DNA欠失は発癌を促進するが、付随的な損傷により癌が脆弱になる/MDアンダーソンがんセンター | 海外がん医療情報リファレンス

DNA欠失は発癌を促進するが、付随的な損傷により癌が脆弱になる/MDアンダーソンがんセンター

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DNA欠失は発癌を促進するが、付随的な損傷により癌が脆弱になる/MDアンダーソンがんセンター

必須遺伝子を不活化するパッセンジャー欠失が、癌を攻撃する新たな機会をもたらす

MDアンダーソンニュースリリース

2012年8月15日

遺伝子欠失により癌抑制遺伝子が切断又は除去されて、発癌が促進されるが、今回、隣接する遺伝子に与える付随的な損傷により癌細胞が脆弱になることがNature誌に報告され、癌を攻撃する新たな道筋が示された。

ハーバード大学医学部ダナファーバー癌研究所とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、致死性の高い脳腫瘍である多形神経膠芽腫の細胞株を用いて、腫瘍の代謝に不可欠な遺伝子に付随的な欠失が生じると、重複して同じ機能を持つ別の遺伝子の阻害により、悪性細胞を死滅させられることを見出した。

「癌を促進する欠失は腫瘍を抑制する因子を不活化します。不活化した遺伝子の機能を回復させたり代替する試み、あるいはそれを癌細胞への攻撃に向ける試みは、まだ有望な結果を示していません」と、共著者のFlorian Muller氏(MDアンダーソンゲノム医学部門講師、Ph.D)は述べた。

パッセンジャー欠失‐標的治療の新たなアプローチ

「本研究で、パッセンジャー欠失、すなわち癌抑制遺伝子と共に欠失するが、発癌に直接関与しない遺伝子の欠失に目を向け、潜在的な標的や治療法を特定する出発点としました」と、Muller氏は述べた。

1番染色体の代謝遺伝子ENO1が両コピー共欠失した神経膠芽腫細胞は、同時に7番染色体上のENO2の機能を阻害すると、死滅した。両遺伝子は解糖系(グルコースをエネルギーに変換する過程で、特に固形腫瘍で重要)で重要な段階の酵素エノラーゼをコードする。細胞は、ENO1又はENO2のいずれかが欠損しても耐えられるが、両方欠損すると生存できない。

「重複する必須遺伝子のパッセンジャー欠失に付随する脆弱性の原理が、潜在的な標的を特定し、標的治療を開発する新しいアプローチの基礎になります」と、MDアンダーソン総長で、本論文の統括著者であるRonald DePinho氏(M.D)は述べた。

「このような欠失は、多くの癌で数百の遺伝子に認められていますので、多形神経膠芽腫に対するわれわれのモデルを、他の癌の個別化治療の開発にも適用すべきです」と同氏は言う。

変異により増幅したり、機能しなくなった活性型の癌促進遺伝子を阻害する分子標的治療の研究が頻繁に行われているのとは対照的に、腫瘍細胞で機能に関わる遺伝子の欠損を標的にする研究は少ない。

ENOの発見

腫瘍抑制遺伝子の機能を失わせるDNA欠失は、他の多くの隣接遺伝子に影響を及ぼす大きな事象となる傾向がある。「ほとんどの代謝遺伝子は2つあり、互いに補完しています」とMuller氏は述べた。仮説:欠失により1つの必須遺伝子の両コピーが不活化して脆弱性が生じると、2番目の遺伝子を不活化することにより癌を治療できる可能性がある。

多形神経膠芽腫の癌ゲノムアトラスの調査で、ENO1を含むさまざまな候補が得られた。ENO1は1番染色体上にあるが、そこにはいくつかの候補となる腫瘍抑制遺伝子が存在する。神経膠芽腫の1~5%及び稀ではあるが他の癌でも、染色体のこの部分が欠失している。

