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2012/04/17号◆特集記事「標的化ナノ粒子、癌患者で試験」

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2012/04/17号◆特集記事「標的化ナノ粒子、癌患者で試験」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年4月17日号(Volume 9 / Number 8)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

標的化ナノ粒子、癌患者で試験

薬物放出量を調節できる標的化ナノ粒子に関する初の臨床試験が現在進行中である。化学療法薬ドセタキセルをナノ粒子に封入することにより、高用量の薬物を腫瘍へ直接到達させ、患者に対する毒性を緩和するのが狙いだ。臨床試験に先立って行われた動物実験では、ナノ粒子を用いると未封入(遊離状態)で投与した場合よりもはるかに高用量の薬物が腫瘍細胞に到達可能であった。しかもこのナノ粒子は、ドセタキセルそのものが持つ以上の毒性が認められなかった。

BIND-014というこのナノ粒子の開発について、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学医学部と同ブリガム&ウィメンズ病院、およびBIND Biosciences社の研究者グループが4月4日付Science Translational Medicine誌で報告した

「通常、癌治療薬を投与すれば全身に行き渡って非常に重い副作用を引き起こします。しかも腫瘍に達するのはごく一部です」と本研究の上級著者でMITのDr. Robert Langer氏は述べた。「ナノ粒子を用いる治療はより安全で効果もはるかに高いことが、今回の臨床試験で初めて示されました」。

前臨床段階から有望視

臨床試験より先に行われたマウスの異種移植片モデル研究で、腫瘍に到達したドセタキセルの量は、ナノ粒子に封入して投与した場合、未封入の7倍であった。加えて、今回の標的化ナノ粒子を投与したマウスでは、標的化されていないナノ粒子と比べ、腫瘍の退縮効果が非常に高いことがわかった。標的化ナノ粒子で見られた腫瘍の退縮は未封入のドセタキセルと比べても効果が高かった。ナノ粒子投与時の副作用は未封入ドセタキセル投与時以上のものはなかった。

別の動物実験では、ナノ粒子に封入したドセタキセルは未封入のものに比べ非常に長く血中を循環し、循環中は薬物が粒子内にしっかりと封入された状態を維持した。また、BIND-014の肝臓での蓄積は認められなかった。他のナノ粒子ではこの望ましくない蓄積がほぼ毎回認められる。

動物実験における有望な結果を受け、研究者らは種々の化学療法が奏効しない固形腫瘍患者における最大耐用量を明らかにするため第1相臨床試験を開始した。本試験は現在も進行中だが、初期の研究結果をScience Translational Medicine誌で報告するとともに、最初の患者17人分の追加データを4月4日に行われた米国癌学会(AACR)年次総会でポスター発表している。

本試験の初期データは、BIND-014に抗腫瘍活性があり全般的に忍容性が高いことを示している。注目すべきは、転移性胆管癌患者と扁桃癌患者の腫瘍が退縮したことだ。いずれも未封入ドセタキセルを投与した場合と比べ相当低用量で効果を発揮しており、これは前臨床段階の実験でBIND-014が効果的に腫瘍に集まったという結果と一致している。別の子宮頸癌患者でも腫瘍が6カ月以上継続して縮小しており現在も治療中である。

新プロセス

血流中でドセタキセルを安全に運搬し直接腫瘍へ到達させるナノ粒子を作製するため、ナノ粒子の設計にあたり新しい手法を開発した。これまではまず前駆物質であるナノ粒子を作製し、その後例えば腫瘍細胞に対するリガンドとして知られている分子を結合させることにより粒子の性質を修飾していた、と本研究の別の上級著者でハーバード大学医学部のDr. Omid Farokhzad氏は説明した。

このプロセスの問題点は、粒子設計のわずかな変更に対して本質的に再現性を示し得ないことだとFarokhzad氏は話す。「各ロット間にばらつきが生じるため、ごくわずかずつ性質が異なるナノ粒子を作って目的の薬理・薬剤パラメータを正確に有するナノ粒子を見いだすことは不可能でした」。

この問題を解決するため、研究者は100種類以上の新しい自己組織化ナノ粒子のライブラリーを作製した。これらのナノ粒子は、それぞれ異なる機能を持つ分子の長い鎖として始まる。例えば化学療法薬を保持・放出したり、ナノ粒子が免疫システムを逃れたり、腫瘍細胞に結合たりするなどの機能だ。

自己組織化する前であれば鎖上のどの分子に対しても微小な変化を加えることができ、それにより求めている性質の薬物運搬体を選び出せる。求める性質が分子鎖に加われば、化学療法薬を含む水溶液に滴下し、正確に設計されたナノ粒子を作製できる。

鎖上の分子には水に溶けない分子と溶ける分子があるため、ナノ粒子は予測・再現可能な様式で自己分子内または周囲の物質とともに折りたたまれて、最終産物が生成される。「今は生物物理化学的な性質が微妙に異なるナノ粒子を非常に再現性よく作製できます。毎回同じ様式なので、ライブラリー中の最適なナノ粒子を検査できます」とFarokhzad氏は述べた。

「実験室で無数の自己組織化作業を行いました。ナノ粒子の作製にはこれが自然な方法であったからですが、自己組織化とこの非常に高い再現性を持つナノ粒子のライブラリーを作製する方法の組み合わせが重要でした」。Langer氏はこう付け加えた。

会社設立

この粒子ライブラリーに関する最初の業務は、NCIの癌ナノテクノロジー協会による癌ナノテクノロジー中核的研究拠点に対する助成金により施行された。この研究は臨床への早い進展が期待され、研究者らは2007年にNCIの中小企業技術革新研究助成金に応募し、独立した企業であるBIND Biosciences社設立のために助成金を受けた。

BIND社の研究者らは、薬物放出速度やナノ粒子の安定性の測定を行うために全ライブラリーのin vitroでのスクリーニングを継続した。もっとも有望なナノ粒子群はラットによる薬物動態試験へと進んだ。さらに試験・製造を行う粒子としてBIND-014が選択された(BIND-014は、前立腺特異的膜抗原と呼ばれる前立腺癌の表面やその他固形腫瘍に栄養を搬送する血管表面に存在するタンパク質を標的とする)。

「ナノテクノロジーの進歩により、非常に強力な基材と産物候補が開発され、臨床に適用されたときに何が起こりうるかが、この共同研究により示されました」。BIND Biosciences社薬剤学部門取締役で本研究の筆頭著者であるDr. Jeffrey Hrkach氏はこう述べた。

「ナノ医学がより調節しやすく、より効果の高い化学療法につながってほしいものです」。NCIの癌ナノテクノロジー研究オフィス代表で癌ナノテクノロジー協会を管轄するDr. Piotr Grodzinski氏はこう話している。「おそらく、過去に毒性が強いとして臨床試験でふるい落とされた薬剤についても、ナノ粒子によって安全な投与が可能となるか再検討することができます」。

—Sharon Reynolds

【右上図キャプション訳】
BIND-014模式図(イラストはDigizyme社Gaël McGill氏による) [画像原文参照

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橋本 仁 訳
石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学) 監修
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