不安によって癌の重症度が高まることが、マウスを用いた研究によって明らかに/スタンフォード大学 | 海外がん医療情報リファレンス

不安によって癌の重症度が高まることが、マウスを用いた研究によって明らかに/スタンフォード大学

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不安によって癌の重症度が高まることが、マウスを用いた研究によって明らかに/スタンフォード大学

Beth Mole

心配性の人、落ち着きのない人、生来神経質な人たちには、本当に憂慮すべきことがあるかもしれない。癌の加速進行である。スタンフォード大学医学部の研究者らが新たに研究を実施したところ、不安になりやすいマウスは、落ち着きのあるマウスよりも重症度の高い癌を発症した。

4月25日付けでPLoS ONEにオンライン発表された研究によれば、無毛マウスに紫外線を投与したところ、おとなしくて危険を嫌う傾向にある神経質なマウスでは、腫瘍がほかのマウスよりも多く発生し、浸潤癌を発症した。また、常に不安であるため慢性ストレスに敏感になり、免疫力が低下した。慢性ストレスと発癌の高リスクとの関連性はほかの研究者がすでに明らかにしているが、この研究は、高度の不安という性格的な性質を発癌のリスク増大と生物学的に結びづけるものとしては初めてのものである。

「不安状態とは、物理的に存在するストレス要因または存在しないが知覚されるあるいは予測されるストレス要因に対して感受性が高くなることである、と定義できると考えられる」、と研究論文の筆頭筆者であり、ストレス専門の免疫学者Firdaus Dhabhar博士は話した。

Dhabhar氏はこれまでに「良性」ストレスと「悪性」ストレスのバランスを研究してきた。ライオンに追いかけられる、上司に対して重要なプレゼンテーションをするというような一過性ストレス要因は、対抗できるように体を整えれば、実際に免疫力を高めることができる。一方、障害を抱える家族の介護などのストレスが常に続いていると、そのうちに疾病に対する体の抵抗力がなくなる、とDhabhar氏は言う。

問題は、どの程度のストレスがストレス過剰なのか、である。ストレス応答には個人差があるため、Dhabhar氏はもともとある不安のレベルと実際のストレスとの関連を把握することにした。

マウスにとっては、食餌および仲間の探索と危険からの自己防衛のバランスを取ることからストレスが生じる。Dhabhar氏は、高度に不安なマウスでは危険回避行動が亢進すると仮定した。Dhabhar氏をはじめとする研究チームは、壁のある通路とない通路からなる高架式十字迷路に無毛マウスをおき、マウスが壁のないオープンアームに行く頻度を測定した。同様に、半分明るくて半分暗い大きな明暗箱にマウスをおき、暗室に最も長く滞在したマウスを記録した。

「人がとても不安になると、暗い路地を歩くことがいつもより心配になってその気にならないという考えと同じです」と語るDhabhar氏は、心理・行動科学の准教授であり、スタンフォード癌研究所およびスタンフォード免疫移植感染症研究所の所員である。不安状態を評価した後、研究者らは10週間にわたって週3回10分間、全無毛マウスを紫外線に曝露させた。これは、ヒトが日照下で長時間過ごした時の曝露に近似する曝露量である。数カ月後に腫瘍が発現した。「この皮膚癌モデルは、ヒトの皮膚癌を厳密に模倣したものなので、有用性が実に高いのです」とDhabhar氏は説明する。

加えて、この種の腫瘍は免疫系の攻撃に弱い。免疫系が腫瘍を破壊できる場合もある、とDhabhar氏は話した。

最終的には全マウスが皮膚癌を発症したが、不安マウスの方が腫瘍を多く発現し、浸潤癌を発症したのは不安マウスのみであった。

Dhabhar氏の研究チームが不安状態の低いマウスと高いマウスの免疫応答を比較したとき、神経質なマウスでは制御性T細胞と呼ばれる、通常は過剰な免疫応答を制御する免疫抑制細胞のレベルが高いことがわかった。この神経過敏なマウスでは、腫瘍に対する免疫攻撃を活性化する化学信号の発生も少なかった。

最後に、研究者らはコルチコステロンというホルモンを検討した。マウスなどの動物では、体の「攻撃・逃避反応」を制御する副腎皮質系が疾患やストレスに応答してコルチコステロンを産生する。不安マウスではこのホルモン値が上昇していたことから、他のマウスよりもストレスに敏感であり、追いつめられた感覚に対する閾値が低いと考えられることが示唆される。

「実験的操作を施す前のごく始めに心理的特徴を確認し、それが数カ月後の腫瘍増加と、機序を説明できる生物学的特徴に関連している可能性があることがわかったのは、うれしい驚きでした」とDhabhar氏は語った。

ヒトでは未だ試験されていないが、その必要があるともDhabhar氏は言う。

「癌の診断や治療がストレスや不安を生じるだけで十分悪いのですが、この研究は、不安とストレスが癌の進行をさらに加速させる可能性があり、悪循環が永続することを示すものです。目標は、少なくとも癌診断時と治療中の不安および慢性ストレスの影響を緩和または排除することです」とDhabhar氏は述べた。

チームが次に取り組もうとする段階は、不安とストレスによる負の影響を取り除くことによって癌の治療効果を改善できるかどうかを検討することである。一定期間に限りValiumのような抗不安薬を服用するのがよいのではないかとDhabhar氏は言う。薬剤や行動変化の組合せのなかには長期的に最も有効なものがあることも考えられる。「結局のところ、治療を最大限に生かして成功させるために、医学で外側からできることを何もかもやる一方で、実際には患者の心身を利用していきたい」とDhabhar氏は語った。

スタンフォード大学の共著者はこのほか、上級研究者Tyson Holmes博士、データベース管理兼分析担当Eric Neri、生命科学研究助手Jean Tillieであった。本研究チームは、テキサス大学およびオハイオ州立大学医学部の研究者らとも共同研究にあたった。

本研究は米国国立癌研究所の援助を受けた。

同じく本研究を援助したスタンフォード大学心理行動科学部の詳細は、http://psychiatry.stanford.edu/ をご覧ください。

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ギボンズ京子 訳
田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)監修
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原文

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