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2012/04/17号◆クローズアップ「画像で脳腫瘍の遺伝子変異を的確に診断」

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2012/04/17号◆クローズアップ「画像で脳腫瘍の遺伝子変異を的確に診断」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年4月17日号(Volume 9 / Number 8)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

画像で脳腫瘍の遺伝子変異を的確に診断

最近の研究によれば、遺伝的変異により生成される物質を非侵襲的な画像診断技術を用いて検出することによって、グリオーマ(神経膠腫)におけるある種の遺伝的変異の有無を見定めることができる。グリオーマとは、もっともよく見られる型の脳腫瘍である。今後のさらなる研究によってこの発見が確認されれば、腫瘍内科医は手術や生検を繰り返すことなく、この手法を用いて、変異のある腫瘍かどうかの診断、グリオーマのいろいろなサブタイプの区別、腫瘍の進行の監視、再発の発見‐これらすべてを行うことができるかも知れない。

この手法では、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を用いて、2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)を検出する。2-HGは、正常組織にはほとんどないが、IDH1とDH2という2つの関連した遺伝子に変異があるグリオーマに畜積する化学物質である。これまで、IDH遺伝子変異や腫瘍内の2-HGを検出できる唯一の方法は、生検で採取した組織標本の分析をすることであった。これらのことを考え合わせると、この新しい研究は、2-HGがIDH変異のある腫瘍の非侵襲的バイオマーカーになり得ることを示している。

浸潤性の低悪性度(グレードIIないしⅢ)グリオーマの成人患者の70%以上にIDH変異がある。IDH変異は、一次性膠芽腫(グリオブラストーマ)にはあまり見られないが、低悪性度グリオーマから悪性化した二次性膠芽腫に多く見られる。膠芽腫は、もっとも悪性度の高い種類のグリオーマである。

IDH変異のある腫瘍では、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)という酵素の異常型が生成される。この酵素は、細胞のエネルギーを生成する代謝経路で重要な役割を担っている。遺伝子の変異は、酵素の正常な機能を損なうだけではなく、2-HGを産生する能力を酵素に与える。

MRSは、病院で画像診断に用いられるMRI装置を使って、磁気共鳴映像法(MRI)と同時に実施できる。MRIが解剖学的および構造的情報を提供するのに対して、MRSは組織内の代謝産物を検出することによって、細胞の活動に関する情報を提供する、と最近の一連の研究のひとつの筆頭著者であるハーバード大学医学部の放射線学講師Dr. Ovidiu Andronesi氏は説明した。

有用な情報に富む遺伝子変異

現状では、グリオーマの確定診断には生検と病理医による判定が必要であり、腫瘍はグレードIからIVに分類される。もっとも悪性度が高いのはグレードIV(膠芽腫)である。しかしながら、「ある2つのグレードIIの腫瘍は顕微鏡下では同じように見えるかも知れませんが、一方は非常に成長が遅いのに対し、もう一方は2年以内に患者を死に至らしめるかも知れません」とNIHの神経腫瘍学部門長で、MRS研究には携わっていないDr. Howard Fine氏は指摘し、「遺伝学と分子生物学に基づいて〔腫瘍を分類する〕ところまで行かなければなりません」と述べた。

このように、研究者らは、一般にIDH変異のある膠芽腫の患者が変異のない患者よりも長生きすることの発見に興味を持った。IDH変異は低グレードのグリオーマにおいて良好な転帰と関連することも、いくつかの研究からわかっているが、膠芽腫の場合ほど堅固に確立しているわけではない。

「腫瘍の悪性度が同一の〔グリオーマ〕患者のなかでは、IDH変異がある患者の方が予後が良好です」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)神経腫瘍学部門長のDr. Susan Chang氏は言った。Chang氏はUCSFの放射線学および医生物画像学の教授であるDr. Sarah Nelson氏が主導する研究に協力している。もしこれがさらなる研究によって検証されれば、新治療の臨床試験で予後が似た患者同士のグループ分けにMRSによる腫瘍の2-HG検査を活用することができるかも知れない。

IDH変異のあるグリオーマの手術前診断や、多発性硬化症による病変など非悪性脳病変の区別にもMRSを使用できる、と放射線物理学者のDr. Changho Choi氏とともにテキサス大学サウスウエスタン医療センターの試験責任医師を務めた神経腫瘍学者のDr. Elizabeth Maher氏は言う。この手法はまだ実験的であるけれども、20歳の患者の脳幹に生じた低悪性度グリオーマの診断に使い、高リスクの生検をせずにすんだことがあるとMaher氏は述べた。

