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豊かな環境での負荷が癌増殖を抑制/オハイオ州立大学

  • 2010年8月3日


    オハイオ州立大学
    2010年7月8日

    オハイオ大学総合がんセンター、Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Instituteの研究者らによる新たな研究によれば、身体的、精神的、社会的な刺激に富んだ環境、つまり軽度のストレスをもたらす環境での生活自体が、癌の増殖を抑制するようだ。
    研究における動物実験では、この効果がどのような機序で起こるかも示されたため、治療に応用できるのではないかと示唆されている。この研究はCell誌7月9日号のトップ記事で発表された。

    研究者らは、刺激に富んだ環境が、脳から脂肪細胞への情報伝達に使用される神経経路を活性化することを見出した。この経路は視床下部−交感神経−脂肪細胞(HSA)系と呼ばれ、レプチンと呼ばれるホルモンの血流への放出を停止するよう脂肪細胞に伝達する。本来レプチンは食欲の抑制を助けるが、本研究によって癌の増殖を促進することが判明した。

    このような環境は、メラノーマと大腸癌のモデルにおいても同様の癌抑制効果をもたらした。

    「癌サバイバーはストレスを避けるべきだと考えがちですが、それが真実であると一概には言い切れないと私たちのデータは示唆しています」と研究主任で、神経科学、脳神経外科、分子ウイルス学、免疫学、遺伝医学教授のMatthew J. During博士は述べる。

    「副腎からのホルモンの放出によって判断したところ、本研究で観察された抗癌作用は、単に動物の活動増加によるものではなく、むしろ軽度のストレスをもたらす社会的、身体的負荷により引き起こされていました」

    「しかし、刺激に富む住環境がHSA経路を活性化した後、最も劇的に変化したのは脂肪からのレプチン分泌の減少でした。この経路はヒトにも存在し、より複雑でやりがいのある生活によって活性化すると考えられます」と付け加える。

    本研究用に作成された刺激に富む環境では、無制限に食料と水を与えられる大きな容器に、おもちゃ、隠れ場所、ランニングホイールを備え、そこで20匹のマウスを飼育した。一方、対照群の環境は、食料と水は無制限に与えられるが、おもちゃのない小さく標準的な実験容器で、5匹ずつ飼育された。

    研究者らは両群のマウスにヒトメラノーマ細胞を皮下投与した。3週間後、刺激に富む住環境のマウスの腫瘍の大きさは、対照群のマウスの約半分であった。6週間後、これらの腫瘍は対照群の約5分の1の大きさに縮小し、刺激に富む住環境のマウスの約20%において肉眼的腫瘍がなくなった。その一方で、対照群ではすべてのマウスに肉眼的腫瘍があった。

    この効果をさらに調査するため、During氏らは代謝に関与するいくつかのホルモンの血中変化を調べた。これらのうち、レプチンは刺激に富む住環境群で激的な低下を示した。
    一連の実験で、レプチンと神経経路が腫瘍の増殖に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。

    視床下部と呼ばれる脳領域を詳しく調べると、食物摂取やエネルギー収支のコントロールにおいて重要な役割を果たすBDNF(脳由来神経栄養因子)の遺伝子が、刺激に富む住環境群でより活性化していることが分かった。

    この遺伝子のコピーを標準的な住環境のマウスの視床下部に移植すると、刺激に富む環境と同様の効果をもたらし、腫瘍の大きさは25%にまで縮小した。このような介入は臨床的にも可能なため、ヒトの治療用に開発できる可能性がある。一方、この遺伝子を阻害すると効果はなくなり、刺激に富む環境のマウスでも大きな腫瘍が発症した。

    「単一遺伝子の脳への移植が癌に激的な影響を与えると示唆するのは今回が初めてです」とDuring氏は述べる。

    次に研究者らは、レプチンを生成できず、そのためにレプチンがまったくない系統のマウスについて調査した。これらのマウスにレプチンを投与すると、生理食塩水を投与したマウスに比べ40%大きなメラノーマ腫瘍を発症した。

    最終的に、刺激に富む環境は2つの大腸癌モデルにおいても同様の癌抑制効果を示した。1つのモデルでは、腫瘍が腸内で自然に発症し、他方では、癌細胞の皮下投与後に肉眼的腫瘍が発症した。

    研究者らは2番目のモデルを用い、肉眼的腫瘍が十分に増殖してから6日後に、刺激に富む環境に動物がおかれると、抗癌効果が生じることを発見した。

    「この発見は、刺激に富んだ環境が治療において重要である可能性を示唆しています」とDuring氏は述べる。

    During氏は身体的活動の増加、つまりホイールでのランニングだけでは抗癌作用を生じたり、HSA系を活性化させたりしないことに注目している。活動の増加によって、対照群ではストレスホルモンであるコルチコステロン(副腎皮質ホルモン)の濃度は低下したが、刺激に富む住環境のマウスのホルモン濃度は上昇した。この現象は、より大規模で複雑な群飼いと関連した負荷や社会的葛藤によると考えられる。

    「これらのことから私たちの研究は、この神経経路が環境的または遺伝子的に活性化されることにより血清レプチン濃度が著しく低下し、それによって腫瘍の増殖が阻害されることを示唆しています」

    本研究は米国国立神経疾患・卒中研究所の資金提供を受けた。

    本研究に参加した他の研究者は以下の通りである。
    筆頭筆者で責任共著者のLei Cao氏、オハイオ州立大学のXianglan Liu, En-Ju D Lin氏、Chuansong Wang氏、Eugene Choi氏、Veronique Riban氏、コーネル大学Weill Medical CollegeのBenjamin Lin氏。

    オハイオ州立大学総合がんセンター(OSUCCC)- Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute (http://cancer.osu.edu)は、米国国立癌研究所から指定を受けた米国内で40しかない総合がんセンターのうちの一つである。Jamesは、U.S. News & World Report誌によって米国内のトップ20以内にランク付けされており、オハイオ州立大学の癌プログラムの中で180床を有する成人患者治療部門である。OSUCCC-Jamesは、第1相臨床試験、第2相臨床試験を実施するために、NCIにより承認され、資金提供を受けた国内でたった7つのプログラムのうちの一つである。

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    吉田加奈子 訳
    朝井鈴佳(獣医学・免疫学)監修
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    原文


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