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2012/06/12号◆特別リポート「肺癌などにおける免疫療法の可能性:拡大する適応領域」

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2012/06/12号◆特別リポート「肺癌などにおける免疫療法の可能性:拡大する適応領域」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年6月12日号(Volume 9 / Number 12)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

肺癌などにおける免疫療法の可能性:拡大する適応領域

米国臨床腫瘍学会年次総会で先週発表された2つの早期臨床試験の結果によって、腫瘍を攻撃するように免疫系を調整することが、ある種の癌の治療に役立つ可能性を示唆する追加的な証拠が示された。これらの試験結果は、6月2日付New England Journal of Medicine誌(NEJMこちらこちら)にも掲載された。

予備的ではあるものの、今回の結果は注目に値するという。なぜなら、これまで、非小細胞肺癌は免疫療法に極めて強い抵抗性があったが、いずれの臨床試験でも、治療の結果、非小細胞肺癌患者でかなりの腫瘍縮小がみられたからだと、試験責任医師らは説明する。しかも、腫瘍縮小が見られた患者の多くは、1年ないしそれ以上の期間にわたって縮小を維持した。

「最近ではもっとも刺激的な試験結果だと思います」と、コロラド大学デンバー校の肺癌研究者で、いずれの臨床試験にも関与していないDr. D. Ross Camidge氏は言う。「このところ進展があったのは、分子別の亜型を同定して、それぞれに特異的な標的治療をすることでした。免疫療法は、そのような個々の分子標的療法の境界を越えて、現在開発中の治療パラダイムをすべて変えるかも知れないと期待されています」。

両試験はいずれも、いわゆる「チェックポイント」分子、つまり自分の体を攻撃しないように免疫反応を抑制する分子を標的とする試験薬の研究であった。腫瘍はチェックポイント分子を味方につけ、免疫系が腫瘍を消失させる力を弱める能力を手にする。

腫瘍縮小は、メラノーマと腎臓癌の患者でもみられた。過去の臨床試験では、これらの癌には免疫療法が効く可能性が示され、その適応で米国食品医薬品局(FDA)が免疫療法を認可している。さらに、一方の試験薬を投与した卵巣癌患者17人中の1人でも、腫瘍反応が得られた。

免疫反応の発動

臨床試験を実施した2つの薬剤はモノクローナル抗体であり、一方は、活性化されたT細胞の表面にあるPD-1という受容体タンパクを標的とする。もう一方の薬はPD-L1というPD-1の結合相手(リガンド)を標的とする。PD-L1は、多くの腫瘍および腫瘍の微少環境内の細胞において、炎症刺激に反応して通常よりも高い水準で発現する。

両薬剤ともブリストル・マイヤーズ スクイブ社が開発中であり、同社が両試験の主要な資金提供者であった。

昨年FDAは、初の免疫チェックポイント分子阻害剤イピリムマブ(Yervoy)を、進行性メラノーマの治療を適応として認可した。しかしながら、イピリムマブが標的とするのは、活性化されたT細胞の表面にあるCTLA-4という別のチェックポイント分子である。

試験参加者には、複数の治療にも関わらず腫瘍が増大した胃癌、乳癌、大腸癌、去勢抵抗性前立腺癌、膵癌の患者も含まれていた。PD-1標的薬の試験には300人近い患者が、PD-L1標的薬の試験には200人強の患者が参加した。両試験とも、低用量から始めて投与量を漸増した。つまり、目立った副作用がみられない場合は、その後参加することになった患者には1段階多い量を投与することを繰り返した。

腫瘍反応の数だけではなく、持続性の点でもこれらの結果は興味深いものです、とPD-1標的薬の試験責任医師であったジョンズホプキンス大学医学部のDr. Suzanne Topalian氏は指摘する。PD-1標的薬が有効で、かつ少なくとも1年以上追跡調査ができた患者31人中20人で、1年以上腫瘍反応が持続した。

癌種別の奏効率

抗PD-1試験 抗PD-L1試験
メラノーマ 患者94人中26人 患者52人中9人
腎臓癌 33人中9人 17人中2人
肺癌 76人中14人 49人中5人
卵巣癌 該当なし 17人中1人

もっとも多い副作用は倦怠感、皮疹、下痢などであった。その他の比較的頻度が低い副作用、たとえば発熱などは、免疫系の活性化と一致していた。PD-1試験の患者の5%、およびPD-L1試験の6%が、重大な副作用により治療を中止した。また、PD-1標的薬を投与した患者のうち3人が、治療に起因する肺臓炎という制御できない肺の炎症によって死亡した。

「安全上、肺臓炎は気がかりです」とCamidge氏は言う。また、認可免疫治療は何であれ、治療におけるリスクや想定される治療費を正当化するために、その薬からどの患者がもっとも恩恵を受けるかを予測する方法を見いだすことが必須であると付け加えた。

この課題に応えるために、Topalian氏らは、PD-1標的薬の臨床試験に登録された一部患者から、治療開始前に腫瘍標本を採取して調べた。その結果、PD-L1を発現した患者の約3分の1に測定可能な腫瘍反応が見られたのに対し、PD-L1発現のない患者はまったく腫瘍反応が見られなかった。PD-L1を、治療反応性を予測するバイオマーカーとするには、まだまだ多くの研究が必要です、とTopalian氏は強調した。

重要な経路

これらの臨床試験が免疫療法研究に与えた衝撃は大きいだろう、とカリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合がんセンターのDr. Antoni Ribas氏はNEJM誌の論説記事で述べた。

「これらの早期結果は、PD-1やPD-L1を阻害する抗体が免疫療法の抗腫瘍活性の新たな評価基準となる可能性があることを示唆している」とRibas氏は論じた。

PD-1標的薬の追加的第2相臨床試験が進行中であり、メラノーマ、非小細胞肺癌および腎臓癌の患者を対象とする第3相臨床試験も計画中である。PD-1経路の標的薬はまた、NCI免疫治療臨床試験ネットワークの研究者らが実施する臨床試験の最優先候補である。

「われわれは、免疫系が癌を認識することを阻止している阻害経路の重要性を真に理解するところまで到達しました。これらの経路を遮断することで、免疫系に癌細胞を認識させ殺傷させることができるのです」とTopalian氏は述べた。

さらに、「過去2年間にイピリムマブで報告された所見に加えて、これらの試験結果は癌治療としての免疫療法を確立したと思います」と同氏は付け加えた。

— Carmen Phillips and Jennifer Crawford

【画像内語句訳】

Priming Phase:初期免疫段階    

Effector Phase:エフェクター段階

Dendritic cell:樹状細胞

T cell:T細胞

Lymph node:リンパ節

Peripheral tissue:末梢組織

Cancer cell:癌細胞

MHC:主要組織適合遺伝子複合体

TCR:T細胞受容体

Activation signals:活性化シグナル

Negative regulation:抑制的調節

B7:補助シグナル分子B7

CD 28:補助刺激受容体CD28

Inhibitory signals:抑制シグナル

Antibody:抗体

【画像下キャプション訳】
メラノーマに対して最近認可された免疫治療薬の標的であるCTLA-4と同様に、PD-1とPD-L1は主にチェックポイントとして免疫反応を抑制する重要な分子経路の一部である。これらの分子の活性を阻害すれば、腫瘍細胞を攻撃する免疫系を発動することができる。
画像提供:New England Journal of Medicine誌 ©2012  [画像原文参照

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盛井有美子 訳
田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部門) 監修
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