化学療法薬がどのように心不全を引き起こすか、その手がかりが明らかとなった/MDアンダーソンがんセンター | 海外がん医療情報リファレンス

化学療法薬がどのように心不全を引き起こすか、その手がかりが明らかとなった/MDアンダーソンがんセンター

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化学療法薬がどのように心不全を引き起こすか、その手がかりが明らかとなった/MDアンダーソンがんセンター

ドキソルビシンの心毒性に関する詳しい研究結果が致死的合併症を予防する可能性。バイオマーカー試験が開始。
MDアンダーソンがんセンター
2012年10月28日

50年来の化学療法薬であるドキソルビシンは様々な癌種でいまだに幅広く使用されているが,一部の患者においては腫瘍のみならず心臓組織まで破壊することが長い間知られている。

科学者らは、薬剤による心筋傷害を促す酵素Top2bの予想外のメカニズムを確認し,ドキソルビシンを使用可能な患者の同定ならびに新薬開発に関する新アプローチを示した。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの科学者らが主導するチームが,このDNA傷害性のある薬剤に関する知見をNature Medicine誌に本日発表した。

「この分子標的治療の時代においてさえ、ドキソルビシンは様々な悪性腫瘍、すなわち乳癌、肺癌、卵巣癌、膀胱癌や白血病、リンパ腫などに対して他の薬剤と併用して用いられることが多い有効な薬剤です」と、M.D.アンダーソンがんセンターで循環器科部長を務め、本研究の上席著者でもあるEdward T.H.Yeh,M.D.教授は述べた。

「しかし心不全につながる心毒性があるため、その使用は限られています。ドキソルビシンの心臓傷害に関する分子的機序を解明し、大変うれしく思っています」と、Yeh氏は述べた。

2つの酵素
ドキソルビシンは細胞分裂の際にDNAのもつれを解く働きをするトポイソメラーゼ2(Top2)に結合する。

Top2には2種類あるとYeh氏は述べた。Top2aは癌細胞で過剰産生されるが、正常細胞にはほとんど見られない。Top2bはその逆で、癌細胞では事実上見られないが、正常細胞には存在する。

ドキソルビシンはTop2aとDNAに結合し、二本鎖DNA切断という修復不能なダメージを与えることにより癌細胞を死に導く。これにより、欠陥細胞の成長を阻止するための細胞死メカニズムであるアポトーシスが開始される。

Yeh氏らはこの薬剤が心筋細胞でTop2bに結合するが、薬剤は癌細胞を攻撃するのとは別のやり方でダメージを与え、さらにそれは心臓傷害の原因として長年考えられてきたことと矛盾しないことを発見した。

以前からの疑惑:活性酸素種
酸素を含有する高活性分子の活性酸素種(ROS)の増加がドキソルビシン治療後に認められる。ROSは代謝による正常副産物であるとともに別の役割をもつが、高値になると酸化的ストレスと呼ばれる細胞傷害を引き起こす。

酸化還元サイクル(酸化や還元をもたらす電子交換)によるROSの心筋細胞傷害が、ドキソルビシンによる心毒性の原因という仮説があった。しかし直接的にROS値を減少させる治療法では心臓傷害は抑制されなかった。

「私どもは従来の観察結果に関し、ドキソルビシンがROSを大量に作り出すためであると説明しますが、心毒性カスケード全体はTop2bによるものと考えます」とYeh氏は述べた。

実験
チームは、タモキシフェン治療によりTop2b遺伝子が心筋においてのみノックアウトされるという誘導マウスモデルを作成した。以下のことが明らかにされた。

・Top2bタンパク値はノックアウトマウスの方がずっと低値であった。
・Top2bは心臓の正常機能のために必要ではない。遺伝子のないマウスは良好な健康状態で10か月以上生存した。

次いで彼らはTop2bのあるマウスとないマウスをドキソルビシンで治療し、16時間後にマウスの心臓を分析した。マイクロアレイ解析の結果は次のとおり。
・DNA傷害をコントロールしたり、アポトーシスを引き起こすp53経路などの遺伝子活性は、正常のTop2bを有する治療マウスで大きく上昇した。
・Top2b値の上昇は、遺伝子転写や二重鎖切断ならびに細胞死の増加に関連していた。

ここまでは、ドキソルビシンはTop2aを用いて癌細胞を攻撃しているようにみえる。しかしチームはドキソルビシン治療72時間後に実験を繰り返し、以下の発見をした。

・正常なTop2bを有するマウスでは、DNA傷害経路の活性化がミトコンドリア機能障害と酸化的リン酸化経路に置き換えられた。ミトコンドリアは細胞のエネルギーを産生するとともに、その過程でROSを制御する。
・Top2bの存在下では、ミトコンドリアの構造と適正な機能に不可欠な遺伝子の発現が低下した。

新たな疑惑:トポイソメラーゼ2b
一連の実験によって、ROS産生は酸化還元サイクルによってではなく、遺伝子活性の変化により起こることが確認された。ドキソルビシン治療によりTop2b陽性マウスの心臓でROSが発生したが、Top2bノックアウトマウスでは70%低かった。さらに正常なTop2bを有するマウスの心臓では、この薬剤による治療後にポンプ機能の低下がみられた。

このように、ドキソルビシンはDNA二重鎖切断の誘導と心筋の代謝に関与することによって心臓に傷害を与える。2つの因子は完全にTop2bに依存している。

バイオマーカーの可能性を検証するための臨床試験を開始
このチームのマウスの実験が、現在進行中の臨床試験に繋がった。その試験は2群の癌患者-少量のドキソルビシンを投与後に心臓に問題が生じた患者と、同薬剤を大量に投与したが未だに明らかな心臓傷害がみられない患者-を対象にしている。

この試験の目的は、患者の血中Top2b値がドキソルビシン誘発性心臓傷害を予想できるかどうかを明らかにすることである。この研究はテキサスがん予防研究所から5年間の助成金184万ドルを受けている。

本臨床試験の結果が予想どおりであれば、簡単な血液検査でドキソルビシンに反応する患者を特定できる可能性がある、とYeh氏は述べた。心保護薬の使用や注意深いモニタリングなどの保護措置を治療初期に行ったり、本薬剤の使用を避けることも可能である。

ドキソルビシン誘発性心毒性を回避するための他の興味深い選択肢としてTop2aのみを標的とする薬剤の開発がある、とYeh氏は述べた。

「癌患者さんが癌治療成功後の人生を楽しむため、健康な心臓のままでいれるようになればいいです」とYeh氏は述べた。

Yeh氏の共著者は、筆頭著者でありともにMDアンダーソンの心臓病学科に所属するSui Zhang, M.D., Ph.D.氏とTasneem Bawa-Khalfe, Ph.D.氏;ヒューストンのテキサス心臓研究所/ St. Luke’s Episcopal 病院のXiaobing Liu, M.D.氏と Long-Sheng Lu, M.D.、Ph.D.氏;ニュージャージー医科歯科大学ロバート・ウッド・ジョンソン校のYi Lisa Lyu, Ph.D.氏とLeroy Liu, Ph.D.氏。Xiaobing Liu, M.D.氏は上海の上海交通大学医学院の第9人民医院にも所属している。

このプロジェクトは国立衛生研究所の国立がん研究所(CA102463)、テキサスのがん予防研究所、Robert and Janice McNair基金、ニュージャージーがん研究委員会、米国国防総省から補助金を受けている。

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大倉綾子 訳
野長瀬祥兼(研修医/社会保険紀南病院)監修
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原文


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