研究結果

2-HGを検出するために用いられているMRS法はいくつかあるが、すでに確立された臨床的MRS法では、2-HGはよくある脳代謝物質と区別しがたい場合がある。Nelson氏らは、もともとグレードIIのグリオーマと診断されていた再発グリオーマ患者52人から採取した微少な組織標本から2-HGを非侵襲的方法で検出し測定した。組織標本の2-HG発現と、腫瘍組織にIDH1変異があることには、強い相関が見られた(IDH1の頻度は、IDH2変異の頻度よりもはるかに高い)。また、IDH変異のあるいろいろな悪性度の腫瘍における2-HG量と標本における腫瘍細胞の密度など、いくつかの組織病理学のパラメータとの間の相関を調べた。

UCSFの研究者らがMRSを用いてex vivo(生体外)で2-HGを検出したのに対し、Andronesi氏のチームは、非侵襲的MRSを用いて2-HGをin vivo(生体内)でも正確に検出できることを、2人のIDH変異のある腫瘍をもつグリオーマ患者で示した。4人の健常人においても、4人のIDH変異がない一次性膠芽腫患者においても、2-HGは検出されなかった。

2つの研究の付随論文で、マルセイユ(フランス)のティモン病院のDr. Philippe Metellus氏とDr. Dominique Figarella-Branger氏は「これら大きな発見」の臨床応用の可能性を詳述した。しかし、「これらの研究で用いたMRS法は、すべての臨床放射線の現場で使えるわけではありません。また、in vivoでの原理を証明したデータはもっと大きな集団で再現される必要があります」と述べている。

これらの懸念は、テキサス大サウスウエスタンの研究と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳神経外科学科副学科長のDr. Linda Liau教授が統括する研究によって、少なくとも部分的には解消された。いずれの研究も、標準的MRS法を大幅に変更することなく、ほとんどの病院や医療機関で日常的に実施できるin vivoのMRS法を採用した。

Liau氏のチームは、悪性度の異なるグリオーマ患者27人中24人において、IDH1変異のある腫瘍で高値になる2-HGをin vivoのMRSで検出できることを示した。また、手術前の患者についてMRSで非侵襲的に測定した2-HGの値が、対応する腫瘍標本を液体クロマトグラフィー質量スペクトロスコピー(LC-MS)という実験法で測定した2-HGの値と相関することも示した。

さらにMaher氏らは、グレードII、III、IVの30人のグリオーマ患者を対象とする試験で、in vivoのMRSによる2-HGの検出がIDH1ないしIDH2の変異およびLC-MSで腫瘍標本を測定して得られる2-HGの高値と相関することを示した。Liau氏のチームはまた、患者の腫瘍への2-HGの濃度を推定した。

もう一段先へ

それぞれのグループが用いたMRS法は一長一短であり、ほとんどの研究チームが今なお測定法を精密化し最適化しつつある。「どれが最適の手法かということについて裁定はまだ下っていません。〔どれが最適かを〕決するためには、よく似た状況下での比較試験をしなければなりません」と、Nelson氏は述べた。

「研究者らは次に、ゲノミクス手法をIDH変異検出の絶対基準としつつ、諸法の感度や特異度を確立、いわゆる検証を行わなければなりません」、「1施設、1グループについて検証がなされるだけではなく、他の人も〔結果を〕再現できることが重要です」とAndronesi氏は指摘した。

研究者らは、臨床応用の可能性を検証することを視野に入れながら、2-HGを検出するためだけではなく、腫瘍内の2-HG濃度を正確に測定するために、in vivoのMRSが利用可能であることを示そうとしている。「そこに何かがある、と示すことと、±10%の精度で測定できることは別物です。わずかな変化を見るためには、後者が必要です」とNelson氏は述べた。

もし、2-HG値が腫瘍の成長や進行を反映することが示されれば、医師はMRSで測定した2-HG値を用いて治療に対する反応を監視することや、IDH変異のあるグリオーマ患者の腫瘍の進行の早期徴候を見つけることができる。「最終的に、低悪性度腫瘍の約80%は悪性度がもっとも高い腫瘍へと変化します。にもかかわらず、大きな腫瘍に成長する前に〔MRIで〕それを見つける手立てがないのです」とMaher氏は言う。

同様に、術後の腫瘍再発を非侵襲的に見つけるためにMRSを使うことができるのではないかと医師らは期待している。徴候を早期につかむことは「今日の腫瘍内科医にとって最大の難関の1つです」とNelson氏は指摘する。なぜなら、再発を示唆する標準的MRI上の変化は、じつは治療の影響による変化かも知れないからである。

「もっと広い図式からいえば、2-HGだけが重要な代謝物質であるというわけではないかも知れません」とLiau氏は述べた。彼女のグループも、Maher氏とNelson氏のグループも、グリオーマの一連の代謝物質の変化を研究するためにin vivoのMRSを用いている。それらの情報は、腫瘍の悪性度や疾病の進行を示す「分子生物学的な指紋」を確立するために、また、なぜグリオーマが形成され進行するのかという基礎生物学を理解するために、用いることができるかも知れない。

—Elia Ben-Ari

関連記事: 「脳腫瘍に高頻度で見つかった新たな変異

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盛井有美子 訳
寺島慶太(小児科/テキサス小児病院) 監修
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