2012/07/10号◆スポットライト「癌治療中、食べるべきか食べざるべきか」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/07/10号◆スポットライト「癌治療中、食べるべきか食べざるべきか」

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2012/07/10号◆スポットライト「癌治療中、食べるべきか食べざるべきか」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年7月10日号(Volume 9 / Number 14)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

癌治療中、食べるべきか食べざるべきか、それが問題だ

健康な時は、食べたい物を食べたい時に食べがちである。そして、食物など口にする物がどうやって消化されるのかを考えることはあまりない。しかし、何をいつ食べるかは、身体が薬剤を吸収して反応する過程に影響を及ぼす可能性があり、時には治療結果を変えてしまうことがある。

そのため、多くの疾患において、最適な治療計画を決める際に食事は重要な因子になる。費用効果はもちろんのこと、食事をコントロールすることが副作用を減らす助けとなるかどうか、あるいは薬剤の効果を高めることができるかどうかを、癌研究者は、目下検討中である。

癌細胞に対する二重の課題

南カリフォルニア大学(USC)老年学・生命科学教授のDr. Valter Longo氏の研究室では、培養下及び異種移植腫瘍マウスにおいて、2~3日の断餌は正常細胞を化学療法剤から保護したが、癌細胞は保護しなかったことを2008年に発表し、この効果をストレス抵抗性の差と名付けた。

Longo氏とUSCの腫瘍内科医らはその後、高齢癌患者10人が細胞毒性抗癌剤投与の前後、あるいはどちらかで短期間の断食を行った試験結果を発表した。断食時には、疲労、衰弱、胃腸障害などの副作用報告は減少した。しかし、断食が癌細胞も保護し、癌患者での効果がなくなる可能性を懸念する医師もいると同氏は説明した。

しかしそのような心配とは反対に、Science Translational Medicine誌3月7日号に掲載されたUSCの研究者らによる最新の研究結果から、断食により抗癌剤に対する癌細胞の感受性がさらに高まることが示唆された。

癌細胞の培養細胞及びマウス細胞を用いた試験で、断餌状況下では正常細胞と癌細胞の遺伝子発現パターンが劇的に変化することが明らかになった。しかしそれらの変化は、正常細胞と癌細胞で異なっていた。正常細胞では、細胞の増殖と分裂に関与する遺伝子の発現が減少し、細胞のエネルギーは、ストレス過剰状態から正常細胞を守り、ストレスに誘発された損傷を修復する細胞維持経路で使われた。一方癌細胞では、多くの保護遺伝子の発現が減少し、そのため細胞が死ぬ傾向が高かったとLongo氏は説明した。

結果的に断食は「正常細胞を保護する様々なシステムに対する多くの投資」であるとLongo氏は述べた。(増殖から)維持への転換は、正常細胞に対して付加価値をもたらす。維持モードに入った非分裂細胞は、細胞分裂の過程を標的にする抗癌剤による損傷を受けにくい傾向がある。

対照的に癌細胞は、エネルギーを増殖から維持に転換して飢餓状態に対応するという正常細胞が持つ能力を妨げるような遺伝子変異を持っている可能性がある。さらに断食は、無限の細胞分裂のエネルギー源となるグルコースや他の分子を癌細胞から奪う。したがって、化学療法の他に断食が第2のストレス要因として加わり、癌細胞は、「一度に2つの極限環境」に対処することを強いられるとLongo氏は説明した。

動物実験において、このストレス要因の組み合わせが有望な結果をもたらした。乳癌細胞を移植したマウスでは、短期の断餌のみで抗癌剤であるシクロホスファミドによる治療と同等の腫瘍増殖の遅延が認められた。抗癌剤投与前の断餌には高い効果があった。シクロホスファミドを与えた断餌マウスの腫瘍は、断餌をしなかったマウスと比べて半分以下の大きさであった。メラノーマ細胞やグリオーマ細胞を移植したマウスでも同様の結果が認められた。

転移性メラノーマ、乳癌、神経芽細胞腫を移植したマウスモデルでは、断餌と高用量抗癌剤投与の併用群は、高用量抗癌剤投与のみで断餌を行わなかった群に比べて生存期間が延びた。断餌と高用量抗癌剤投与の併用群は、転移腫瘍の総数も減少した。さらに、断餌した神経芽細胞腫移植マウスの20~40%に長期間の寛解を認めたが、断餌なしに抗癌剤投与のみのマウスでは同様の効果はみられなかった。

USCの研究者チームは、現在、断食が抗癌剤治療を受けている患者の副作用をどのように低減できるかを研究している。Longo氏は、この問題に関する実施中の3つの早期臨床試験(南カリフォルニア大学メイヨークリニック、オランダのライデン大学)のデザインを支援している。

そして、米国とヨーロッパにある12の医療機関から成る共同体は、それぞれ800人以上の患者が参加する2つの試験を計画中であるとLongo氏は述べた。1つの試験では、断食が化学療法の副作用を減らすことが出来るかどうかを調査する。そしてもう1つの試験では、断食が副作用と薬効の両方に影響を及ぼすかどうかを調査する(これらはマウスの実験では認められた)。

USCの研究者チームの調査によると、試験の適格患者の70%以上は水のみの断食を拒否すると思われた。そのためその国際的臨床試験では、研究者チームが開発しNCIの中小企業技術革新研究契約の下で商業販売されたケモリーブ(Chemolieve)と呼ばれる代用制限食を使う予定である。研究者は、患者が断食による不快感なしに栄養を摂りつつ、癌細胞には最低限の栄養しか与えない制限食を考案した。

