2012/04/03号◆スポットライト「エピジェネティックな変化を標的とし、癌細胞を再プログラムする薬剤」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/04/03号◆スポットライト「エピジェネティックな変化を標的とし、癌細胞を再プログラムする薬剤」

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2012/04/03号◆スポットライト「エピジェネティックな変化を標的とし、癌細胞を再プログラムする薬剤」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年4月3日号(Volume 9 / Number 7)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

エピジェネティックな変化を標的とし、癌細胞を再プログラムする薬剤

2012年米国癌学会(AACR)年次総会で発表された研究において、エピジェネティック治療という新しい癌治療法についての新たな知見が示された。DNAを損傷させたり、重要な細胞内伝達経路の阻害により癌細胞を殺すといった従来の治療法とは異なり、エピジェネティック治療は、メチル化と呼ばれる遺伝子発現調節プロセスなど、DNAに対する化学変化を阻害することにより癌細胞の挙動を変化させるものである。

エピジェネティック治療の背景にある考えは、癌細胞のDNAに影響を及ぼす化学変化のネットワークを「再プログラム」することであると、フィラデルフィアのテンプル大学医学部のDr. Jean-Pierre Issa氏は説明した。この再プログラム化により、癌細胞の増殖や生存を促進する重要な遺伝子の活性を変化させることができる。この治療法は「DNAのメチル化を効果的に初期化することができます」と、Issa氏は述べた。

SGI-110はデシタビン[Decitabine] (ダコゲン[Dacogen])というメチル化阻害薬を改良した開発中のエピジェネティック薬であるが、Issa氏は、SGI-110のヒトに対する初めての臨床試験を行った。SGI-110はデシタビンよりも安定な薬剤であるので、より長期間効果が続く可能性がある。デシタビンは米国食品医薬品局(FDA)により、白血病の前段階である骨髄異形成症候群(MDS)の治療に承認されている。

Issa氏の研究室とAstex Pharmaceuticals社の研究者らは、Stand Up To Cancerという団体から資金提供を受け、共同でSGI-110の開発をしている。

66人のMDSあるいは急性骨髄性白血病(AML)の患者が、SGI-110を2つの治療スケジュールによって投与量を段階的に増減するこの臨床試験に参加した。前回の治療後にAMLが再発した患者2人が完全寛解し、1人が部分奏功したとIssa氏は年次総会で報告した。完全寛解した患者は、メチル化が最も効果的に阻害されており、血液中の薬剤濃度が最も高かった。

治療はおおむね忍容性がよく、中等度の副作用が出現するのみであった。「癌細胞は正常細胞よりも生存に関してDNAメチル化に依存するところが大きいので、治療による副作用がなかったのでしょう」と、Issa氏は説明した。

2つの投与法のうち、一方がより効果的にDNAメチル化が阻害できることが分かったので、将来の臨床試験ではその投与法が使われるだろうと、同氏は指摘した。

癌細胞に新しい記憶を与える

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのDr. Stephen Baylin氏はAACRの年次総会にて、デシタビンともう1つのメチル化阻害薬であるアザシチジン(ビダーザ)の研究結果を発表した(この知見Cancer Cell誌3月20日号にも掲載された)。アザシチジンもFDAによりMDSへの治療が承認されている。

Baylin氏のチームは、この薬を低用量で処理すると、白血病、乳癌、大腸癌など異なった癌の細胞株やマウスモデルで抗腫瘍効果が認められることを明らかにした。処理後に細胞を分析すると、DNAメチル化が低下しており、腫瘍の増殖や細胞死に影響する遺伝子が再活性化されていた。

この研究は、Dr. Cynthia Zahnow氏が共同で行い、NCIやStand Up To Cancerなどの団体から資金提供を受けているが、必ずしもこの薬の抗腫瘍効果を分析するために計画されたわけではなく、低用量の治療によるエピジェネティックな影響をより明らかにするために計画されたと、Baylin氏は説明した。

