じていた。しかし、この方針は2009年に改正され、NCIはin vitro実験用に300以上の研究中の薬剤を入手した。現在実施中のプログラムではin vitro実験で効果を確認する目的で、、研究者が特定の組み合わせの薬剤を利用することが可能である。NCI研究者は、所内のヒト腫瘍細胞株スクリーンで治験薬と承認薬をさまざまな濃度で組み合わせた有効性の推定値のモデル化も行っている。この施設では、60のヒト癌細胞株を有し、抗癌作用が期待される化合物のスクリーニングがなされている。このデータは1年以内に公開される予定である。最も有望な組み合わせが動物モデルで検証され、その後の臨床試験に進むものが特定される。

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月橋 純子  訳
大渕 俊朗(呼吸器・乳腺分泌・小児外科/福岡大学医学部) 監修
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