米国国立衛生研究所のヒトマイクロバイオームプロジェクトが人体の正常な細菌構成を明らかにした:ゲノム塩基配列決定技術により健康な成人と共生する微生物群の参照データが初めて作成された | 海外がん医療情報リファレンス

米国国立衛生研究所のヒトマイクロバイオームプロジェクトが人体の正常な細菌構成を明らかにした:ゲノム塩基配列決定技術により健康な成人と共生する微生物群の参照データが初めて作成された

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米国国立衛生研究所のヒトマイクロバイオームプロジェクトが人体の正常な細菌構成を明らかにした:ゲノム塩基配列決定技術により健康な成人と共生する微生物群の参照データが初めて作成された

NIHプレスリリース

2012年6月13日

微生物群は人体のほぼあらゆる部分に生存し、皮膚表面上、消化管内、鼻腔内に存在する。一部の細菌は疾患を引き起こすこともあるが、ほとんどの場合、微生物群は宿主であるヒトと共生し、ヒトの生存に不可欠な機能を提供する。今回、米国国立衛生研究所(NIH; National Institutes of Health)が設立した研究者らからなるコンソーシアムにより、健常人の正常微生物群の構成が初めて明らかにされ、多くの洞察とともに少しばかりの驚くべき知見がもたらされた。

例えば、ほぼ全てのヒトは、疾患を引き起こすことが知られている微生物である病原体を保持していることが明らかになった。しかし、病原体は健康な人に疾患を引き起こすことはなく、単に宿主や人体に生存する微生物の集合体であるヒトマイクロバイオーム(微生物群ゲノム)と共存するだけである。今回、なぜ一部の病原体が致死的になるのか、そしてそれはどのような状況下においてであるかが明らかになることは間違いなく、それは微生物がどのようにして疾患を引き起こすのかに関して現在の概念を変える可能性がある。

2012年6月14日にNature誌およびPublic Library of Science (PLoS)の複数のジャーナルに協調して発表された一連の研究報告において、およそ80の大学および研究機関の約200人のヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP; Human Microbiome Project)のコンソーシアムメンバーが5年間の研究成果を発表した。HMPは、NIHの共通基金を、2007年の会計年度開始以来、1億5千3百万ドル受理している。NIH共通基金はインパクトが高く革新的なNIHの共同研究(trans-NIH)に対して助成されるものである。NIHの各研究機関や各研究センターは、HMPコンソーシアム研究に対する共同助成金として追加で2千万ドルを提供した。

「15世紀の探検家が新大陸の概要を描いたのと同様に、HMPの研究者らは人体の正常微生物構成を初めて示すため、新しい技術戦略を採用しました。HMPは健常な検体提供者の微生物群を分析するため、ゲノム塩基配列決定技術を用いて画期的な参照データベースを作成しました。このことは、この共有する情報源を持たなかったために以前は不可能であった感染症研究の加速化への基礎固めをします」と、NIHの所長であるFrancis S. Collins医学博士は述べた。

方法と結果

人体には数兆個の微生物が存在し、その数はヒトの細胞数を圧倒的に上回る。微生物は非常に小さいため、ヒトの体重の約1~3%であるが(200ポンド(約90キログラム)の成人では細菌群は2~6ポンド(約0.9〜2.7キログラム))、ヒトの健康に大きな役割を果たしている。

人間の正常なヒトマイクロバイオームを解明するため、HMPの研究者らは242人の健常米国人(男性129人、女性113人)から検体を採取し、男性15カ所、女性18カ所の身体部位から組織を収集した。研究者らは各検体提供者の各身体部位、すなわち口腔、鼻腔、皮膚(両耳の後ろ、両肘内側)、腸管下部(便)、女性の膣内の3カ所から最大で3検体を採取した。各身体部位にはアマゾンの熱帯雨林とサハラ砂漠に生息する微生物群に匹敵するほど多様な微生物が生息している可能性がある。

従来、医師は患者の微生物群を、病原体を単離し培養することにより検査していた。微生物群は研究室内で増殖させることが困難であるため、通常はこの骨の折れる作業によってほんのわずかの種類の微生物しか同定することができなかった。HMPの研究者らは5000検体以上のヒトと微生物群の各検体の全DNAを精製し、DNA塩基配列決定装置で解析した。計算機を用いて、細菌だけにみられる特異的な遺伝信号(16S rRNAと呼ばれる細菌のリボソームRNAの可変遺伝子)を同定するため、3.5兆塩基対のゲノム配列データを整列(ソート)させた。細菌のリボソームRNAは、タンパク質を製造する細胞構造の形成を助けるので、様々な種類の微生物群の存在を同定することができる。

