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OncoLog 2014年2月号◆新アプローチ(免疫チェックポイント/PD1標的療法)による進行期メラノーマ治療の画期的な進歩

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OncoLog 2014年2月号◆新アプローチ(免疫チェックポイント/PD1標的療法)による進行期メラノーマ治療の画期的な進歩

MDアンダーソンがんセンター月刊OncoLog誌2014年2月号

MDアンダーソン OncoLog 2014年2月号(Volume 59 / Number 2)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

新アプローチ(免疫チェックポイント/PD1標的療法)による進行期メラノーマ治療の画期的な進歩

最近になって免疫療法および分子標的療法が飛躍的に進歩したことによって、進行期メラノーマ患者の転帰が改善した。

 

ここ数十年間、進行期メラノーマ患者の生存期間中央値は1年に満たないままであった。しかし、新たに利用可能となる治療法によって、この癌の患者の将来の見通しが少し明るくなると期待される。

 

研究者らが開発したのは、メラノーマによるT細胞の不活化を防ぐ免疫療法、腫瘍細胞の発癌経路を遮断する標的薬の併用療法、そして癌を破壊してその再発も防ぐことを目的とした集学的アプローチである。MDアンダーソンがんセンターのメラノーマ腫瘍内科長で教授のPatrick Hwu医師は、「刺激的な時期です。10年前、治癒が可能なのは進行期メラノーマ患者の約5%でしたが、今では治療に使える可能性のあるものがかなり多くなり、このような患者の20%〜25%にきわめて良好な効果を得られるようになりました。また、今後数年で奏効率をさらに上げ、効果の持続期間を延ばすことができると考えています」と述べた。

 

免疫チェックポイント阻害剤

メラノーマをはじめ癌は、複数の方法でT細胞の自己制御機構を破壊することができる。効果的なT細胞の応答には2つの信号が必要である。まず、抗原提示細胞の抗原がT細胞上のT細胞受容体に結合する。そして、CD28と呼ばれるT細胞上の分子がB7と呼ばれる抗原提示細胞上の分子と相互作用する。この二重信号が、T細胞によって健常組織ではなく確実に抗原を攻撃するのに役立つ。健常な細胞を保護して非特異的なT細胞の活性化を最小限に抑える手段のひとつとして、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)と呼ばれる活性化したT細胞の表面に発現する分子をCD28の代わりにB7と結合させてT細胞の活性化を停止することができる。この機能によってT細胞も非活性化されるため、抗腫瘍免疫療法にとって大きな障壁となっている。

 

癌への応答としてのT細胞の活性化を維持するために、当時のカリフォルニア大学バークレー校教授、現在はMDアンダーソン免疫学学部長で教授のJames Allison博士を筆頭とする研究者らが、CTLA-4に高い親和性を示すipilimumab[イピリムマブ]と呼ばれる抗体を作成した。イピリムマブがCTLA-4に結合すると、B7とCD28の相互作用が持続するため、T細胞の活性化および抗腫瘍免疫応答につながる。この介入は、免疫チェックポイント阻害と呼ばれる新しいタイプの免疫療法の最初のものであった。

 

2011年の米国食品医薬品局(FDA)によるイピリムマブの承認につながった第3相試験では、転移期メラノーマ患者を体重1キロあたり3mgのイピリムマブを3週間ごとに最大4回治療したところ、55カ月後のフォローアップで全奏効率が10.9%であったが、メラノーマペプチドワクチンによる治療を受けた患者では全奏効率が1.5%であった。MDアンダーソンの治験用新薬利用範囲拡大制度によって進行期メラノーマ患者がイピリムマブ 10 mg/kgによる導入療法を3週間ごとに計4回(また適格であれば3カ月ごとの維持療法を継続)を受け、導入療法後、患者の14%に完全奏効、さらに2%に部分奏効が認められた。

 

イピリムマブの初期奏効率は、進行期メラノーマの以前の標準治療薬であるダカルバジンおよびインターロイキン-2(IL-2)と同等であった。一方、イピリムマブの効果は持続性が大幅に高い。イピリムマブによる進行期メラノーマ治療に関するMDアンダーソンの経験では、この薬剤が奏効したメラノーマ患者の5年全生存率が80%であった。「化学療法では、癌の不活性な部分が破壊されずに残った場合、腫瘍が再び成長することがあります。免疫療法では、癌の残留物があれば免疫系が認識できるようになるため、完全奏効は治癒を意味します」とメラノーマ腫瘍内科教授のWen-Jen Hwu医学博士は話している。

 

イピリムマブの毒性作用で最も多いのは、大腸炎、重症の皮膚剥離を起こすこともある発疹、頭痛や視力障害、ホルモンのさまざまなレベルに変化を生じる下垂体炎である。

 

もう一つの重要な免疫チェックポイントが、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)とそのリガンドであるPD-L1の間の経路である。活性化したT細胞とB細胞の表面にはPD-1が発現し、抗原提示細胞の表面にはPD-L1が発現する。T細胞上のPD-1とPD-L1間の相互作用によってT細胞が活性を失う。メラノーマの40%をはじめ多くの癌が、PD-L1発現によるT細胞の抗腫瘍監視を妨害する。PD-1とPD-L1の相互作用は、癌の免疫寛容につながる重要な機構であり、この相互作用を遮断すれば抗腫瘍監視機構が回復する可能性がある。

