2012/05/15号◆スポットライト「複雑な免疫学的癌治療法に進展の兆し」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/05/15号◆スポットライト「複雑な免疫学的癌治療法に進展の兆し」

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2012/05/15号◆スポットライト「複雑な免疫学的癌治療法に進展の兆し」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年5月15日号(Volume 9 / Number 10)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

複雑な免疫学的癌治療法に進展の兆し

今回の記事は、養子細胞移入(ACT)と呼ばれる免疫療法に関する2回シリーズ記事の第2回である。第1回記事では、進行メラノーマ治療における腫瘍浸潤リンパ球を用いたACTの一種について述べた。第2回記事では、現在種々の癌治療で研究が進められている遺伝子操作したT細胞に関して、およびACTを実験的治療から一般的な臨床治療に移行させるうえでのハードルについて述べる。

NCIの研究者が実施した患者15人を対象にした臨床試験で、癌治療法として急速に展開している養子細胞移入(ACT)の分野で画期的な結果が得られたことが、2006年のScience誌に掲載された。

試験に参加した患者2人の進行メラノーマでは、1回の治療で完全奏効を示した。この治療では、試験参加者のリンパ球を採取し、遺伝学的な修飾を行って実験室内で数十億個にまで増殖させた後、培養細胞を患者に注入する。

当時、NCI癌研究センター外科部門のDr. Steven Rosenberg氏らは、すでに同様のACTを利用して進行メラノーマ患者の治療で大きな成功を収めていた。それは、患者自身の腫瘍サンプルから採取した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と呼ばれるT細胞を直接用いて治療する方法である。

しかしこのScience誌の記事は、(腫瘍ではなく血液から採取した)T細胞に抗腫瘍能力を高めるような遺伝子操作を行って注入した初の報告であると、外科部門の研究者らは発表している。

主にメラノーマは大半の癌よりも強い免疫応答を引き起こすという理由から、ACTの性能試験にメラノーマが用いられてきた。しかしT細胞の遺伝子操作技術の発展により、これも急速に変わり始めている。

「(技術の発展で)ACTが現実的な治療選択肢となりうる癌は大きく広がりました」。ACTによる癌治療に関する現在までのほとんどの臨床試験を手がける外科部門のDr. Richard Morgan氏はこう述べた。

一方、どのようなACTであっても広く利用可能となった場合に乗り越えなければならない大きなハードルがある、とスローンケタリング記念がんセンターで複数のACTに関する臨床試験に関与したDr. Michel Sadelain氏は考えている。要は、これらの治療法は生きた免疫系細胞を非常に複雑なプロセスにより実験室内で変化させるもので、いつでも多数の患者に投与できるように大量生産して棚や冷蔵庫内に備蓄しておける錠剤や注射薬ではないということだ。

懐疑派はなおも多いが、「免疫系細胞による治療の可能性を信頼しはじめた人の数は増えています」とSadelain氏は話している。

よりよきT細胞を構築する

現在ACTでもっとも広く試験されているのはTIL治療であるが、遺伝子操作T細胞を用いるアプローチも徐々に広まりつつある。

メラノーマ腫瘍から採取したT細胞はすでに癌細胞を攻撃する態勢になっていることが多い。しかし、他の腫瘍では浸潤T細胞が少ないか、分離が難しいとSadelain氏は説明する。

このことから、研究者らは特定の遺伝子をT細胞に導入して腫瘍攻撃能力を増強できないか、抗腫瘍受容体の発現に的を絞って研究を開始した。この受容体はT細胞表面でドッキングの架台のように働き、細胞表面もしくは内部の(理想的には、癌細胞だけの)特異的な標的(抗原)を認識して結合する。

遡ること約20年前、T細胞を遺伝的に改変する初の試みは「まったくうまくいきませんでした」とSadelain氏は話す。「現在はもっとうまくできますし、患者T細胞に変更を加える方法はいくつもあります」。

研究の大部分は、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞の遺伝子操作に焦点がおかれてきた。T細胞がこれらの受容体を産生するために必要な遺伝物質は、ウイルスベクターにより導入されるのが普通である。ウイルスベクターとは、病原性をなくしつつも細胞DNAに入り込む能力を残したウイルスである。

どちらの受容体にも限界はある。CARは主成分が抗体の一部であるため、癌細胞表面に存在する抗原にしか結合できない。一方、TCRは細胞表面および細胞内の抗原を標的にすることができる。その代わり、TCRは癌細胞上の患者に特異的な免疫系タンパク質と遺伝的に合致している必要があり、複雑で制約が生じるかもしれないという別の一面がある。

「どちら(の受容体)を用いるかは基本的には生物学の問題です」とMorgan氏は話す。

癌細胞で通常発現し、正常細胞では発現しない適切な標的抗原を発見することが「大きな障壁」と同氏は述べており、ACT研究の律速段階になっているという。

いずれにせよ、両治療法ともに試験が行われている。

2006年のTCRを発現するT細胞を用いたメラノーマ試験以降、NCIの研究者は複数のパイロット試験で良好な反応があったことを報告している。2010年、NCIの研究者はCARを発現しCD19抗原を標的とするT細胞(Sadelain研究室の成果を一部ベースにして開発)を初めて用いた1人の濾胞性リンパ腫患者を対象にした最初の臨床試験について報告した。2サイクルの治療により、患者は約3年間の奏効が得られたとRosenberg氏は話している。別のリンパ腫または白血病患者8人の治療も行われ、うち7人で腫瘍が退縮し、3人は完全寛解に達した。

