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2011/05/03号◆クローズアップ「デザインジレンマ―癌臨床試験におけるプラセボをめぐる論争」

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2011/05/03号◆クローズアップ「デザインジレンマ―癌臨床試験におけるプラセボをめぐる論争」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月03日号(Volume 8 / Number 9)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

デザインジレンマ―癌臨床試験におけるプラセボをめぐる論争

新規薬剤の有効性を調べるための究極の判断基準は何かと問えば、癌を除くあらゆる部門の臨床試験研究者は、ランダム化プラセボ対照二重盲検法、と答えるだろう。これは患者も医師も誰が効果薬剤を服用し、誰が効果のない物質を服用しているのかわからない試験方法である。

対照的に、癌臨床試験は、現実的かつ倫理的理由から盲検法やプラセボ対照群を設定することはまれである。大抵の従来型化学療法剤には独特のしばしば重い副作用があり、盲検法は現実的ではない。さらに、多くの患者および研究者は、癌などの致死性の疾患に対する臨床試験にプラセボを用いるのは不適当であり、全ての患者が効果のある治療を受けるべきであると主張する。

実際、通常はランダム化試験を行わないような場合や、しばしば新規薬剤を初めて人へ投与するといった初期段階の臨床試験ではプラセボはめったに使われない。バージニア州ニューポートニューズに住むメアリー・シュワルツさんは2004年、35歳の時にステージ4の副腎癌と診断された。彼女は米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターで第2相臨床試験の化学療法レジメンによる治療を行い、その後6年間、癌のない状態を維持している。もし受けることができるランダム化プラセボ対照試験があり、それを勧められたとしたら彼女はその試験に登録することを考えてみただろうか。決してありえない、と彼女は言った。

「私の癌はまれなタイプで、ほとんど確実に死に至るのだから、もしプラセボを服用する可能性があるのなら、治療に参加するという選択はしないでしょうし、試験薬を服用しているということを知りたいと思うでしょう」と彼女は言った。

プラセボが有意義である場合とは

しかし最近は、新しい分子標的薬という抗癌剤の出現により、慣習に逆らって、新規薬剤のプラセボ対照臨床試験を計画する癌研究者も出始めている。彼らは、なぜこのような試験が今は可能であり、時には必要であると考えるのか主な理由を2つあげている。

第一に、頻回に静脈投与され、吐き気、嘔吐、脱毛などのおびただしい副作用が出現する従来の化学療法剤と異なり、多くの分子標的薬は、錠剤の形で服用し、疲労や頭痛といった、癌自体が原因か、それとも癌とは無関係の原因による医学的な問題なのか区別が困難な副作用が生じることである。

第二に、従来型抗癌剤の有効性の評価基準は腫瘍の縮小であったが、多くの分子標的薬は腫瘍を縮小させずに、腫瘍の増殖を休止させるか、または遅らせる効果を有するためにその効果が腫瘍の自然経過ではなく、治療効果であることを示すためにはプラセボ対照臨床試験が必要である。

科学的実現性

「腫瘍が縮小すると、直接的な治療効果であると推察できます。癌が自然に縮小することなどは極めてまれです」と、NCI共同臨床試験グループCALGBの元主任であるシカゴ大学のDr. Richard L. Schilsky氏は、Journal of Clinical Oncology誌に統括著者として発表した論文の中で、プラセボ対照癌臨床試験は科学的に実現可能で、倫理的にも一定の条件下において正当であり、従来の薬剤承認基準に合致させることがおそらく必須または望ましいと論じている。

しかし「もし腫瘍増殖が止まることをエンドポイントとするならば、より複雑になります。私は何の治療も行わずに全く腫瘍が増殖しなかった患者さんを何年も観察してきました」とSchilsky氏は述べた。

Schilsky氏と共著者らは癌臨床試験にプラセボを用いることは、その患者の病態ステージに対し効果的な治療法がない場合に限り倫理的にも容認されると強調した。また、彼らはランダムにプラセボを割り付けられた患者は抗癌剤以外の最善のサポートケア、つまり疼痛管理や他の症状に対する治療を受けなければならないと強調した。

プラセボに最善のサポートケアを追加した治療群と実薬投与群を比較したランダム化臨床試験の結果から、進行性腎臓癌に対してソラフェニブが、(GIST)に対してスニチニブが米国食品医薬品局(FDA)により承認された。プラセボの使用はまた、上乗せ薬を追加する“アドオン”デザインの試験をすることで倫理的にも容認された。つまり患者らは標準治療+実薬群か、標準治療+プラセボ群にランダムに割りつけられた。この臨床試験デザインによってFDAは進行性膵臓癌および進行性非小細胞肺癌に対するエルロチニブの適応を承認した。

