2012/05/15号◆クローズアップ「高悪性度の乳癌治療のために細胞のシグナル伝達経路を「繋ぎ直す」」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/05/15号◆クローズアップ「高悪性度の乳癌治療のために細胞のシグナル伝達経路を「繋ぎ直す」」

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2012/05/15号◆クローズアップ「高悪性度の乳癌治療のために細胞のシグナル伝達経路を「繋ぎ直す」」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年5月15日号(Volume 9 / Number 10)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
PDFはこちらからpicture_as_pdf
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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

高悪性度の乳癌治療のために細胞のシグナル伝達経路を「繋ぎ直す」

癌細胞は時間の経過とともに遺伝子変異を起こす。これが患者に対して薬剤が効かなくなる1つの理由である。このような変異は、細胞増殖を調節するシグナル伝達経路を変化させることが多い。新たな研究は、癌細胞でこれらの経路がどのように機能しているかを解明し、この知見を用いてシグナル伝達ネットワークを「繋ぎ直す」ことで、新たな治療方法を導くことができる可能性を示唆している。

Cell誌5月11日号に掲載された本研究では、研究室で乳癌細胞を標的薬と化学療法薬とで処理した。標的薬と化学療法薬の処理を同時に行うのではなく、標的薬で前処理することで、細胞は化学療法薬に対する感受性が大きくなった。

「本研究は、癌細胞を変化させる治療により化学療法薬に対する感受性を増加させることができることを示唆しています」と、責任研究者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のDr. Michael Yaffe氏は述べ、さらに「細胞は複雑なシステムです」と続けた。「1つの経路をブロックしたところ、シグナル伝達経路の繋ぎ直しが起こりました」。

癌細胞の感受性を増加させる

連続的アプローチでは、最初に細胞をエルロチニブ(タルセバ)に曝した。エルロチニブは、上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるタンパク質の活性を阻害する働きがある。次に少なくとも24時間後、一般的によく用いられている化学療法薬であるドキソルビシンに曝した。

Yaffe氏らは、トリプルネガティブ乳癌患者から採取した細胞を使用した。トリプルネガティブ乳癌は悪性度が高く、若い女性やアフリカ系アメリカ人で多く認められる。新しい治療法が必要とされており、本研究の結果を受けて、研究者らは臨床試験の計画を開始した。

「これらは興奮する結果です」とNCIの癌生物学部門のDr. Dan Gallahan氏は述べた。「一次治療で投与する化学療法薬のような既存薬に対する癌細胞の感受性をより高めるために、シグナル伝達経路の知識が必要であることを示唆しています」。

実験で用いた細胞株のおよそ40%は、エルロチニブの処理後、ドキソルビシンに対して反応した。時間差をつけて2剤を投与してから72時間後には、薬剤に反応した細胞は全て死滅したことが明らかとなった。

エルロチニブは、癌細胞の「DNA損傷薬に対する感受性を非常に高めました」と、本研究に助成金をだしたNCIの総合癌生物学プログラムの長でもあるGallahan氏は指摘した。

「癌細胞が治療に対して耐性を獲得することは分かっています」と同氏は続けた。「この研究は、システム生物学的アプローチから得られた癌細胞のシグナル伝達経路に関する新たな情報を、癌に対処するためにどのように使用できるかを明らかにしています」。

システム生物学からのヒント

Yaffe氏の研究室では、細胞がDNA損傷にどのように反応するか、そして細胞はどのように情報を統合するのかを研究している。最近、この研究室は、細胞内の複数のシグナル伝達経路やネットワークを同時に調査する新たな方法を開発した。このアプローチは、システム生物学と呼ばれることもある。

研究の第一段階では、異なる時間間隔で処理した薬の組み合わせが癌細胞に及ぼした影響を調査した。好ましい結果が得られれば、迅速に臨床試験に移行することを望んで、すでに承認されている薬あるいは患者に対する試験が行われている薬に重点を置いた。

「研究室での実験結果に基づき、特に薬剤に対する感受性がない細胞を採取し、その細胞を感受性を持つ状態に変えることが可能になるかもしれないと判断しました」とYaffe氏は説明した。細胞の状態が変化するという概念は、新しいものではないと同氏は指摘した。しかし、この実験で評価されたアプローチが、トリプルネガティブ乳癌細胞で試みられたことはなかった。

投与時間をずらすことなくエルロチニブと化学療法薬を併用した過去の臨床試験では、明確な結果は得られなかったとYaffe氏は指摘した。彼のチームは、マウスに対してもこのアプローチを行い、有益な結果を得た。

時間をずらしたアプローチに反応した細胞の中で、細胞死と関連するもう1つのシグナル伝達経路が活性化していたことも明らかになった。「システム生物学解析により、時間をずらした投与がなぜこれほど効果的に癌細胞を死滅させたかを示すことができました」とYaffe氏は述べた。

エルロチニブは、プログラム細胞死やアポトーシスに関係したシグナル伝達経路の「覆いを外す」ようであった。これは、処理していない細胞では有効ではなかった。この経路には、治療に対する反応のマーカーになり得るカスパーゼ8の名で知られるタンパク質が関与していると筆者らは述べた。

時間をずらした投与法で一番劇的な反応を示した細胞は、EGFRからのシグナル伝達が高レベルであったが、EGFR自体の変異や、その発現レベルの高低等とは無関係であった。

標的薬とDNA損傷薬の別の組み合わせを同じ方法で処理すると、一部の肺癌に対して効果がある可能性が追加試験により示された。

今後の課題

未来に目を向けると、Yaffe氏は2つの難題があると予測する。1つは、治療の候補を特定するためのマーカーとしてヒト腫瘍のEGFR活性の測定方法を見いだすこと。もう1つの難題は、腫瘍の異種性である。EGFRからのシグナル伝達に活発な細胞集団とそうではない細胞集団をもつ腫瘍の場合、このアプローチでは、EGFRからのシグナル伝達のない細胞集団を死滅させることはできないであろう。

「腫瘍の異種性は、(癌治療の際には)常に問題となり、われわれのアプローチではそれを回避できません」とYaffe氏は述べた。しかし、トリプルネガティブ乳癌患者には、このアプローチにより既存承認薬を用いる治療が改善する可能性がある人がいると同氏は続けた。

次のステップとして、MITの研究者と共同で、2剤を組み合わせて取り込みを遅らせる治療法の開発に取り組んでいる。1つの可能性は、表面をEGFR阻害剤でコーティングしたナノ粒子にドキソルビシンを内包するもので、マウスでの試験に向けて準備中である。

「まだシグナル伝達経路間でのクロストークが十分解明されていません。これが標的抗癌薬の使用を大きく制限しています」とYaffe氏は述べた。しかし、同氏は、「システム生物学を用いて、既存薬をどのように組み合わせれば適切かを解明することにより、癌治療が改善する可能性があります」と楽観的である。

— Edward R. Winstead

 

【上段画像下キャプション訳】新しい治療アプローチは、乳癌細胞の化学療法薬に対する感受性を高めることが目的である。黄色細胞は反応を示し(多くは死滅する)、赤色細胞は存続するが分裂しなくなり、緑色細胞は増殖し続けている。(写真提供:Neil Ganem氏、 David Pellman氏、 Michael Yaffe氏) [画像原文参照

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野川恵子 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター) 監修
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