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2011/05/03号◆癌研究ハイライト

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2011/05/03号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月03日号(Volume 8 / Number 9)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

 ・乳癌予防のためのラロキシフェンおよびタモキシフェンのベネフィット・リスク評価ツール
・乳癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)施行数は保険制度の影響を受ける
・全ゲノム配列解析により癌の診断が改善する
・C型肝炎ウイルスの肝細胞への侵入を助けるタンパク質を同定

乳癌予防のためのラロキシフェンおよびタモキシフェンのベネフィット・リスク評価ツール

乳癌発症のリスクが高い閉経後女性において、リスク低下のためにラロキシフェンあるいはタモキシフェンのどちらを使用するべきかを決定する指針となるベネフィット・リスク指数が作成された。これらの薬剤と乳癌リスク低下との関連性は臨床試験で明らかにされてはいるが、同時に有害な副作用をもたらす可能性もあることから、乳癌患者と医師は、予測される利益がリスクを上回るかどうかについてを、各患者の状況に応じて判断する必要がある。

5月2日付Journal of Clinical Oncology誌電子版で報告されたベネフィット・リスク解析の結果によると、ラロキシフェンあるいはタモキシフェン使用のリスクおよび利益は、女性の年齢、人種・民族、5年乳癌リスク予測、および子宮摘出術の有無に左右されることが示された。概して、子宮を摘出していない女性において乳癌リスクを低下させるためには、ラロキシフェンの方がタモキシフェンよりも優れていることがその解析により明らかになった。子宮摘出術を行った女性においては、ラロキシフェンおよびタモキシフェンのベネフィット・リスクプロファイルは同等であった。

NCI癌予防部門のDr. Worta McCaskill-Stevens氏、NCI癌制御・人口学部門のDr. Andrew Freedman氏らは、’女性の健康イニシアチブ’、SEER、および浸潤性乳癌発症のリスクが高い女性に対する予防薬としてのタモキシフェンおよびラロキシフェンの効力を評価した2つの大規模臨床試験であるBreast Cancer Prevention Trial (BCPT:乳癌予防試験) とStudy of Tamoxifen and Raloxifene (STAR:タモキシフェン・ラロキシフェン臨床研究) 試験のデータを用いた。研究者らは、骨折、血栓症、脳卒中および子宮内膜癌などの乳癌以外の健康転帰、つまりそれらの発症率がラロキシフェンあるいはタモキシフェンによって上昇あるいは低下する可能性について検討した。

その後、健康転帰や、さらに浸潤性乳癌および上皮内癌に対する可能性の重みを付け、ラロキシフェンあるいはタモキシフェン使用の有無により、さまざまなリスク因子を有する女性の転帰が起こる確率を算定した。これらの算定を用いて、各年齢グループと5年浸潤性乳癌リスク予測をもとに、利益がリスクを上回る、またはリスクが利益を上回るというエビデンスの有無とその強弱を色分けした表が薬剤ごとに作成された。また、子宮摘出術の有無ごとに50歳以上の閉経後女性を、白人非ヒスパニック系、黒人、およびヒスパニック系に分けた表もそれぞれ作成された。

「浸潤性乳癌の推定5年リスクを予測するためにNCIの乳癌リスク評価ツール(BRCAT)を用いることで、医療関係者は対応する表の入力情報からベネフィット・リスク指数を得ることができる。この情報に臨床的特徴および個人的嗜好を組み合わせることで、医療関係者と患者が十分に情報を得た上で意思決定を行うことができる」と本研究の著者らは述べている。

トロント大学のDr. Eitan Amir氏およびDr. Pamela J. Goodwin氏は付随する論説では、この解析の弱点について述べる一方で、「(この新たなツールにより)医師が、患者のいくつかの主要な特性に基づいてタモキシフェンあるいはラロキシフェンを選択できるようになるという点で、化学予防における個別化のための今までで最も包括的な試みとなる。これは乳癌予防にとっての明らかな前進であり、最終的には化学予防分野の理解の向上につながるだろう」と記した。

