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テロメア欠失とテロメラーゼ活性が前立腺癌進行を加速/MDアンダーソンがんセンター

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テロメア欠失とテロメラーゼ活性が前立腺癌進行を加速/MDアンダーソンがんセンター

マウスモデルおよびヒト腫瘍ゲノム解析により遺伝子変異を同定する研究
M.D.アンダーソンがんセンター
2012年2月20日

染色体を保護しているキャップ構造の解離によりゲノムが不安定となったとき、このキャップ構造を付加する酵素が活性化することで、悪性細胞が細胞死をまぬがれ、致死的な特徴を持つようになることが、Cell誌Online Nowに報告された。

前立腺癌発症形質を導入したトランスジェニックマウス系統において、全マウス2段階の過程を経て致死的な前立腺癌を発症し、そのうち25%は脊髄に伝播した。この過程を回避したマウス2群では前癌病変または局所前立腺癌を生じるにとどまった。

マウスの転移性腫瘍およびヒトの転移性前立腺癌に認められた遺伝子変異の比較分析を行ったところ、骨転移促進因子としてSmad4遺伝子が同定された。このほか14個の遺伝子がヒト前立腺癌の予後に関連することがわかった。

本研究ではテロメアに着目した。テロメアとは、染色体両端のヌクレオチドの繰り返し配列のことで、細胞分裂時のゲノム損傷を防ぐ。細胞分裂のたびにテロメアは短縮し、最終的には細胞内ゲノムが不安定となり、通常このような異常細胞は死に至る。

癌ではテロメラーゼという酵素が活性化してテロメアが伸長する結果、損傷細胞が生き残って複製される。正常細胞ではテロメラーゼは活性化していない。

テロメラーゼ活性化で腫瘍に新しい力
「マウスのin vivoにおける研究、ならびにヒトおよびマウスの前立腺癌のゲノム解析データから、テロメアの機能不全が前立腺癌の発症および進行に重要な役割を果たすというエビデンスが示されました」。共同の統括著者でテキサス大学MDアンダーソンがんセンター・ゲノム医学部門教授兼部長のLynda Chin医師はこのように述べた。

「また、テロメア機能不全によりゲノム不安定性が生じた後にテロメラーゼが活性化すると癌が進行し、進行性ヒト前立腺癌の主要な特徴を含む生物学的性質を獲得することも本研究で併せて示されました」とChin氏は話す。

本研究は共同統括著者のChin氏およびMDアンダーソンがんセンター総長のRonald DePinho医師らにより、ボストンのダナファーバー癌研究所で行われた。

テロメア機能不全がテロメラーゼに「点火」、骨転移をきたす
研究チームは腫瘍抑制遺伝子であるp53およびptenがともにノックアウトされ、通常非転移性前立腺癌を発症し、一部でテロメラーゼを発現するよう改変したマウス1系統を用いた。このマウスを数世代異種交配させた。

・テロメアに損傷のないマウス対照群(野生型およびテロメラーゼ発現マウス)では、テロメアの短縮によるゲノム不安定性が回避された。これらのマウスはすべて局所侵襲性で非転移性の前立腺癌を発症した。
・テロメラーゼ欠失マウス群ではテロメア機能不全および遺伝子変異が認められ、前癌病変である高悪性度前立腺上皮内腫瘍(HPIN)を発症したが、うち60%は前立腺癌への進行は認められなかった。このマウス群では遺伝子異常によって起こるプログラム細胞死の兆候が多く認められた。
・テロメア機能不全、ゲノム不安定性、テロメラーゼ活性化が発現するよう改変したマウス群でもHPIN発症が認められたが、こちらは致死的な巨大腫瘍へ進行した。20匹のうち5匹は脊椎転移が認められたが、これはゲノムの安定なマウス群には認められないものであった。

「テロメラーゼ再活性化により、テロメア機能不全で生じる癌進行の抑制を回避するだけでなく、骨転移という新たな特性も加わりますが、これらはテロメア機能不全とテロメラーゼ再活性化のない腫瘍においては認められませんでした」。ダナファーバーの元研究者で現在Sanofi-Aventis社勤務の第一著者、Zhihu Ding医学博士はこのように述べた。

「上皮細胞癌が完全に悪性進行する際には、テロメラーゼ再活性化とゲノム安定化が不可欠であることを示す初の遺伝学的なエビデンスとなりました」とDing氏は述べた。

マウスとヒトの遺伝子変化を比較
Chin氏およびDing氏らは、マウスの進行性腫瘍18件とヒト前立腺腫瘍194件における遺伝子コピー数異常(遺伝子の欠失・増幅)を分析した。

マウスで同定されている741個の遺伝子のうち、欠失または増幅のあるコピー数異常が94個あり、そのうち22個がヒトに見られるものと同じであった。骨転移に認められた変化の一連の分析で、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF- ß)経路を調節するSmad4腫瘍抑制遺伝子の欠失が示唆された。

研究チームはこの知見をもとに腫瘍抑制遺伝子のp53およびptenをノックアウトしたモデルマウスを作製した。このマウス群では骨転移は発現しなかったが、Smad4も併せてノックアウトすると高侵襲性腫瘍が発現し、24匹のうち3匹は骨転移が認められた。

ヒト前立腺癌の予後予測遺伝子
次に、骨転移の際に活性化することが認められる9個の分子経路に関連する14遺伝子に着目し、前立腺癌患者140人の再発を予測できるか調べた(外科手術後のPSA値で評価)。

14遺伝子全体で見ると生化学的再発の有意な予測因子となっており、ヒト前立腺癌との生物学的関連を示すエビデンスが得られた。一方、個々の遺伝子がどう関わるかやメカニズムについては追加研究が必要と指摘している。

「マウスモデルに認められた遺伝子型と表現型の相関関係を対象として、前立腺癌に至る分子メカニズム解明のためにゲノム解析とバイオインフォマティクスの威力を用いた今回の統合的アプローチは、全体として妥当であることが示されました」。共同筆頭著者でMDアンダーソンゲノム医学部門博士研究員のChang-Jiun Wu博士はこう述べた。

Chin氏、DePinho氏、Ding氏、Wu氏の他の共著者は次のとおり。
Alexei Protopopov博士、Jianhua Zhang博士、 Liren Li, M.D博士(以上、MDアンダーソンゲノム医学部門)。Guocan Wang博士、Xin Lu博士、Jian Hu博士、Wei Wang博士、Shan Jiang博士、Yaoqi Alan Wang博士(以上、MDアンダーソン癌生物学部門)。Maria Kost-Alimova氏、 Chin氏、 Protopopov氏、Zhang氏 (以上MD Anderson’s Institute for Applied Cancer Science)。以上全員、元ダナファーバー癌研究所所属。その他の研究者は以下のとおり: Mariela Jaskeliof博士、Elena Ivanova博士、Gerald Chu医師・博士、Emma Labrot氏、 Yonghong Xiao博士、Hailei Zhang氏、 Jingfang Zhang氏、 Boyi Gan博士、Samuel Perry氏(以上、ダナファーバー癌研究所腫瘍学部門)。

本研究は以下の資金提供を受けている。
米国国立癌研究所、前立腺癌財団、国防省、デイモン・ラニアンがん研究財団、多発性骨髄腫研究財団、米国癌学会、Robert A. and Renee E. Belfer Foundation。

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橋本仁 訳
石井一夫  (ゲノム科学/東京農工大学) 監修
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原文


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