 

癌細胞によるT細胞の抑制に対抗するために、PD-1とPD-L1を標的とする抗体が開発された。Wen-Jen Hwu氏は現在、切除不能または遠隔転移のあるメラノーマ患者に対する抗PD-1抗体ニボルマブ治療の第2相試験を主導している。また、Hwu氏が主導する進行中の第1相試験では、進行期メラノーマの治療に抗PD-1抗体MK-3475が用いられている。同氏によれば、「両試験の初期データが、免疫治療薬としては先例のない奏効率と奏効期間を示しています」。

 

PD-1経路阻害剤とイピリムマブの顕著な差が毒性である。メラノーマ腫瘍内科の研究員Srisuda Lecagoonporn看護師の話では、「抗PD-1と抗PD-L1はイピリムマブよりも穏やかで、毒性作用はそれほど厳しくありません。患者さんからみれば、抗PD-1と抗PD-L1が好ましいです」。PD-1阻害によって最もよくみられる有害事象が肝酵素濃度の上昇と間質性肺炎であり、息切れや咳を起こすことがある。

 

標的療法

メラノーマに対しては、特定の遺伝子変異を標的とした治療も有望である。例えば、BRAF遺伝子変異はメラノーマの50%近くに認められている。BRAFタンパク質生成の阻害剤は、次の2種がメラノーマ治療に対してFDA承認を受けている。Vemurafenib[ベムラフェニブ:以前はPLX4032と呼ばれた]は2011年に転移性メラノーマへの使用が承認され、dabrafenib[ダブラフェニブ:以前はGSK2118436]は2013年にBRAF遺伝子変異陽性のメラノーマへの使用が承認された。これらの阻害剤はどちらも、転移性メラノーマでBRAF遺伝子変異陽性の患者に対する臨床的な奏効割合が約50%に認められた。

 

2013年にBRAF遺伝子変異陽性メラノーマに対して承認された標的薬には他に、MAP キナーゼ経路でBRAFの下流にあり、BRAFにより活性化されるMEKキナーゼを阻害するtrametinib[トラメチニブ]がある。直接比較臨床試験において、BRAF遺伝子変異陽性の進行期メラノーマの患者においてトラメチニブは化学療法と比較して有意な生存の延長を示した。残念ながら、標的療法では高い奏効割合が得られるものの、その効果は通常長続きしない。BRAF阻害剤で治療したメラノーマは平均して5~6カ月で抵抗性を獲得し、薬剤に抵抗性とならないまま12カ月に到達する症例は10%未満である。抵抗性を獲得した組織の解析から、薬剤抵抗性の機序とそれを乗り越えるための理にかなったアプローチが次第に明らかとなってきた。

 

MDアンダーソンメラノーマ腫瘍内科准教授Michael Davies医学博士は次のように述べる。「さまざまな結果が得られ、われわれは治療法を併用するようになりました。ひとつの変異を標的としていてはだめで、複数の標的を同時に遮断して臨床での有用性を最大に、長期的に得なければなりません。例えば、BRAF阻害剤に対する抵抗性を起こす分子変化の多くは、MAPキナーゼ経路を再活性化することによります。これがMAP キナーゼ経路を2カ所で遮断するためにBRAF阻害剤とMEK阻害剤を併用する根拠となりました」。実際に、BRAF阻害剤ダブラフェニブとMEK阻害剤トラメチニブの併用により、75%というすばらしい臨床的奏効割合(腫瘍直径が30%以上縮小)が示され、初期病勢コントロール割合は100%であった。さらに、併用療法により平均奏効期間はほぼ倍となった。1年間の治療後、併用療法で治療した患者の40%は生存しており、治療効果が継続していた。これはBRAF阻害剤のみで治療した患者で認められた効果の4倍を超える。

 

通常、抗癌剤を併用すると毒性が高まる。しかし、驚いたことに ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法は、いずれかの薬剤を単独で用いる場合と比較して毒性が低かった。それぞれの薬剤単独では著しい皮膚毒性が発現することが多く、ダブラフェニブやその他のBRAF阻害剤は、患者の25%近くで皮膚扁平上皮癌を発症する。これらの扁平上皮癌の多くはRAS遺伝子に活性化変異を有していた。「正常皮膚細胞にRAS遺伝子変異があると、BRAF阻害剤によりMAPキナーゼ経路にParadoxical activation(逆説的な活性化)とよばれる効果が生じて、細胞が速く増殖するのです」。Davies博士は述べる。「この効果は扁平上皮癌を増殖させ、この効果によりBRAF阻害剤がBRAF遺伝子に活性変異を有するメラノーマ患者にのみ使用される理由にもなっています」。

 