Dr. Malcolm Brenner氏を代表とするベイラー医科大学の研究者らは、複数の神経芽細胞腫の小児がGD2抗原を標的としたCAR発現T細胞による治療後に完全寛解に達したとする試験結果を報告している

そして昨年末には、ペンシルバニア大学アブラムソンがんセンターのDr. Carl June氏が、CD19を標的とするCAR発現T細胞により治療した慢性リンパ球性白血病患者3人の初期の所見について報告した。このうち2人は完全寛解、1人は部分寛解を得た。

この研究を行ったグループは、注入したT細胞の体内での正確な動きについてさらに理解するため治療後の患者についても研究に力を入れており、興味深い結果も出ている。

June氏の説明によると、アブラムソンがんセンターの試験に参加した患者では「注入したCAR発現T細胞またはその子孫細胞1個で1,000~93,000個の腫瘍細胞を破壊することがわかりました」という。この腫瘍細胞の大量破壊により、3~7ポンド(1.4~3.2kg)もの腫瘍が「消えてなくなったのです」と同氏は述べた。

遺伝子操作T細胞の数%はしばらく体内に留まり、一部は骨髄に定着して、おそらく癌が復活しそうになると活動を始めることを研究者は発見した。

最近のACTでは成果が得られているが、他の治療法と同じくどの患者でも効果があるわけではなく、高熱や入院期間の延長を要するような症状などの副作用がある。一例として、進行大腸癌患者が治療後数日で死亡した事例があり、サイトカイン急増の結果であることは明白であった。つまり、ACTの注入に端を発し大量の抑制不能な免疫応答が起こった。

大舞台への推移

ACTが広く利用可能になるといろんなことが起こると、この分野の多くの人が考えている。ベイラー医科大学の細胞・遺伝子治療センター長のDr. Brenner氏はACTの利用拡大が最重要課題の1つだと話す。

「今より広範囲の病気を治療できることを示すことができるようになるまで、今より広範囲の病気を治療するのに必要な資源(資金)を手に入れることができないのです」。昨秋行われたNCIが支援する免疫療法の学術会議でBrenner氏は冗談めかしてこのように述べた。数多くのACTに関する臨床試験が進行中で、この分野は発展し続けている(表参照)。

TCR/CAR発現T細胞によるACTのヒト臨床試験の例

実施機関 癌の種類
NCI メラノーマ、膠芽細胞腫、肉腫、膵癌、中皮腫
アブラムソンがんセンター 白血病、多発性骨髄腫、中皮腫、卵巣癌、肉腫
ベイラー医科大学 膠芽細胞腫、頭頸部癌
シティ・オブ・ホープがんセンター 神経膠腫、リンパ腫
スローンケタリング記念がんセンター 白血病、リンパ腫、前立腺癌

研究者は製薬会社やバイオテクノロジー企業などの協賛も得始めた。これらの企業には新治療法を市場に出すための資源とインフラがある。

例えばNCIは、商業生産可能なTILの製造法を開発し、より大規模の臨床試験に進めるための研究協定をGenesis Biopharma社と締結している。同分野の他の研究者も商業開発について各社と話し合っており、近い将来協定を結びたいと話している。

Rosenberg氏は、産業界の関与を必要としないACTの有力な臨床モデルの1つは骨髄移植だと考えている。専用の移植プログラムがある医療機関であれば国内どこでも利用可能だ。

一方、2010年に米国医薬食品局(FDA)が承認した前立腺癌ワクチンのシプロイセルT(商品名Provenge)は追随すべき産業モデルの成功例を示した、とMorgan氏は指摘する。

遺伝子操作および細胞培養プロセスは効率的かつ合理化されたものとなってきており、ACTはコストパフォーマンスの高い治療法となるかもしれない。アブラムソンがんセンターの研究チームは、現在CAR発現T細胞を10日間で100億個にまで培養する費用は約15,000ドルで、多くの新しい標的治療法より好ましい、とJune氏は指摘する。新しい標的治療法は1カ月の治療費がこの2倍にものぼる。

「間違いなく改善の余地があります」とJune氏は話す。遺伝子操作および細胞培養技術は進歩していくだろう、と同氏は続け、今後の研究および資金提供によって標的抗原の新しい同定法も開発されるだろうと述べている。

— Carmen Phillips

【上段画像下キャプション訳】

養子細胞移入は患者からのT細胞採取、細胞の培養、細胞の患者への再注入で構成。拡大すれば説明全文が読める。(図はS.Rosenberg氏[2011] Nature Reviews Clinical Oncology, 8:577-585による) [画像原文参照

 

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橋本 仁 訳
大野 智(腫瘍免疫/早稲田大学・東京女子医科大学) 監修
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