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Kras遺伝子変異型は代謝経路を介して膵癌を維持する/MDアンダーソンがんセンター

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Kras遺伝子変異型は代謝経路を介して膵癌を維持する/MDアンダーソンがんセンター

癌遺伝子を活性化・不活性化する作用がマウスモデルを用いて解明される
M.D.アンダーソンがんセンター
2012年4月26日

Cell誌に掲載された報告によると、膵癌の発生を促進させるある遺伝子変異は代謝経路を利用して腫瘍の増殖・進展もサポートする。

癌遺伝子Krasの今回新たに発見された役割により、直接攻撃することは難しいとされてきたその重要な変異を阻止するための潜在的標的に新たなカテゴリーが加わる、とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターDepartment of Genomic Medicineの講師で筆頭共著者のHaoqiang Ying博士は述べた。

膵管腺癌の5年生存率は約5%である。米国国立癌研究所の推計によると、2012年には43,920人が新たに膵管腺癌と診断され、37,390人が死亡する。

「私たちの研究では、代謝の新たな面から治療標的を探索しています」とYing氏は述べた。「癌遺伝子Krasが同化作用のグルコース代謝を非常に協調的に調節していることからも、Krasシグナル伝達の他の機能性成分だけでなくそれらの経路も標的とする併用法開発の必要性が指摘されています。」

Kras遺伝子は、正常細胞のシグナル伝達に影響を及ぼすタンパク質を産生する。Kras遺伝子変異型は常に活性化された状態となり、酵素GTPと強固に結合していることから小分子阻害剤による標的化はこれまで成功していない、とYing氏は述べた。

発癌イニシエーターも増殖・進展を促す
「癌遺伝子Krasの活性化変異はほとんどすべての膵癌で認められており、膵癌発生におけるその重要性は明らかにされています」とMDアンダーソンがんセンター総長で、本研究の主席著者であるRonald DePinho医師は述べた。「生体内でこれらの腫瘍を維持する際のこの重要な遺伝子の役割については、これまで検討されていませんでした。」

この問題に取り組むために、ハーバードメディカルスクールおよび本研究の発祥地であるダナファーバー癌研究所において、DePinho氏のチームは、Kras遺伝子を誘導する遺伝子(iKras)を開発しマウスに導入した。これにより、研究者らがマウスにドキシサイクリンを投与して膵臓にKrasを発現させること、並びに薬剤投与を中止してその発現を止めることが可能となった。

Ying氏は、昨年9月のDePinho氏のMDアンダーソンがんセンター総長就任後にMDアンダーソンへ移る前は、ダナファーバーでDePinho氏の研究室の博士研究員であった。

「これらの研究から、発癌性Krasが腫瘍を維持する役割を果たしていることが確認されただけでなく、完全に形成された腫瘍のKrasを消滅させることでどのようにその役割を果たしているのかを正確に調べることができるようになりました」と、DePinho氏は述べた。

Krasの消滅により腫瘍は退縮、退行する
膵癌の進展に伴い、さまざまな腫瘍抑制遺伝子が不活性化される。研究チームは、Kras遺伝子誘導マウスを腫瘍抑制遺伝子p53のノックアウトマウスと交配させた。iKras単独マウスもしくはiKrasとp53欠損との交配マウスのいずれに対しても、3週齢でドキシサイクリンを投与した。

・p53欠損のiKrasマウスはすべて、生存期間中央値15週で11~25週齢の間に膵癌で死亡した。
・iKras/p53変異型腫瘍では、腺腫瘍の構造、他臓器の浸潤および肺・肝臓への転移など、ヒト膵癌によく見られる兆候が認められた。

ドキシサイクリンの投与を中止すると、導入遺伝子iKrasは24時間以内に消滅する。p53がないiKrasマウスは、投与後8週までに浸潤性膵癌を発症した。研究者らが9週でドキシサイクリンの投与を中止すると:

・腫瘍は急速に退縮、48時間後には目に見えて退行した。
・1週間後、MRIでは腫瘤の約50%縮小、PET/CTスキャンでは腫瘍によるグルコースの取り込み停止が明らかになった。
・プログラムされた細胞死が増加、腫瘍細胞の増殖が低下、腫瘍の支持組織-間質-も変化した。
・MAPKおよびmTORなどのKras経路の下流成分によるシグナル伝達が低下した。

