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移植した遺伝子組換え造血幹細胞が脳腫瘍患者を化学療法の毒性副作用から保護/フレッド・ハッチンソンがん研究センター

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移植した遺伝子組換え造血幹細胞が脳腫瘍患者を化学療法の毒性副作用から保護/フレッド・ハッチンソンがん研究センター

自家幹細胞移植による新たな治療方法の実現性と効果に関する初めての試験結果

2012年5月9日、シアトル発 – 脳腫瘍患者の遺伝子組換え造血幹細胞が、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの研究者らにより初めて患者自身に移植された。これは、化学療法の毒性副作用から脳腫瘍患者の骨髄を保護することを目的とした移植である。膠芽腫患者3人を対象として実施され、現在も続いている小規模臨床試験の初期結果は、患者2人が移植を受けなかった場合の予測生存期間よりも長く生存、患者1人が治療から約3年経過した現在も増悪なく生存、となった。

Science Translational Medicine誌5月9日号で発表された本臨床試験の上席・連絡先著者であるHans-Peter Kiem医学博士は、「遺伝子組換えした幹細胞の移植を受けた患者は、過去の臨床試験で移植を受けずに同じタイプの化学療法を受けた患者よりも忍容性が良好で、望ましくない副作用も発現しなかった」と述べている。

ハッチンソンがんセンター臨床研究部門(Clinical Research Division)のメンバーであるKiem氏は、膠芽腫などの癌治療に対して化学療法を有効使用するのに大きな障害となっているのは化学療法剤が他組織、とりわけ骨髄に及ぼす毒性影響である、と説明する。骨髄に影響が及ぶと、血球数の減少や感染症を起こしやすくなる等の有害現象が発現する。通常、治療の中断や延期、あるいは化学療法剤の減量が余儀なくされ、しばしば結果的に効果の低い治療となる。

今回の臨床試験でKiem氏らは、ほとんどの場合において致死的癌である膠芽腫患者に対象を絞った。膠芽腫患者の多くが、腫瘍のMGMT遺伝子プロモータ(遺伝子の発現を調整する部位)がメチル化されていないために発現スイッチがオンになっているMGMT(O6-methylguanine-DNA-methyltransferase)と呼ばれる遺伝子を持っている。MGMTはDNA修復酵素のひとつで、テモゾロマイド(temozolomide)等いくつかの化学療法剤の毒性作用を抑制する。そのため、プロモータが非メチル化した腫瘍を持つ患者は特に予後が悪い。

ベンジルグアニン(benzylguanine)は、MGMT遺伝子を不活性化し、腫瘍細胞の化学療法剤に対する感受性を再び高める薬剤だが、これを化学療法剤と併用投与すると、骨髄細胞への毒性影響が過度になり、骨髄抑制に至る。

遺伝子組み換え型MGMTであるP140Kを骨髄幹細胞に導入することにより、腫瘍細胞の化学療法剤に対する感受性を維持したまま、ベンジルグアニンと化学療法剤の毒性から骨髄幹細胞は保護される。「P140Kは、化学療法によって引き起こされる問題を修復することが出来る上、ベンジルグアミンの影響を受けない」とKiem氏は言う。

Kiem氏の研究室メンバーであるBrian Beard博士と共に本臨床試験の第一著者で、やはり同研究室メンバーであるJennifer Adair博士は、「言うなれば、骨髄細胞には防御盾を与え、腫瘍細胞は無防備にしたまま、骨髄細胞と腫瘍細胞の両方に攻撃をかける治療」と説明する。

本臨床試験に参加した患者3人は、自身の循環造血幹細胞の移植後、平均で22ヵ月間生存した。このうち、アラスカの男性は、治療後34ヵ月の現在も生存している。同タイプの高リスク膠芽腫患者の生存期間中央値は、移植を受けない場合、わずか一年超程度である。

本臨床試験の主任神経腫瘍学者であるMaciej Mrugala医学博士によれば、「膠芽腫は、MGMTが非メチル化した腫瘍を持つ患者の生存期間中央値が12~15ヵ月と、最も深刻な癌のひとつ」。

膠芽腫患者のうち、50~60%に上る患者の腫瘍がこのメカニズムによる化学療法に対する耐性を持っており、遺伝子組換えした造血幹細胞の移植は、多くの患者に適用できる治療となる。また、神経芽腫等その他脳腫瘍や、MGMTの媒介による化学療法耐性を持つ固形癌にもベネフィットをもたらす可能性がある。

本臨床試験の研究者らは、参加者の遺伝子組換えした血液および骨髄細胞数が、化学療法により増加したことを観察した。Kiem氏は、この知見は、遺伝子組換えした造血・骨髄細胞を増やすことが出来れば治療効果を得られる欠損骨髄幹細胞の遺伝子治療など、他の幹細胞遺伝子治療への応用や、HIV/AIDS患者のためのHIV耐性幹細胞やT細胞の増殖への可能性を示唆するものだと述べている。

本臨床試験は続行中で、現在も参加患者を募っている。詳細は、http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00669669
本臨床試験には、Washington State University, the University of Washington, Dana Farber/Children’s Hospital Cancer Center, およびthe Harvard Medical School の研究者が寄与した。また、本臨床試験の資金はthe National Institute of Health and the Health Foundationによる助成金で賄われた。

報道関係の皆様へ:インタビューのご依頼やScience Translational Medicine誌発表論文”Extended Surivval of Glioblastoma Patients After Chemoprotective HSC Gene Therapy”の入手については、Dean Forbesまでお問い合わせ下さい。

報道対応窓口
Dean Forbes
206-667-2896
dforbes@fhcrc.org

 

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村上智子 訳
寺島慶太(小児科/テキサス小児病院)監修
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原文

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