乳癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)施行数は保険制度の影響を受ける

新しい研究によると、乳癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)施行数は、その技術料がメディケア(公的保険)の適用となる地域では、適用とならない地域に比べて5倍多いことが示された。4月29日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版に発表された本研究の結果によると、IMRTの実施数は民間の放射線診療所で治療を受けた女性の方が病院外来部よりも36%多かったこと、また払戻基準の地域差がIMRTの施行数に大きく影響を与えている可能性があることが示された。

IMRTに比べて診療報酬が低いが効果は同程度であるとみられる他の3次元放射線治療計画法もあることから、乳癌の放射線治療に対するメディケアの還付対象となる項目を拡大して、これらの診療報酬の低い放射線治療計画法を還付対象とすべきであると本研究の筆者らは示唆している。

2001年から2005年において、乳癌に施行されたIMRTに対するメディケアの保険請求数は、放射線治療全体に対する請求数の0.9%から11.2%へ上昇した。研究期間中のIMRT施行数の増加により乳癌に対する放射線治療費が26%上昇したと、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDr. Benjamin D. Smith氏率いる研究者らは報告した。

研究でSmith氏らはSEER-Medicareデータベースを用いて、非転移性乳癌に対して手術と術後放射線治療を行った66歳以上の女性26,163人のデータを収集した。

診断後の最初の1年間に施行された放射線治療の平均費用は、IMRT以外で治療した女性では7,170ドル、IMRTで治療した女性では15,230ドルであった。放射線治療に関連する費用は、IMRT以外で治療した女性では医療費全体の33%であったのに対し、IMRTで治療した女性では52%であった。

患者の腫瘍特性とIMRT施行状況には強い関連性はないにもかかわらず、医療費の還付がIMRTの施行数と関連していることから、本研究の結果は、「医療の必要性よりも医療費還付が医療上の意思決定に大きく影響しているのではという疑念が裏づけられた」と、ボストン大学医療センターのDr. Lisa A. Kachnic氏およびDr. Simon N. Powell氏は付随する 論説で記した。

乳癌に対するIMRTが診療報酬の低い3次元放射線治療技術よりも、癌細胞を狙い撃つとされる点や副作用が少ないという点で有効であるかどうかはまだ明らかにされていない。どのタイプの乳癌を有する女性がIMRTの利益をより多く受けられるのかを理解するためには、さらなる臨床試験が必要であると研究者らは記している。

全ゲノム配列解析により癌の診断が改善する

全ゲノム配列解析はまだ日常的に臨床で使用できるようになっていないが、この方法がどのように癌の診断、および将来的な可能性として治療を改善できるかが2つの研究で示された。Journal of the American Medical Association(JAMA)誌4月20日号の報告は、ワシントン大学医学部(セントルイス校)の研究者らがどのように全ゲノム配列解析を利用して2人の患者症例を検討したかを記述している。

最初の研究は、乳癌と卵巣癌の治療に関連するとみられる白血病で死亡した42歳女性に焦点をあてた。女性に既知の癌の家族歴はなく、乳癌関連遺伝子BRCA1/2変異検査は陰性であった。しかし癌細胞と正常細胞のゲノムの比較で、TP53遺伝子内に、コードするタンパク質の機能を変化させる新たな変異が明らかになった。TP53遺伝子変異は、若年性乳癌や卵巣癌など多くの癌およびリ・フラウメニ症候群に関連づけられている。

TP53変異は患者の親から遺伝したものではないようである。変異は正常細胞と癌細胞の両方で見られたため、患者の生命のごく初期、おそらく受精時に生じたに違いないと考えられた。したがって、変異は生殖細胞DNAに存在し子どもたちに伝えられた可能性があると、研究者らは指摘した。