しかし、トラメチニブなどのMEK阻害剤は、腫瘍細胞とParadoxical activationを起こした正常細胞の双方のMAPキナーゼ経路を遮断する。この効果の結果、扁平上皮癌が発現する頻度は、ダブラフェニブ 単独療法で治療した患者での20%からダブラフェニブとトラメチニブの併用療法での5% 未満に低減した。さらにDavies博士はつけ加える。「この併用療法は、皮膚発疹の発現頻度と重症度も低減します」。ただし、併用療法には皮膚毒性に関する有用性がある一方で、発熱や視覚障害など他の副作用もある。

 

また、脳転移した患者は臨床試験から除外されることが多く、化学療法に対する奏効割合も低いが、この分子標的療法は脳転移を有する患者にも有効である。MDアンダーソンでは、脳転移したメラノーマ患者を対象としたこれまでで最大規模の臨床試験において、ダブラフェニブ治療を受けた患者の脳腫瘍の約40%に奏効が認められた。さらに、数カ月以内に開始される予定の別の2試験において、BRAF遺伝子変異陽性かつ脳転移したメラノーマ患者 がダブラフェニブ単独療法またはダブラフェニブとトラメチニブの併用療法を受ける予定である。1試験は切除不能の脳転移を有する患者のみを対象とし、もう1試験は脳転移巣の外科切除が予定されている患者のみを対象としている。

 

これらの新規標的療法に対する反応が長期継続するかどうかはまだ結果が得られていない。Davies博士は次のように述べる。「転移性メラノーマ患者にダブラフェニブとトラメチニブを組み合わせて治療できる患者集団があるかどうか述べるのは時期尚早です。これらの臨床試験から長期間追跡データが得られ、結果が判るのを待っています」。

 

併用療法アプローチ

標的療法と免疫療法を併用すれば、それぞれ単独での治療法よりもよい転帰が得られると仮定されてきた。この考えは一部、BRAF阻害剤は癌の増殖を遅らせて癌細胞を破壊するだけでなく、免疫系にメラノーマを認識しやすくするという知見に基づく。また、これらの異なる治療法は互いに補完的に働くことがある。Patrick Hwu博士は述べる。「最高品質の標的療法と免疫療法を併用して、願わくは奏効割合が高くかつ長期間持続する反応を得たいですね」。これらの根拠により、BRAF阻害剤と高用量IL-2のボーラス投与、イピリムマブ、抗PD-L1抗体などの免疫療法を組み合わせる新規の臨床試験が開始された。

 

他にも、養子T細胞移入療法とよばれる方法で、T細胞をIL-2と共に刺激を与えて増殖させるアプローチもある。Patrick Hwu博士は次のように述べる。「腫瘍内に存在し、腫瘍を殺傷しようとしてできなかったT細胞を採取して体外で大量に―何十億にも―増殖させてから、IL-2とともに体内に再注入します。これまでに約80人の転移性メラノーマ患者に本治療を行い、その約半数に良好な奏効が認められました。そして重要なことは、その反応の多くは長期間継続するのです―奏効が認められた患者の中には、5年間続けて病巣がみられなくなった患者もいます」。養子T細胞移入療法にIL-2を加える方法を適用する患者の要件には、反応性が高く腫瘍特異的なCD8陽性T細胞を有している、腫瘍の生検組織を外科的に得られる、そして高用量IL-2への忍容性が挙げられる。進行中の臨床試験において、養子T細胞移入療法とT細胞ブースタ―ワクチンや免疫チェックポイント遮断薬との併用療法も検討されている。

 

「最終的には、これらの治療方法を組み合わせることが必要だと思います」Hwu博士は述べる。「ですが、毒性が現れないような方法で組み合わせなければならず、かつ互いの効果を打ち消し合わないことを確認する必要もあります―例えば、標的療法の中には免疫系を障害する可能性があるものもあります。これらの治療法を、患者が長期生存できる機会を最大にするように組み合わせ、順序を決定する方法を見つけ出さなければなりません」。

 

Davies博士は、これらの進歩を実用化して最良の効果を得るにはさらに検討が必要であることを認めている。「われわれが転移性メラノーマ患者の治療開発の改革の真っただ中にいることははっきりしています。多くの進歩が得られた一方で、この数年に得られた進歩の可能性を最大限に引き出すにはいまだ多くの課題が残されています」。

 

— Sarah Bronson

【画像キャプション訳】
[上段]抗PD-1抗体MK3475(10mg/kgを3週間ごと)による治療を受けたイピリムマブ難治性メラノーマ患者の治療前(一番左)、1サイクル後、3サイクル後の状態

[中段]抗PD-L1抗体による治療を受けた患者(83歳)の小腸および腸間膜にある転移性メラノーマ病変(円囲み)の治療前(一番上)、6、12、32 週間後の断層画像。患者は治療を中止して2年後に心不全のため死亡するまで完全寛解を維持した

 

【引用部分訳】
[中段]「10年前、治癒が可能なのは進行期メラノーマ患者の約5%でしたが、今ではこのような患者の20~25%にきわめて良好な効果を得られるようになりました。」– Patrick Hwu博士

[下段]「転移性メラノーマ患者の治療開発は、今改革の真っただ中だ」
– Michael Davies博士

 

 

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原文掲載日

翻訳ギボンズ京子、石岡優子

監修原野謙一(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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