Krasは癌増殖のために構成要素の生成をサポートする
Kras消滅後のiKras/p53欠損腫瘍における遺伝子活性化のトランスクリプトーム解析では、代謝に関与する遺伝子の活性低下が指摘された。

代謝研究からは、Krasの消滅によりグルコース代謝に関与する中間体が減少し、グルコースの取り込みおよび乳酸の産生が減ったことが明らかになった。代謝の変化は、転写解析で同定された遺伝子発現の変化と相関した。

影響を受けたグルコース中間体は他のグルコース利用経路で用いられることから、研究チームはヘキソサミン生合成経路(HBP)およびペントースリン酸経路を解析した。両経路とも、DNAやRNAの集合体を含む細胞構成要素の構築に関与する。

Krasが消滅すると、数多くの細胞プロセスにおいて重要なシグナル伝達ステップであるHBPを介したタンパク質のグリコシル化は、グルコース飢餓条件下で観察されるレベルまで低下することが明らかになった。

ペントースリン酸経路(PPP)は、グルコースを利用してDNAやRNAの必須成分であるリボース環を生成し、NADPHに電子を蓄える細胞の還元力を維持する。この経路には、十分に特徴付けられた酸化的部分と十分には理解されていない非酸化的部分の2つの部分がある。

Krasの消滅により、酸化的部分のグルコース流量に与えるに影響はなかったが、リボース合成に関与する非酸化的部分の成分におけるグルコースレベルは低下した。C-グルコースの放射性標識では、Krasが消滅するとDNA/RNAに組み込まれた標識グルコースに劇的な低下が認められた。

PPPの非酸化的部分に関与する酵素の発現レベルも、Krasの消滅で低下した。Rpia、Rpeの単独もしくは両酵素のノックダウンにより、DNA/RNAへのグルコース流量は低下し、腫瘍の増殖も抑制された。

MAPK、Mycを阻害することはKrasの消滅に類似する
研究チームは次に、膵癌をサポートする代謝経路のリプログラミングにおける潜在的な原因分子を同定するために、Kras経路の別の成分を阻害した。MAPKを阻害すると、解糖およびHBPとPPPに与えるKras消滅の影響が一部再現されることが明らかになった。

iKras膵癌細胞のMycタンパク質のノックダウンもまた、解糖、HBPおよびPPPの代謝遺伝子発現を低下させた。

「私たちは、MDアンダーソンのInstitute for Applied Cancer Scienceと協力して、創薬に向けた代謝遺伝子の標的の同定と検証に取り組んでいます」とYing氏は述べた。候補薬剤の治療的可能性は、Kras遺伝子誘導マウスモデルを用いて明らかにされる。

本研究は、米国国立癌研究所、BIDMC Research Capital Fund、Kimmel Scholar Award、AACR-PanCAN Career Development Award、およびDamon Runyon Cancer Research Foundationから資金援助を受けた。

MDアンダーソンでのYing氏およびDePinho氏の共著者は、Department of Genomic MedicineのLynda Chin, M.D.、Andrea Viale, M.D., Ph.D.、Jian Hu, Ph.D.、およびY. Alan Wang, Ph.D.;Department of Experimental Radiation OncologyのBoyi Gan, Ph.D.;並びにDepartment of Cancer BiologyのSujun Hua, Ph.D.であり、全員がかつてはダナファーバー癌研究所に所属していた。

筆頭共著者は、ボストンのダナファーバー癌研究所のAlec Kimmelman, M.D., Ph.D.、およびベスイスラエル・ディーコネス医療センターのCostas Lyssiotis, Ph.D.;ダナファーバー癌研究所のGerald Chu, M.D., Ph.D.、Eliot Fletcher-Sananikone, Jaekyoung Son, Ph.D.、Hailel Zhang、Haiyan Yan、Wei Wang, M.D.、Shujuan Chen, Ph.D.、Hongwu Zheng, Ph.D.、Ji-hye Paik, Ph.D.、Carol Lim、Eric Martin, Ph.D.、Jeffery Chang、Aram Hezel, M.D.、Samuel Perry、およびYonghong Xiao, Ph.D.;ハーバードメディカルスクールのJason Locasale, Ph.D.、Jonathan Coloff, Ph.D.、John Asara, Ph.D.、Ralph Weissleder, M.D., Ph.D.、およびLewis Cantley, Ph.D.;並びにマサチューセッツ総合病院のAlexander Guimaraes, M.D., Ph.D.である。

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豊 訳
畑啓昭(消化器外科/京都医療センター 監修
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原文


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