この微生物の兆候に注目することでHMPの研究者らはヒトゲノムのDNA塩基配列を解析することなく、細菌のDNAのみを解析することができた。さらに、メタゲノミックシークエンシング(あるいは、微生物群の全DNA塩基配列決定)によって、これらの微生物群の遺伝子にコード化されている代謝活性を解析することができた。

「最近開発されたゲノム塩基配列決定法は、ヒトマイクロバイオーム研究にいわば強力なレンズを提供した。DNA塩基配列決定にかかる費用が驚くほど下落したことよってヒトマイクロバイオームプロジェクトが行っているような大規模な研究が可能になった」と、NIHに代わってHMPを管轄する国立ヒトゲノム研究所(NHGRI; National Human Genome Research Institute)所長のEric D. Green医学博士は述べた。

医師らは、以前はわずか数百種の細菌種しか人体から分離できなかったが、HMPの研究者らは人体環境内に1万種を超える種類の微生物が存在することを計数できた。さらに研究者らは健常成人の全微生物属のうち81~99%を同定したと見積もっている。

「私達はヒトの正常微生物群の多様性の境界を明らかにしました。健常西洋人において何が正常であるかについて良く理解するとともに、生理学と疾患に関連してマイクロバイオームがいかに変動するかを学びつつあります」と、NIHのプログラム調整・企画・戦略イニシアティブ(NIHの共通基金を含む)の部門長James M. Anderson医学博士は語る。

また、これらの微生物によって起こる多血症では、ヒトの遺伝子が関与する以上に、多くのヒトの生存に応答する微生物遺伝子群が関与しているとHMPの研究者らは報告した。ヒトゲノムが約2万2千種類のタンパク質遺伝子をコード化しているのに対し、ヒトマイクロバイオームは約800万種類の固有のタンパク質遺伝子をコード化しており、ヒト遺伝子数の360倍の数の細菌遺伝子群が関与していると、見積もっている。

この細菌ゲノムの関与は人間の生存に非常に重要である。例えば腸内細菌群が担う遺伝子群によって、人間は食物を消化し、生体内で合成できない栄養素を吸収することができるのである。

「人間は、食事を消化するために必要なすべての酵素をもっているわけではありません。腸内微生物群はわれわれの食事のタンパク質や脂質、炭水化物の多くを、吸収可能な栄養素に分解します。さらに、微生物群はビタミンや、私たちのゲノムでは生成できない抗炎症物質などの有益な化合物を生成します」とNHGRIのHMPプログラム部長であるLita Proctor博士氏は語る。抗炎症物質は、腫脹など、疾患に応答する免疫系の一部を制御している物質である。

研究者らは微生物群の代謝活性の関与のほうが、それらを提供する微生物群の種類よりも重要であることを発見して驚いた。例えば健康な腸管内では、脂肪の消化を助けるため常に細菌群が必要であるが、この機能を担うのはいつも同じ種類の細菌群であるとは限らないのだ。

「細菌群は互いに代打を務めることができるようなのです。代謝機能があるかどうかが重要なのであって、どの種類の微生物がそれを供給するかではないのです」と、Nature誌のHMP関連論文の1論文で共同筆頭著者になっているハーバード公衆衛生大学院のCurtis Huttenhower博士は述べた。

さらに、ヒトマイクロバイオームの構成は時間とともに明らかに変化している。患者が病気になったり抗生物質を服用したりすると、マイクロバイオームの構成する微生物群の種類はあちこちの種類の細菌群が影響を受け、かなり変動する。しかし最終的に微生物群は、たとえ以前の細菌型の構成ではないにしても平衡状態に戻る。

臨床への応用

NIHは、HMPの中で、マイクロバイオームと疾患の関係を明らかにするために数多くの研究に資金助成を行い、さらに診療結果を含めたPLoSの複数の論文にも資金助成している。例えばヒューストンのベイラー医科大学の研究者らは妊婦24人と妊娠していない女性60人の膣内のマイクロバイオームの変動を比較したが、膣内のマイクロバイオームは出産準備期において細菌群の種類構成が劇的に変動していた。その変動は主に種類の多様性減少が特徴であった。新生児は、細菌のスポンジのようなものである。無菌である子宮から出た後、自分自身のマイクロバイオームを移入する。新生児が出産後初めて微生物群に接触することから、膣内のマイクロバイオームが健全な出産の成功に関与していることは驚くにあたらないであろう。

