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血管よ、成熟せよ!腫瘍血管の正常化により抗癌剤効果が高まる可能性/スタンフォード・バーナム研究所

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血管よ、成熟せよ!腫瘍血管の正常化により抗癌剤効果が高まる可能性/スタンフォード・バーナム研究所

Bruce Lieberman
2012年8月13日 9:01 am

 腫瘍が生存し続けるためには、腫瘍に栄養や酸素を供給する血液が必要である。このような血液からの供給を得るために、癌細胞は新生血管の成長を活性化させており、このプロセスは腫瘍の血管新生とよばれている。腫瘍の増殖を妨げるために、このプロセスを阻害する多くの試みがなされている。

 しかし、腫瘍の血管新生はずさんで、結果として未熟な血管や奇形血管が発生する。抗癌剤は血流により腫瘍に到達するため、異常な血管の発生は抗癌剤の到達を妨げることになる。もし血管新生を抑制することよりも、むしろ、腫瘍血管の成熟化をより完全に促すことができれば、抗癌剤の腫瘍への到達率を改善し、殺腫瘍治療をより効果的に行うことができるのだろうか?

 この一見、相反する考え方は数年前から提唱されていたが、研究者にとって、それを証明するすべがなかった。今回、8月14日のCancer Cell誌において、スタンフォード・バーナムの研究者が、抗癌剤の到達率を改善する方法をもたらす可能性のある、腫瘍血管成熟化の過程を促進させる分子を発見したと発表した。

 この試験の上席著者であるスタンフォード・バーナムの小松正信准教授(医学博士)は「我々の発見から、この分子を制御することにより、腫瘍へ薬剤が到達しにくいことを含む、血管の異常により引き起こされるさまざまな問題を解決できる可能性が示唆された。」と述べた。

腫瘍血管:腫瘍血管を断つか、それとも修復するか?
 今までの腫瘍血管新生を標的とする癌治療は、腫瘍に栄養を供給する血管を遮断することにより、腫瘍細胞を飢餓状態にさせ死滅させる、という単純な仮説に基づいて行われていた。血管新生を遅らせる、あるいは中断させる薬剤は、いくらか有効ではあったが、腫瘍細胞は栄養や酸素がある環境下では非常に巧みに生存することができる。したがって、血管新生阻害剤は、薬剤抵抗性の腫瘍に対する治療手段の一つとして有効な手段であったが、他の治療手段も併用する必要があった。

 小松教授らの治療方針はR-Rasとよばれる特殊なタンパク質に関する新たな見解に基づくものである。同教授と共同研究者はR-Rasが血管の成熟化を促すことを発見した。このタンパク質は正常な成熟血管において高レベルで発現している。一方、腫瘍血管は通常非常に低いレベルでしかR-Rasが発現していない未熟であるという特徴を説明している。

 腫瘍血管の成熟化におけるR-Rasの重要性を調べるために、小松教授と共同研究者はマウスにおいてタンパク質を増加させる試みを行った。

 小松教授は「腫瘍血管はR-Rasが不足しているため慢性的に未熟である。」「われわれはR-Rasを腫瘍血管で活性化することにより、腫瘍周囲の血管を正常化することができ、血管構造および血管機能を改善できることを発見した。」と述べている。

人の健康増進のために血管新生を利用する
 小松教授は血管機能が改善し、腫瘍が活発化する懸念よりも、別の点、腫瘍血管の成熟化を促すためにR-Rasを用いることにより、治療薬が腫瘍により多く到達する可能性に着眼した。

R-Ras活性を増加させることは他にも利益をもたらすとみられる。機能的に血管の成熟化が必要なケース、たとえば再生医療領域において、十分な血液供給を必要とする移植組織においても重要であると考えられる。R-Rasの活性化は、心筋梗塞患者においても重要である。梗塞巣においては、心筋に栄養分を再び与える、機能的で安定した新しい血管が必要である。脳腫瘍において、R-Rasは、生命に関わるような、血管からの出血がみられる腫瘍部位の脳浮腫を患う患者も救うことができるであろう。

「われわれの発見は血管形成過程についてより深い理解をもたらし、どうしたらこのプロセスが、人の健康増進に活用できるかを再考する研究を促進させるだろう。」と小松教授は述べている。

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本研究は国立衛生研究所の米国国立癌研究所 (認可番号CA125255、 CA030199、 CA104898)、 アメリカ癌協会、Bankhead-Coley Cancer Research Program、Florida Breast Cancer Foundation Fellowship Award、 and funds provided by the Department of Pathology、 University of Alabama at Birmingham and Sanford-Burnham. による資金提供を受けた
原著:
Junko Sawada、 Takeo Urakami、 Fangfei Li、 Akane Urakami、 Weiquan Zhu、 Minoru Fukuda、 Dean Y. Li、 Erkki Ruoslahti、 & Masanobu Komatsu (2012). Small GTPase R-Ras Regulates Integrity and Functionality of Tumor Blood Vessels Cancer Cell、 22 (2) : DOI:10.1016/j.ccr.2012.06.013

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古屋知恵蔵 訳
後藤 悌(呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科) 監修
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原文

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