危険ではあるがチャンスでもある

食事に関して断食とは対照的な研究として、シカゴ大学の研究者は、食事と共に抗癌剤を服用することで、ある経口抗癌剤の生体利用率が増加するかどうかを調査している。生体利用率とは、体内に吸収され使われる薬剤の量である。

多くの経口剤では、食事と一緒に服用するかどうかは重要なことではない。しかし経口剤の中には、臨床的に食事の影響が明らかなものがある。つまり、食事と一緒に規定の処方量を服用することで、その薬の生体利用率に有意な変化をもたらすのである。もし、食物の影響で生体利用率が著しく減少すれば、血液中の薬剤が少なすぎることになる。また、食物の影響により生体利用率が大幅に上昇すれば、食事中に服用する患者には薬剤の過剰摂取の危険がある。

この食事摂取の薬理効果への影響という第2のシナリオ(第1のシナリオは断食=食事を摂らないことによる薬理効果への影響)は、慢性骨髄性白血病の治療薬であるニロチニブ(タシグナ)や進行乳癌のラパチニブなど、いくつかの経口抗癌剤では懸念材料となっている。食事と共に処方量のニロチニブを服用することで心臓突然死のリスクが非常に高まるため、この薬剤の製薬会社は、危険に関する警告欄を設け、リスク評価・軽減対策の対応を行っている。

シカゴ大学内科学教授のDr. Mark Ratain氏は、経口抗癌剤創薬のデフォルト戦略となった深刻な欠陥に加え、食物による影響の危険性ではなくその利点についても調べている。

食事中の服用でより効果がある経口抗癌剤

抗癌剤名

食事中に服用した場合のおおよそのAUC*の増加

処方量の1カ月の推定費用 (2011年)

ラパチニブ

150%

$3,400

ニロチニブ

100%

$8,800

エルロチニブ

 50%

$4,800

パゾパニブ

100%

$6,000

アビラテロン

300%

$5,000

*AUC =曲線下面積薬剤の生体利用率の推定に用いられる測定値 (シカゴ大学の Dr. Mark Ratain氏提供)

抗癌剤以外の多くの薬剤は、食事と一緒の服用でより大きな生体利用率が得られる。これは食物による影響をうまく利用しているとRatain氏は説明した。例えば、HIVのダルナビルやC型肝炎のテラプレビルと言った薬剤は、食事中に服用することで低用量の処方が可能である。

腫瘍学では反対のことが起きている。食物による影響が明らかになったために、断食下での高用量処方につながっている。ニロチニブにより完全寛解を得たが服用を続けなければいけない慢性骨髄性白血病患者のように、それ以外は健康であるが長期間薬剤を服用する患者にとって「都合の良いことではありません」とRatain氏は述べた。

食物による影響がある経口抗癌剤をより低用量で食事と一緒に服用する試験では、副作用と費用を大幅に減らすかもしれないとRatain氏は示唆する。彼の研究グループは、転移性前立腺癌に承認された酢酸アビラテロン(ザイティガ)の第2相臨床試験でこの仮説を検証中である。Ratain氏らは、食事と一緒に服用することで安全に服用量を75%減らすことが出来るかどうかを調査している。そして、服用量の低減が薬剤費の減少になるかもしれないと付け加えた。

試験の参加者は2つの治療群(断食を行い承認用量の1,000mg服用群、低脂肪の朝食と共に250mg服用群)のどちらかに無作為に割り付けられる。前立腺特異抗原(PSA)値の低下、薬物動態の変動、ホルモン標的に対する効果を、この2群で比較することになっている。

「健康な被験者である薬剤の薬物動態の試験を行いたい場合、断食中にその薬剤の試験を行うことが一番公正です。しかし、断食により患者間の用量のばらつきがより小さくなる可能性があるため、薬剤投与の最適な方法ではありません」とRatain氏は述べた。「われわれは、FDAが製薬会社に回答を要求すると思われる質問をしています。つまり、食事中あるいは断食中の服用で、長期間に何が変わるかという問題です」。

この問題は起こり始めている。FDA医薬品評価研究センター(CDER)は、全ての製薬会社に対し、「食物摂取が経口抗癌剤に与える影響は、創薬の初期段階である臨床試験実施申請資料作成前(参考http://www.chikennavi.net/word/ind.htm)や第1相臨床試験の間に評価すべき」と推奨していると、CDERの臨床薬理学室のDr. Atiqur Rahman氏は述べた。

そして、「これらの評価から得た情報を、第2相、第3相の臨床試験に組み込み、食物摂取に関しての推奨用量の指針とすべきです」と続けた。CDERは、製剤設計あるいは用量が初期の臨床開発段階から大幅に変更される場合には、創薬の後期段階で食物による影響の試験も必要かもしれないと製薬会社に通知している。

しかし、「特定の経口抗癌剤が摂食の条件で開発を許可されるかどうかは、疾患や患者集団の特徴に加え、食物による影響の重要性や変動性、薬剤の治療域などの多くの要因に依存します」とRahman氏は締めくくった。

— Sharon Reynolds

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野川恵子 訳
大野 智(腫瘍免疫/早稲田大学・東京女子医科大学)監修
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