[ 記事 ]

癌ゲノムアトラス(TCGA)、急性骨髄性白血病(AML)の有力な標的マーカーを同定-ゲノム上の変異が少ないことを発見/NCIプレスリリース

  • 2013年5月27日

    投稿 2013年5月1日

    NCIプレスリリース

    癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)研究ネットワークの研究者らが、致死性の高い血液および骨髄の癌である急性骨髄性白血病(AML)発生の原因となりやすいゲノム変化を詳細に検討し、大まかな分類を行った。この研究により、成人に発生する他の癌種と比較してまれな変異を特徴とする癌の実態が明らかとなった。また、AMLでは、遺伝子の発現に影響するエピジェネティックな変化(DNA塩基配列の変化を伴わないゲノムの化学変化)を引き起こす遺伝子変異の影響を強く受けることも明らかとなった。TCGAは、どちらも米国国立衛生研究所の一部である米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)と米国国立癌研究所(NCI)が共同で支援、運営している。

    New England Journal of Medicine誌の2013年5月1日電子版に掲載されたこの研究により、AMLに対する新薬の標的候補と治療方針を特定する土台が整った。また、個々の患者の疾患の重症度を予測するガイダンスも改善された。

    「この結果は、致死性が高く治療が難しい癌のゲノムに関する重要な新たな洞察を与えてくれ、癌ゲノムアトラスプロジェクトの実力と範囲を際立たせました」と、NIH所長Francis S. Collins医学博士は述べた。

    「個々の患者からのばらばらのスナップショットだけではなく、この研究によりAMLにおけるゲノム異常をかつてないほど詳しく知ることができました」とNHGRI所長Eric D. Green医学博士は述べた。「この研究により、AML研究の新しい道が切り開かれる可能性があり、そしておそらく、新しい治療法も開発されるでしょう。研究の成果が感じられるのはもうすぐかもしれません」。

    AMLは急性の成人白血病の中では症例数が最も多く、未成熟の白血球が成熟せずに骨髄内に蓄積することで発症する。白血病細胞により、健康な血球生成が抑制されて、貧血、異常出血、および感染症につながり、治療せずに放置すると死に至る。

    新規に診断された自然発生成人AML症例200人から採取した癌検体のゲノムを調べた。これらの症例には、AMLの既知のサブタイプすべてが、一般集団とほぼ同じ割合で含まれている。そのため、本研究は、疾患、特にゲノム変化の数や頻度について現実的な観点を示す。各AMLゲノムを、同じ患者から採取した正常皮膚細胞と比較した。200検体中50検体は、細胞の完全なDNA設計図である全ゲノム配列を決定し、他の検体では、ゲノムのタンパク質コード領域を分析し、処理能力の高い新配列決定法を用いて各検体のRNA変異も調べた。

    多数のAML症例を検討することで、AML患者の5%以上に認められる変異は、ほぼ全て特定できたと考えられる。驚くことに、AMLゲノムには全体的に変異が比較的少なく、成人に発生する癌の中では最も変異が少ない癌の一種であることがわかった。各AMLゲノムにおける遺伝子変異数の平均は13種であり、数100種類もの変異が認められることが多い乳癌、肺癌、および膵臓癌などの固形癌とは対照的であった。

    200検体のいずれかで変異が認められた遺伝子が1,600を超えたため、よく変異する遺伝子を、遺伝子のもつ機能や関与している経路に基づき9種類に分類した。その分類には、腫瘍抑制遺伝子、シグナル遺伝子、エピジェネティック修飾遺伝子などがあり、検討した中で最も変異が多いのはエピジェネティック修飾遺伝子であった。エピジェネティックな変化とは、DNAの化学的修飾(メチル基など)の付加や除去などが関与することが多く、遺伝子がいつ活性化/不活化するかに影響する。

    「このデータセットは、断片的だった情報をまとめるのに役立ちます」 本研究の共同リーダーであるセントルイス、ワシントン大学医学部ゲノム研究所副所長Timothy J. Ley医師は述べる。「われわれは、よく起こる変異の種類がこれほど少ないことを理解しておらず、AMLがエピジェネティック修飾因子をコードする遺伝子の高頻度の変異と関連しているとは、5年前でさえ誰も考えていませんでした」。

    遺伝子変異は比較的少ないものの、遺伝子の発現制御に関与する遺伝子の変化が多いことを見出したことで、研究対象を薬物の標的候補と疾患マーカーに狭められた可能性がある。

