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積み重なるオピオイドと癌細胞増殖の関係を示す証拠/シカゴ大学

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積み重なるオピオイドと癌細胞増殖の関係を示す証拠/シカゴ大学

2012年のアメリカ麻酔学会の学術誌であるAnnual Journal Symposium issue of Anesthesiology誌に掲載された2件の研究と1件の解説によると、術後患者の疼痛や癌患者の慢性疼痛を解放するために使用されているオピオイド系鎮痛薬が腫瘍の増殖と転移を刺激する可能性がある。

 

「疫学的な知見は、われわれが癌手術で行う麻酔方法が癌の再発率に影響することを示唆し、実験研究ではオピオイド系鎮痛薬が腫瘍の進行と転移に影響することを示している」とUniversity of Chicago Medicine麻酔集中治療の教授であり、この話題に関する研究を要約した、解説の共著者であるJonathan Moss医学博士は述べた。「これらの研究は麻酔科医がどうすれば癌患者のために最適な麻酔と疼痛コントロールを行えるかを再評価する理由となる。」

 

新しい研究が新しい手掛かりを示す

モルヒネなどのオピオイド系鎮痛薬は200年にわたって術後疼痛や癌の慢性疼痛の最も標準的な治療となっている。しかし、2002年以降に発表された、いくつかの試験で、オピオイド系鎮痛薬が癌細胞の増殖と転移を刺激する可能性が示唆されている。 University of Chicago Medicineの実験研究とNorth Carolina Medical Centerの遺伝的研究は共に、μオピオイド受容体が腫瘍の進行に重要な役割を果たしていると主張し、オピオイド拮抗薬の治療的役割を支持した。

University of Chicago Medicine内科学助教であるPatrick Singleton博士が率いるグループによって学術誌に紹介された試験は、モルヒネを追加しなくても、もともと体内にある内因性オピオイドが、マウスに移植したヒト肺癌細胞の悪質な性質をどれほど強めるかを示した。

Singleton氏のチームは様々なタイプのヒト肺癌細胞が非肺癌細胞の5~10倍のオピオイド受容体を持つことを発見した。チームは、内因性オピオイドと受容体との結合によって活性化される生化学的経路のうち、最近の化学療法の標的となっているAktとmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)のふたつを解明した。チームはまた、この相互関係が、癌の増大と拡大における3つの特徴である、腫瘍細胞の増殖、遊走、浸潤をどのように促進するかを示した。

この研究では、オピオイド受容体を増加させたヒトの肺癌細胞をマウスに移植したところ、受容体を増加させなかった腫瘍細胞の2倍以上の早さで成長した。さらに深刻なことに、20倍も遠隔転移しやすかった。オピオイド受容体を遮断するナロキソンやメチルナルトレキソンなどの薬物治療は腫瘍の増殖や転移を減少させた。チームは「われわれの研究結果は、μオピオイド受容体が治療の標的になる可能性を示している」と結論づけている。

もうひとつの論文はUniversity of North Carolina麻酔科助教のAndrey Bortsov医学博士らによる後ろ向き研究で、オピオイドと癌の関係を支持するヒトのデータを用いている。

Bostsov氏のチームは過去の研究から、2000人を超える乳癌患者の生存率に注目した。浸潤性乳癌の治療を受けた女性で、オピオイドに対する感受性を低下させるわずかな遺伝子変異を持つと、癌の治療を行なった10年後も生存している傾向が強かった。この保護的遺伝子変異を一組もつ患者は約2倍、二組持つ場合は4倍生存する傾向があった。

著者らは「この研究の結果は内因性または外因性オピオイドがμオピオイド受容体を介して作用し、癌の予後に影響するだろうという仮説を支持することを示す」と述べている。

懸念の発生

オピオイドが癌の増殖を促すという考えは2002年のUniversity of Minnesotaの実験報告から始まった。その後、Virginia Commonwealth Universityの疼痛緩和ケアのランダム化試験から、外因性オピオイドの脊髄投与を受けた患者は、全身的投与より生存が延長することが見出された。そして、2件の後ろ向き試験は、局所または区域的麻酔を受けた乳癌や前立腺癌の患者のほうが、モルヒネの全身投与を受けるよりも術後生存率が改善することを示した。しかし、最近の大腸癌における疫学的研究では、その関連性を確認するには至らなかった。

Moss氏とUniversity of Chicagoの同僚らはこの件について同じ角度から取り組んだ。彼らはUniversity of Chicagoで開発され、2008年にアメリカ食品医薬品局に承認されたメチルナルトレキソンの臨床試験にも関わっていた。メチルナルトレキソンはRelistor™という商品名で販売され、脳で生じる痛みの緩和を妨げることなく、嘔気や便秘などのオピオイド系鎮痛薬の末梢神経系への副作用を防ぐことを目的としている。初期の臨床試験に続き、Moss氏らは例外的使用プロトコルにて、この末梢性オピオイド遮断薬を投与した患者が予想よりもより長期間生存したと述べた。

「進行性癌で平均余命1~2ヶ月と言われていた患者たちの何人かは、さらに5ヶ月から6ヶ月生存した。我々は、このことが単に消化管機能がよいことの結果なのか、腫瘍に対する効果なのかどうか考えた。」とMoss氏は回想した。

彼らはオピオイドの多くの末梢効果とこれらの効果を抑制することによる利益を調べるため、一連の試験を開始した。そして、これらのオピオイドは腫瘍の増殖、血管新生、血管透過性と転移を促進することを発見した。オピオイド受容体拮抗薬は腫瘍の増殖を抑制し、浸潤と転移阻止に寄与した。μオピオイド受容体が欠損したマウスでは、腫瘍は増殖しなかった。

学術誌の解説でMoss氏、Singleton氏、Frances Lennon医学博士は、モルヒネのような薬物やエンドルフィンなどの内因性オピオイドを論じた多くの試験結果から、オピオイドには免疫抑制効果ではなく、癌細胞に対する有意な直接的増殖促進効果があると思われる、とまとめている。彼らは癌の増殖と転移におけるμオピオイド受容体拮抗薬の治療的役割の可能性を示したが、「ヒトにおける直接的作用を証明した臨床試験はない」ことを警告している。

試験の財政的支援は米国国立癌研究所、University of North Carolina、University of Chicagoによって提供された。メチルナルトレキソンの開発者の一人であるMoss氏は、販売会社であるSalix Pharmaceuticals社からメチルナルトレキソンの売り上げのロイヤルティとコンサルタント料を受け取っている。

The University of Chicago Medicine
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高橋智子 訳
廣田裕(呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック)監修
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原文

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