同氏によれば、それらの細胞は3日間だけ薬で処理された。その後、「1~2週間休ませた後、細胞の動きに影響を与える遺伝子のうち、どの遺伝子を“覚えているか”を調べるために、マウス体内に移植した」。無処理細胞を移植されたマウスに比べ、処理細胞を移植されたマウスでは腫瘍増殖が強く抑制された。このことは、脱メチル化薬を処理された腫瘍細胞は、薬の細胞増殖抑制作用を“記憶している”ことを示唆している。

この薬は、幹細胞に似た癌細胞、つまり自己複製能力があり、多くの現行の治療に対して本質的に抵抗性である細胞の遺伝子活性も変化させることができるようだと、Baylin氏は続けて述べた。

アザシチジンとデシタビンは1970年代と1980年代に大規模に試験されたが、癌細胞を即座に殺すのに必要な高用量で使うと患者への毒性が強すぎた。しかし、FDAはずっと少ない用量でMDS治療に対しこの薬を承認した。AML患者のなかにも低用量で効果がある人がいた。FDAはいずれの薬もAMLに対して承認していないが、医師の中にはAML治療のために適応外使用している者もいると、Issa氏は語った。

Baylin氏は、これらの新しい知見は、低用量のアザシチジンやデシタビンは複数の癌で効果があることを示唆すると考えている。また、進行肺癌患者に対する低用量アザシチジンと、別のエピジェネティック薬であるエンチノスタット(entinostat)との併用療法の早期臨床試験(昨年初めて報告)の最新の結果も発表した。数人の患者で、強い抗腫瘍効果を示し、治療終了後も効果が続いている症例もあると、同氏は報告した。

この試験の多くの患者は、先行する複数の治療をすでに受けていた人が多いが、「次の治療に進んでおり、非常に高い効果がいくつか見られ始めています」とBaylin氏は語った。

例えば、ジョンズホプキンスでアザシチジンとエチノスタット併用療法の臨床試験に参加した4人の患者はその後、抗PD1もしくは抗PD1-L1という免疫療法の治験薬のいずれかの投与を受けた。両薬剤は、腫瘍に対する免疫反応の阻害に関わる分子を標的とする。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのDr. Suzanne Topalian氏はAACRの全体会議で4人のうち3人は客観的な抗腫瘍効果があったと報告した。

成熟しつつある研究分野

エピジェネティック治療は期待が持てるが未知なことも多いと、ダナファーバー癌研究所のDr. Kornelia Polyak氏は強調した。この臨床試験と研究においてDNA脱メチル化が有効であるとの結果が示されたが、「実はもっと複雑な可能性があります」。

これらの薬は好ましい効果ばかりをもたらすわけではないと、同氏は続けた。染色体を構成するDNAとタンパクの複合体であるクロマチンの構造が、エピジェネティック治療により影響を受ける可能性があり、長期間にわたる副作用を引き起こすかもしれない。他に治療法がほとんどない進行癌の患者には、このことは重要ではないかもしれないと指摘し、「しかしこれらの薬をより早期の癌に使うようになると、非常に注意しなければならないでしょう」とPolyak氏は述べた。

しかし臨床的な立場からみると、脱メチル化薬は「短期間の使用でも長期間の効果があるので魅力的です。そのことは既にMDSで経験したとおりです」と同氏は続けた。

「この分野はうまく成熟しつつあります」とIssa氏は述べた。しかしまだ研究が必要であり、「現在の『脱メチル化』薬では患者を治すことはできず、これらの薬に対する抵抗性が出現しつつあります」。

Baylin氏とIssa氏のグループは脱メチル化薬を他の癌の治療に用いることや他の治療法と併用することを研究している。「現在認められる大きな成果のひとつは、脱メチル化薬を用いると、その後に行われる治療の効果が良くなることです」とBaylin氏は語った。

— Carmen Phillips

【上段画像キャプション訳】
メチル基という化学標識がDNAに結合すると、遺伝子発現が開始もしくは阻害される。DNAメチル化は癌の遺伝子調節に重要な役割を果たす。(画像提供:Max Planck Institute for informaticsのChristoph Bock氏)

【中段引用部分】
エピジェネティック治療の背景にある考えは、癌細胞のDNAに影響する化学変化のネットワークを「再プログラム」することである。

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野長瀬祥兼 訳
田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学) 監修
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