2011/05/17号◆特別リポート「稀な皮膚癌におけるウイルスの発見と治療への応用」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/05/17号◆特別リポート「稀な皮膚癌におけるウイルスの発見と治療への応用」

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2011/05/17号◆特別リポート「稀な皮膚癌におけるウイルスの発見と治療への応用」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月17日号(Volume 8 / Number 10)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

稀な皮膚癌におけるウイルスの発見と治療への応用

2005年の春、ジョージ・キャンベルさんは妻とカリフォルニアで休暇を過ごしているときに、左前腕に瘤(こぶ)があるのに気づいた。この瘤は特に色も痛みもないものであったが、これまでなかったものであった。57歳の米国空軍退役軍人であるキャンベルさんはサウスカロライナ州の自宅へ戻って、この瘤を医師に切開してもらい、この一件は終わったと思っていた。

しかし、1カ月後、瘤は元の大きさの4倍となった。その時医師は瘤とその周りの皮膚の一部も切除した。8人の病理医が彼の組織を調べたところ、キャンベルさんに診察が下った。メルケル細胞癌(MCC)という稀ではあるが悪性度の高いタイプの皮膚癌であった。

この疾患は免疫系に障害がある場合や高齢者に発症しやすい。腫瘍は日光によく当たる皮膚領域に発症しやすく、紫外線曝露が危険因子の1つであると考えられている。米国では毎年約1,600人がメルケル細胞癌と診断されている。多くのメルケル細胞癌患者と同様、キャンベルさんの住んでいる近くにもこの疾患の治療に精通した腫瘍専門医はいなかった。そこで彼はボストンへ行き、その当時ダナファーバー癌研究所にいたDr. Paul Nghiem氏や他の専門医らが治療計画を立てた。2週間後にキャンベルさんは手術を受け、それ以降、彼には癌は発生していない。

「私はラッキーなほうです。癌が初期に見つかったので、私は再発リスクが少ないとされる10%の症例に当たります」と彼は語った。この疾患は進行度の早い場合が多く、患者の約半数は診断から5年後まで生存することができない。

研究の急速な進歩

2008年以降、メルケル細胞癌に新たな知見が加わった。研究者らが、10の腫瘍のうち8つにこれまで知られていなかったウィルスを発見したのである。この知見は多くのグループにより追認されており、いまではこのウイルスは、この疾患において、すべてとはいかないまでもほとんどの症例に関わっている。

「過去3年間に、癌生物学者はこの疾患を根底からひっくり返しました」とピッツバーグ大学癌研究所のDr. Patrick Moore氏は述べた。Moore氏は同研究者のDr. Yuan Chang氏とともに、今ではメルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)と呼ばれるウイルスを発見した研究チームをこれまで引っ張ってきた。「本当に癌を発症させるウイルスがあるということを発見すれば、研究ペースは一気に加速します」とMoore氏は述べた。同氏のチームは1994年にはカポジ肉腫を発症させるウイルスも発見している。「新しいデータはどれも、ウイルスが癌を発症させる複雑な図式をどのようにみればいいかを示してくれます」。

ほとんどの人々は小児期にMCVに感染するが、ウイルスが癌を発症させることはめったにない。ある一連の分子レベルでの事象が起こらなければ腫瘍の発達には至らないが、これらの事象はほとんど起こらない。最初の一歩はウイルスへの免疫制御が失われることである可能性が高いと、ウイルスと癌に関する最近の記事でChang氏とMoore氏は指摘している。

実験的な血液検査による再発の検出

どのように人の免疫系がウイルスに反応しているかを理解することから、新たな診断ツールが生み出され、ひいては新しい治療につながっていく可能性がある。現在、ワシントン大学のNghiem氏と同僚らは、少数の患者において、臨床的にわかる前の段階で癌の再発を発見できる実験的な血液検査を開発した。

この血液検査により、研究者らは患者がウイルスのタンパク質(抗原)に反応して産生される抗体値のモニタリングが可能になった。これらの値が治療後には低下し、再発時には上昇するといったように、癌の程度により変動する傾向にあるということは昨年報告された

最近では、なんの異常も感じていなかったが、この検査で抗体値が基準値よりわずかに上昇していた患者に対し画像検査を行ったところ、腫瘍が確認されたという症例もある。「この検査により、医師は癌の治療を、なにより早期に開始できるようになるでしょう」とNghiem氏とともに研究をしているDr. Jayasri Iyerリサーチフェローは述べた。

「免疫反応はこの疾患を見通す唯一の窓です。これ以外にも、腫瘍抗原への免疫反応を通じて検出可能な癌があるのかどうか、われわれにはまだわかりません」。とNghiem氏は語り、より大規模な試験による追試が必要であると付言した。