新しいタイプの臨床試験デザインでは、プラセボの使用を最小限に抑えるにもかかわらず、病勢安定が治療効果なのかそれとも腫瘍の自然経過なのかを判別することが可能である。まず臨床試験に参加した患者全員が開始時に試験薬を服用する。患者の腫瘍が試験薬剤投与中は縮小を維持したとしても、重度の副作用を経験するか腫瘍の増大がみられた患者は臨床試験を中止する。腫瘍の安定が持続した場合、実薬かまたはプラセボのどちらかにランダムに割り付けられ、投与される。癌が進行した場合、患者がもしプラセボを服用していたならば実薬に戻される。

この方法でデザインされた臨床試験は進行性腎臓癌におけるソラフェニブの有効性を示し、また、carboxaminoimidazoleという薬剤は進行性腎臓癌の治療に対しプラセボ以上の効果を示さなかったことを明らかにした

バイアスのチェック

プラセボ対照群の設定は、試験の片方の群の患者が実薬を服用していないことを医師が知っている場合に起こりうるわずかなバイアスのチェックにも役立つ、とCancer Therapy Evaluation Program(癌治療評価プログラム)のDr. Jeffrey Abrams氏は記している。

「臨床試験では経過観察群の患者に対し画像診断やX線撮影を無意識のうちにより頻回に行う可能性があり、ゆえに試験薬投与群の患者より早く病態進行を発見するかもしれません」とAbrams氏は述べた。「その患者の病態ステージに対する効果的な治療法が存在しない場合には、対照群にだけ経過観察の代わりとしてプラセボを使用すれば、試験担当医師も患者もどちらの治療群に割り付けられているのかわからないので、このタイプのバイアス修正に役立てることができます」。

また、プラセボの使用により研究者は新規薬剤の副作用についてより理解できるようになる、とAbrams氏は続けた。「プラセボがなければ、報告された全ての副作用が試験薬によるものと考えてしまう傾向があります。しかしプラセボ対照試験をみると、プラセボ投与群の患者にもいくつかの同じ副作用が報告されていることがわかるでしょう。従って試験薬のより正確な真の副作用が確認できるのです」。

FDA抗腫瘍薬品室室長のDr.Richard Pazdur氏は、癌のように生死にかかわる状態にある人の有効な治療を受けたいと願う気持ちに共感を示し、「癌の臨床試験にはほとんどの場合プラセボの代替法があります。確認しておかなければなければならないのは、プラセボを用いなければできない、他の臨床試験デザインでは達成できないことは何なのか、ということです」と述べた。

— Eleanor Mayfield

プラセボを静注することの論理的根拠癌臨床試験においてプラセボを静注(IV)することには特に賛否両論ある。なぜなら侵襲的手技を必要とし、IVラインにつながれ、患者にとってなんら利点はないからである。NCIのサポートする共同グループGynecologic Oncology Group(米国婦人科腫瘍グループ)は彼らがGOG0218という進行性卵巣癌に対する標準化学療法へのベバシズマブ追加効果を評価するための第3相臨床試験をデザインしたとき、このことをすでに十分認識していた。ベバシズマブは静注で投与されるのである。「われわれは過去の研究から、効果薬の投与を受けていない群の参加者を医師らがより注意深くモニタリングする傾向があることはわかっていました」とフォックスチェイスがんセンターの主任研究者であるDr. Robert A. Burger氏は説明した。これらの患者にはより頻繁にモニタリングを行うため、より早い段階で病態進行に気付く可能性があり、ベバシズマブ投与群に優勢な結果を望むがゆえに研究結果にバイアスが生じる可能性がある。このバイアスの可能性を防ぐために、試験医師らはIVプラセボの投与を含めた3群試験をデザインした。患者らはランダムに標準化学療法剤+IVベバシズマブか IVプラセボのどちらかに割り付けられ、継続療法としてIVベバシズマブか IVプラセボのどちらかを行った。

「われわれは患者を集めるのは困難なのではないかと予想した」とBurger氏は述べた「その臨床試験を開始する前に、医師と試験サポートスタッフ向けに教育シンポジウムを開きました。われわれが取り上げた問題のひとつは、この方法で臨床試験をデザインすることの根拠でした。また、卵巣癌アドボカシーグループの意見も聞きました」。

試験医師らは、参加予定の患者らにインフォームドコンセント過程で試験デザインについて注意深く説明した、とBurger氏は続けた。「われわれはこれが臨床試験研究であり、プラセボを用いることの理由、そして仮に臨床試験に参加しないことを選択したとしても、治療には何の変わりもないことを説明し、患者がそれを理解していることをはっきりと確認することが重要だと感じました」。

その臨床試験の参加者は増え、4カ国1873人の患者が登録した。結果については2010年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会にて報告され、標準化学療法+IVプラセボに続きIVプラセボを投与した患者に比べて標準化学療法+ベバシズマブに続いてIVベバシズマブを継続投与した患者では病態進行の延長中央値は4カ月、全体の28%に病態進行の減少がみられた。

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武内 優子  訳

勝俣 範之(乳腺科・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院) 監修

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