哺乳類では、すべての組織でENO1、神経細胞でENO2、筋細胞でENO3にコードされたエノラーゼが発現している。理論的には、ENO1が欠失していれば、ENO2を阻害することにより、両方の遺伝子を持つ正常な脳細胞を損傷することなく神経膠芽腫細胞の増殖を妨げることができるであろう。

shRNAによるENO2のノックダウンが仮説を確認

2番目の著者でゲノム医学部門講師のSimona Colla氏(Ph.D.)と、ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学の学生Elisa Aquilanti氏が実施した研究では、低分子ヘアピンRNAを用いて、ENO1を欠失しているか無傷のENO1を有する神経膠芽腫細胞株のENO2をノックダウンした

ENO2のノックダウンは、

・無傷のENO1を有する神経膠芽腫細胞には影響を及ぼさなかった。

・ENO1を欠失した神経膠芽腫細胞の増殖を顕著に阻害し、マウスの脳に注入すると腫瘍形成能を完全に失わせた。

予想どおり、ENO1欠失神経膠芽腫細胞で、shRNA抵抗性ENO2を発現させる、またはENO1を人為的に発現させることにより、増殖を回復させることができた。

「ENO1を欠失した細胞では、バックアップ機能がなくなっています。そこで、遺伝子特異的なshRNAでENO2を叩き、エノラーゼがない状態にすると、細胞は生存できません」とMuller氏は述べた。

エノラーゼ阻害剤は、ENO1欠損癌細胞に選択的な毒性を示す

ENO1は全エノラーゼ活性の75~90%を占めるため、ENO1欠失神経膠芽腫細胞では、ENO1が無傷の癌細胞や正常な非癌細胞より全エノラーゼ活性がはるかに低い。ENO1欠失細胞ではすでに酵素が不足しているので、解糖系を阻害し毒性域に達するのに、低用量の低分子エノラーゼ阻害剤で十分であろうと研究者らは考えた。

エノラーゼ阻害剤ホスホノアセトヒドロキサメート(PHAH)は、無傷のENO1を有す癌細胞や正常なヒト脳細胞に対してはほとんど影響を及ぼさないのに対し、ENO1欠失癌細胞に高い毒性を示すことが明らかになった。ENO1を人為的に発現させると、このPHAHの作用(毒性)は認められなくなくなった。

PHAHはヒトでの使用が承認されておらず、構造からすると組織や腫瘍に入りそうにないとMuller氏は述べた。研究者らは、MDアンダーソンの応用がん科学研究所などと協力して、潜在的な薬剤開発に取り組んでいる。

他のパッセンジャー欠失や他の癌に適用できる概念

ENO1欠失は神経膠芽腫患者のごく一部にのみ生じているが、パッセンジャー欠失は癌ゲノムできわめて頻繁に認められ、ほとんどの癌に生じると、研究者らは指摘した。細胞の生存に重要な遺伝子はENO1/ENO2と同様の形で重複していることが多いため、付随的な致死という概念をENO1以外のパッセンジャー欠失にも適用できるであろう。

本研究はボストンのダナファーバーで開始され、DePinho氏が昨年9月にMDアンダーソンの総長に就任後、MDアンダーソンで継続された。

本研究は米国国立衛生研究所の国立癌研究所(CA95616-10、CA009361)、アメリカ癌協会、ハワード・ヒューズ医学研究所より助成金を受けた。さらに、ハーバードPRISE研究奨励制度、ダナファーバーがんセンター/ハーバードがんセンター骨髄腫SPORE、ベンおよびキャサリン・アイビ基金の援助を受けた。

DePinho、Muller、Colla、Aquilantiの共著者はGiannicola Genovese(M.D)、Pingna Deng(M.D)、Luigi Nezi(Ph.D)、Baoli Hu(Ph.D)、Jian Hu(Ph.D)、Derrick Ong(Ph.D)、Eliot Fletcher-Sananikone、Lawrence Kwong(Ph.D)、Y. Alan Wang(Ph.D)、Lynda Chin(M.D)(MDアンダーソン・ゲノム医学部門と前ダナファーバー癌研究所所属)およびVeronica Manzo、Jaclyn Lee、Daniel Eisenson、Rujuta Narurkar、Michelle A. Lee(M.D、Ph.D)、Ergun Sahin(M.D、Ph.D)、Dennis Ho(Ph.D), of Dana-Farber Cancer Institute; and Cameron Brennan(M.D)(ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンター所属)である。

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金田澄子(薬学) 監修                                         
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原文

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