免疫を基盤とした治療へ向けて

最近、別の研究で、Nghiem氏らは、なぜ一部の患者の治療成績がよいのかということを説明する1つの要因を特定した。腫瘍が免疫細胞によって包囲、侵入されている患者の治療成績は、そうでない患者の場合より良好であった。

「ここからわかることは、これらの症例で治療成績や生存に関する転帰を判定するには、腫瘍に対する免疫反応を誘発する身体能力が重要であるということです」とNghiem氏は述べた。

これらの所見は、メルケル細胞癌に関する付随報告とともに、最近Journal of Clinical Oncology(JCO)誌に発表された。どちらの研究も、MCV感染を受けた患者の免疫系の「読み出し」に予後情報が含まれている可能性があると結論づけている。

これらの研究は「MCVがこの癌で病因を担っていることを示すさらなる証拠でもあります」とNCI癌研究センター(CCR)のDr. Christopher Buck氏は述べた。同氏はCCRの細胞腫瘍研究室長兼NCI副所長であるDr. Douglas Lowy氏とともに、同号のJCOに掲載された本研究に関する 論説を記載している。

それだけでなく、いつかヒトの免疫系を使って癌をなくすことができるかもしれないという希望をこの研究は示している、とBuck氏は続けた。「ウイルスはいくつかの癌を引き起こしますが、喜ばしいことに、ウイルスはこの疾患をやっつけるための治療に利用できる場合も多いということです」と彼は述べた。

Moore氏もこの点には同意見である。「いまやわれわれはこの腫瘍がウイルスによって発症することを知りました。われわれはこのウイルスに特異的に反応する免疫を刺激する方法を探しています」と述べ、彼の研究グループや他のグループがこのアプローチで研究を行っていることを指摘した。

患者には、新たな診断基準が

免疫を基盤とした治療は何年も先のことになるだろうが、近年、医師らの報告により一変したこの疾患についての認識は、メルケル細胞癌患者にも利益をもたらしている。メルケル細胞癌の新しい診断基準が2009年に承認されたが、この基準は保険会社が保険適用範囲に関する決定を行う際にしばしば用いられるものである。

従来の診断基準では、メルケル細胞癌は現在実施されているような精密検査や画像検査を必要としない悪性度の低い皮膚癌の一部とされていたため、医師の指示する検査は保険適用外であった。

診断基準の開発にともに尽力したIyer氏は次のように述べた。「新しい診断基準により大きな違いが生まれました。患者は保険会社から治療の承認を得られるようになるだけでなく、いまや研究者はメルケル細胞癌の発症をより容易に追跡できるようになります」。

患者と専門家をつなぐ役割

Dr. David Shuster氏は昨年から「メルケル細胞癌との戦い」と題したブログを書いている。ここ数年に生じたもう一つの変化は、稀少疾患を患う人々が経験や情報を共有する1つの方法としてのインターネットの利用の増加である。遡ること2005年にGeorge Campbell氏が手術からの回復を待っていた時、彼はオンライン討論の場を創り出し、メルケル細胞癌を患う人々のグループを支援しようと思い立った。当初は参加したいと思う人はいるのだろうかと不安に思っていたが、いまやこの支援グループには世界中に460人以上の積極的な会員がいる。

この支援グループは、多くの新規診断患者がこの疾患に精通した専門医を見つけられるように支援している。70歳のカリフォルニアの画像診断医であるDr. David Shuster氏はそのような患者の1人だ。1年前に彼がメルケル細胞癌と診断されてから、彼の息子が支援グループを見つけ、居住地に最も近い専門医であるNghiem氏と連絡を取った。

数週間後にShuster氏はシアトルに飛び、現地の医師と新たな治療計画を立てた。 それから彼はカリフォルニアの実家に戻り、Nghiem氏の監督のもと、自宅近くの医師による放射線治療を受けた。

治療は奏効したが、再発は2回起こった。治療選択肢を考慮した後、今月初頭にShuster氏は化学療法を開始した。リストサーブの人々や自身のブログである「メルケル細胞癌との戦い」の読者に支えられて安らぎを得た、という。

彼はインタビューの中で、次のように述べている。「化学療法に進もうと決断したとき、避けられないものを先延ばしにするだけなのではないか、自分をぐったりさせるだけなのではないかと思いました」。

「でも、支援グループの人から聞いた逸話的な話がいくつもあって、化学療法だけで何年間も生き延びた方がおられるのです。これは私に希望を与えてくれました」。

— Edward R. Winstead

【画像下キャプション訳】 ジョージ・キャンベルさん(2005年5月)左前腕の小さな瘤(こぶ)は、後にメルケル細胞癌と診断されることになる。(写真提供:George Campbell氏)

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窪田 美穂  訳
田中 謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター免疫学部門) 監修
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