    他にも、多少驚くべき結果が得られた。AMLにおいては、細胞の増殖や分化の制御に関与するシグナル伝達遺伝子に変異が多いことが知られており、AML検体にはすべて何らかのシグナル伝達遺伝子の変異があると考えられていた。しかし、TCGAの研究結果ではシグナル伝達遺伝子の変異は全例の60%にしか起こっていなかった。この中には、FLT3遺伝子変異があり、これは全例の3分の1に認められ、AMLの遺伝子変異の中では最も多い変異のひとつであった。FLT3は血液細胞の正常な分化に重要である。また、AML患者の多くで、よく変異する3種の遺伝子FLT3NPM1DNMT3Aが同時に変異していることもわかった。複数の遺伝子変異を有する患者では、独特のAMLサブタイプが認められるようである。

    細胞分裂に重要なコヒーシン遺伝子が良く変異することは意外であった。

    本研究は、AMLにおいてマイクロRNA(microRNA)遺伝子の変異が頻発するという初めての報告である。マイクロRNAは、遺伝子発現の制御、特に遺伝子活性のオフに重要な役割を担う。

    AML患者の診断および予後情報には、異常な染色体再配列および遺伝子融合(2種の遺伝子が結合して別の新たな遺伝子を形成)が役立つことが多い。本研究により、これまで報告されていなかった多くの融合が明らかとなり、AML検体の半数近くに遺伝子融合が認められた。

    現在、中等度のリスクを有するほとんどの患者の治療方針決定に役立つマーカーはごくわずかしか存在しない。本研究で特定したよく変異する遺伝子により、AML患者のより正確な予後予測ができる可能性がある。

    「AMLに関してここまでの完全な全体像はかつてなく、今後何年間かは、このデータセットの情報が利用されるでしょう」と、本研究の共同リーダーであるワシントン大学ゲノム研究所所長Richard Wilson博士は述べる。「この知見により、おそらく修飾―そしてことによると新薬が有用となり得る全ての経路が特定されました。さらに、疾患分類及び予後予測に対する各変異の重要性の理解が深まり、よりよい疾患モデルの確立にも役立つでしょう」。

    「この結果により、研究者らは患者検体の変異パターンと影響を受ける経路を調べることができ、この遺伝子変異と治療結果の関連を解明しようとする新規研究も開始できるでしょう」とLey氏は付け加えた。

    「AMLに関する本研究により、種々の癌や、AMLのような単一の癌のゲノムの多様性の研究に用いているアプローチの価値が強固なものとなります」とNCI所長Harold Varmus医師は指摘する。「AMLにおいて遺伝子発現や細胞形質の変化に至る遺伝子変異の明確な重要性など、明確なパターンを明らかにしてこられたのは、癌の種類に対するこのような系統的な分析だけです」。

    今までに、TCGA研究ネットワークは以下の癌に関する分析結果を発表している。

    多形性膠芽腫 (http://cancergenome.nih.gov/newsevents/newsannouncements/news_9_4_2008

    卵巣漿液性腺癌 (http://cancergenome.nih.gov/newsevents/newsannouncements/ovarianpaper

    結腸直腸腺癌 (http://www.cancer.gov/newscenter/pressreleases/2012/TCGAcolorectal

    肺扁平上皮癌 (http://www.cancer.gov/newscenter/newsfromnci/2012/LungSquamousTCGA

    浸潤性乳癌 (http://cancergenome.nih.gov/newsevents/newsannouncements/breastserovca

    本研究は、以下の助成を受けている。

    U24CA143845、U24CA143858、U24CA144025、U24CA143882、U24CA143866、U24CA143867、U24CA143848、U24CA143840、U24CA143835、U24CA143799、U24CA143883、U24CA143843、U54HG003067、U54HG003079、U54HG003273、P01CA101937。

    出典:「The Cancer Genome Atlas Network. Genomic and epigenomic landscape of adult de novo acute myeloid leukemia」New England Journal of Medicine誌2013年5月1日電子版掲載、2013年5月30日発行予定の誌面は印刷中。
    DOI: 10.1056/NEJMoa1301689.

    原文

    ******
    石岡優子 翻訳
    榎 真由(薬学) 監修
    ******

    【免責事項】

    当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。
    翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

    関連記事