セントルイスのワシントン大学医学部の研究者らは、3歳未満の小児によく認められる原因不明の発熱を有する小児の鼻腔内のマイクロバイオームを解析した。発熱が認められた小児の鼻腔内検体には、発熱が認められない小児の最大5倍量のウイルスDNAが検出され、その種類はより広範であった。過去の研究ではウイルスには、その複製に至適の温度範囲が存在することが示されている。発熱は病原性ウイルスに対する生体防御機能の1つであるため、迅速なウイルス定量検査を行うことにより、ウイルスの殺傷効果もないうえ、子供の健康なマイクロバイオームを傷害してしまう抗生物質による不適切な治療を回避しうる。

これらの研究は、特定疾患におけるマイクロバイオームの機能を研究するためにそれらのデータを用いた最も初期の臨床的研究に含まれている。NIHは、HMPのデータや技術を用いた多くの医学的研究に対して資金援助をしており、それらはクローン病、潰瘍性大腸炎、食道癌における腸内マイクロバイオームの機能や、乾癬、アトピー性皮膚炎、免疫不全における皮膚マイクロバイオームの機能、妊娠や性遍歴、包茎手術における尿生殖器マイクロバイオームの機能、さらには、小児の腹痛や腸管炎、腸管機能不全における未熟児の重篤状態など、数多くの小児期の障害において果たす機能などについての研究が含まれる。

「ヒトマイクロバイオームプロジェクトにおいて重要なのは、疾患特異的な研究を行うことが可能になることです。私達は正常な ヒトマイクロバイオームがどのようなものかを理解できたので、マイクロバイオームの変動が疾患とどのように関連するのか、あるいはいかに疾患を引き起こすのかを理解できるでしょう」と、ヒトマイクロバイオーム研究の現状と今後の枠組みに関するNature誌掲載論文の筆頭共著者である、メリーランド州ロックビルのJ・クレイグ・ヴェンター研究所のBarbara Methé博士は語る。

NIHの共通基金は、マイクロバイオーム研究の倫理的、法的、社会的意義を評価する一連の研究に対しても資金援助している。これらの研究成果はまだ発表されていないが、数多くの重要な問題がすでに明らかになっている。それらには、人体に有用であると考えられる生きた微生物を含んだプロバイオティック製品などのマイクロバイオームを使用する製品群をどのように規制するかという問題から、どの人が健康な時にマイクロバイオーム蓄積を考慮し始める必要があるかという問題まで含まれる。

NIHが2007年12月にHMPを開始したのち、NIHを含む研究助成機関やヒトマイクロバイオームの研究に関心を持つ世界中の研究者らを代表して国際ヒトマイクロバイオームコンソーシアムが2008年に設立された。コンソーシアムは研究の重複を避け、分子生物学的データや臨床的データを迅速に公表するために研究の調整を行っている。さらに共通データの品質基準や、研究結果を共有するためのツールを開発も行った。

他の大規模共同研究と同様に、NIHは研究者が、国立医学図書館の一部である国立生物工学情報センター(www.ncbi.nlm.nih.gov/genomeprj/43021?report=HMP)や、HMPデータ解析およびコーディネートセンター(http://www.hmpdacc.org/ Exit Disclaimer)などの公的データベースを通じてHMPデータに自由にアクセスできるようになっている。

ヒトマイクロバイオームプロジェクトは、NIHの一機関であるNIH所長室(NIH Office of the Director)、米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID; National Institute of Allergy and Infectious Diseases)、米国国立関節炎・骨格筋・皮膚疾患研究所(NIAMS; National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases )、米国国立癌研究所(NCI; National Cancer Institute)、米国国立歯科・頭蓋顔面研究所(NIDCR; National Institute of Dental and Craniofacial Research)、米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK; National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)との共同事業により、国立ヒトゲノム研究所(NHGRI; National Human Genome Research Institute)が管轄している。

HMPに関するさらに詳細な情報はhttp://commonfund.nih.gov/hmp/index.aspxで閲覧できる。ヒトマイクロバイオームプロジェクトの健康な人を対象としたコホート研究で採取した身体部位を示す図はwww.genome.gov/pressDisplay.cfm?photoID=20163で閲覧できる。

 

ヒトの腸内に生存する多くの共生細菌の一種である大便連鎖球菌の高解像度画像はwww.genome.gov/pressDisplay.cfm?photoID=20023(カラー)または、www.genome.gov/pressDisplay.cfm?photoID=20024(白黒)で閲覧できる。

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大倉綾子 翻訳
石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学)監修
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