臨床試験計画に従い、研究者らが女性のかかりつけ医に連絡したところ、医師はこの事実について患者の家族と話し合い、遺伝相談を受けるよう勧めた。「患者は死亡したが、本研究への彼女の貢献により新しい知見が得られ、今後、彼女の子どもたちの命が助けられるかもしれない」共著者でありワシントン大学ゲノム研究所のDan Koboldt氏は自身のブログMassGenomicsへの 投稿で、研究についてこのように記した。

2番目の研究は、ある種の急性骨髄性白血病(AML)の39歳女性を対象に行われた。腫瘍細胞と正常細胞のDNAの比較により、血液細胞中に通常の細胞遺伝学的検査で検出されなかった2つの遺伝子の融合が明らかになった。この融合遺伝子の存在は化学療法後の良好な転帰と関連する。したがって患者の医師は、標準的な診断検査結果で示された治療法である幹細胞移植ではなく化学療法を勧めた。

発表時点で、女性の寛解期間は15カ月に達していた。融合遺伝子の配列決定、分析、確認にちょうど7週間を要したが、これは医師が患者に最も有効な治療法を選択するために情報を利用する上で十分迅速といえると、研究者らは指摘した。

「これらの個別化ゲノム医療の症例は、近い将来一般的になるであろうまさに最初の例である」と付随論説の著者は記述した。

「明らかに、これらのツールを広範に臨床使用する上で、技術的な問題はもはや主要な妨げではなくなり、主要な課題はゲノムデータの臨床への導入と解釈に移るであろう」と著者らは付け加えた。

C型肝炎ウイルスの肝細胞への侵入を助けるタンパク質を同定

C型肝炎ウイルス(HCV)が細胞に侵入するのを助ける肝細胞表面の2つのタンパク質が特定された。ウイルスの侵入はウイルス感染の最初の段階であり、肝疾患を引き起こし肝癌リスクを高める。両タンパク質は受容体チロシンキナーゼと呼ばれる種類の分子である。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と呼ばれる抗癌剤は特定されたタンパク質の作用を遮断し、疾患の実験モデルでHCV感染を抑制したと、ストラスブール大学(フランス)のDr. Joachim Lupberger氏とDr. Mirjam B. Zeisel氏が率いる研究者らが報告した。結果は4月24日付Nature Medicine誌電子版で公表された。

ウイルスが侵入に利用する肝細胞タンパク質を特定するために、研究者らは最初に阻害作用をもつ低分子RNAを用いて、いくつかのキナーゼタンパク質をひとつひとつ遮断していった。その結果、2つのタンパク質—上皮成長因子受容体(EGFR)とエフリン受容体A2(EphA2)—の発現を阻害すると、HCV粒子の細胞への侵入が止まることを発見した。

2つの承認されたTKIである、エルロチニブダサチニブはそれぞれEGFRとEphA2を阻害する。肝細胞をこれらの薬剤で処理すると、HCVの侵入が妨げられた。EGFRを阻害する他の2つのTKI、ゲフィチニブラパチニブも同様の作用を示した。HCVの細胞間伝播を調べる実験で、エルロチニブとダサチニブは感染細胞からのウイルスの広がりを最長2週間(実験期間)阻止した。

EGFRおよびEphA2で制御される細胞シグナル伝達ネットワークのさらなる研究で、HCVの細胞への結合にこれらのタンパク質は必要ではないらしいことが示された。その代わり、ウイルスの細胞への侵入能に関与するようである。HCV感染のマウスモデルで調べたところ、エルロチニブはウイルス感染のレベルを著しく低下させ、かつ忍容性が良好であった。

慢性肝炎の感染は肝癌の最も多い原因の一つであり、現在の治療法は不十分である。これらの知見は初期段階であるが、受容体チロシンキナーゼを標的にすることが、曝露後のHCV感染からの防御および既存のHCV感染治療に対する新たな方法を提供するであろうと著者らは示唆している。

 

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栃木 和美、榎 真由 訳

原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)、寺島 慶太(小児科/テキサス小児病院)監修

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