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新たな役割:EZH2発現によって卵巣癌で血管新生が促進される/M.D.アンダーソンがんセンター

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新たな役割:EZH2発現によって卵巣癌で血管新生が促進される/M.D.アンダーソンがんセンター

低分子干渉RNA内封ナノ粒子によって生存率不良に関係するタンパク質を阻害する
M.D.アンダーソンがんセンター
2010年8月16日

癌の進行に関与するタンパク質が腫瘍内部に豊富に存在する場合、そのタンパク質が腫瘍の増殖を促進する新たな血管形成を調節するという意外な結果が、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター研究者らが率いた研究チームによりCancer Cell誌8月号に報告された。
そのタンパク質の形成を阻害するナノ粒子をベースとした遺伝子サイレンシング法を用いることで、研究者らは腫瘍に向かう新しい血管の形成(血管新生)を阻害することに成功し、卵巣癌細胞株を移植したモデルマウスでは腫瘍量が著しく減少する結果を得た。

「EZH2タンパク質が、新しい血管の形成を阻害する遺伝子を遮断することで腫瘍増殖を促進することを発見しました」と、本研究の統括著者で、テキサス大学M.D.アンダーソン婦人科腫瘍学および癌生物学部門の教授であるAnil Sood医師は述べた。「現在使用されている血管新生阻害剤で治療を行っても、腫瘍は最終的には進行してしまいます。本研究は、血管新生の新しい機序を提示しており、これは新しい治療法の発展に門戸を開くことになります」。

EZH2は遺伝子発現を抑制することが知られているタンパク質群の一つであり、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、胃癌および咽頭癌の一種の癌の進行と転移に関係するとされてきた。

EZH2の高発現と患者の生存率低下との関係

卵巣癌患者180人の腫瘍を対象とした試験結果によると、EZH2タンパク質の過剰発現が腫瘍内に認められたのは症例の66%であり、また腫瘍血管の内皮細胞に認められたのは症例の67%であった。内皮細胞は血管の内表面を構成する細胞であり、血管新生に不可欠である。

腫瘍内細胞または内皮細胞のいずれの場合でもこのタンパク質の高発現は、終末期の悪性度の高い疾患および生存期間中央値の短縮と関連していた。腫瘍内にEZH2の高発現が認められた患者の生存期間中央値は2.5年であったのに対し、高発現が認められなかった患者では7.33年であった。内皮細胞における過剰発現の場合は、EZH2の発現が正常の患者では8.33年であり、高発現の患者との差は2.33年であった。

一連の研究室における実験から、血管新生促進因子として知られる血管内皮増殖因子(VEGF)は、内皮細胞ではEZH2の発現を増加させることを研究チームは発見した。その後EZH2は、通常は血管形成を阻害するバソヒビン1(VASH1)遺伝子の発現を不活化する。腫瘍の血管内皮細胞のEZH2遺伝子の発現を制御することでVASH1を再活性化し、マウスの血管新生および卵巣癌の進行を遅らせた。

EZH2の発現抑制による腫瘍量の減少

低分子干渉RNA(siRNA)‐遺伝子発現を阻害する短いRNA断片‐を2種類の卵巣癌細胞株のうち1種類を移植したマウスに導入する方法で、腫瘍細胞と内皮細胞のそれぞれでEZH2遺伝子を標的とした。

・腫瘍関連の内皮細胞でEZH2の発現を抑制したsiRNAでマウスを処理した場合、対照群のマウスと比較し、2種類の癌細胞株で平均腫瘍量が62%および40%減少した。
・腫瘍内の遺伝子のみを攻撃した場合、腫瘍量への影響は有意に少なかった。
・腫瘍細胞および内皮細胞の両方で発現を抑制した場合、2種類の癌細胞株で平均腫瘍量がそれぞれ83%および65%減少した。

さらなる試験結果から、EZH2の発現を不活化することで、プログラム化された癌細胞死が増加する一方、腫瘍組織を養う血管の数および卵巣癌細胞の増殖を低下させることが明らかになった。

甲殻類の貝殻の成分に依存するsiRNA送達システム

Sood氏と共著者のテキサス大学M.D.アンダーソン実験治療学部門(Department of Experimental Therapeutics)のGabriel Lopez-Berestein医師は、癌細胞に特異的な遺伝子の発現を抑制するために、リポソームと呼ばれる脂肪粒子でsiRNAを内封した送達システムを開発した。

「このシステムは腫瘍と腫瘍細胞に送達するためには非常に有効ですが、腫瘍血管系への送達についてはそれほど有効ではありません」とSood氏は述べた。両氏は、siRNAをキトサンナノ粒子に内封した新しい送達システムを共同で開発した。キトサンは甲殻類の貝殻に存在する構成成分であるキチンから抽出される。

キトサンナノ粒子はわずかな正電荷を帯びていて、大部分において負電荷を帯びた内皮細胞に引き付けられる。ナノ粒子は腫瘍血管系を経由して腫瘍に吸収されるため、この新しいシステムによって双方の標的が攻撃される。

ナノ粒子は、血流中を循環する際に癌細胞および血管系に受動的に蓄積する。キトサンナノ粒子は非常に小さいため、腫瘍血管系の小さな穴を通り抜けて流れこむことができる。さらにナノ粒子は他の臓器にも蓄積するため、腫瘍および腫瘍血管系に限定して吸収されるような標的となる分子を追い求めて研究者らは研究を続けている。

本研究は、米国国立癌研究所、卵巣癌研究基金、米国国防総省をはじめ、以下The Zarrow Foundation, the Marcus Foundation, the Betty Anne Asche Murray Distinguished Professorship, the Gynecologic Cancer Foundation/OCRF Ann Schreiber Ovarian Cancer Research grant, the Meyer and Ida Gordon Foundation, the National Institute of Child Health and Development, the GCF-Molly Cade Ovarian Cancer Research Grant and the Taiwan National Science Councilからの助成金を受けて実施された。

Sood氏およびLopez-Berestein氏の他の共著者は、Chunhua Lu, M.D., Hee Dong Han, Ph.D., およびLingegowda Mangala, Phi.D.の3名の筆頭共著者をはじめ、以下のとおりである。Guillermo Armaiz-Pena, Ph.D., Wei Hu, M.D., Ph.D., Rebecca. Stone, M.D., Mian M.K. Shahzad, M.D., Jeong-Won Lee, M.D., Edna Mora, M.D., Amy Carroll, M.D., Koji Matsuo, Whitney Spannuth, M.D., Rosemarie Schmandt, Ph.D., Nicholas Jennings, Blake Goodman, Alpa M. Nick, M.D., Hye Sun Kim, M.D., and Robert Coleman, M.D., all of MD Anderson’s Department of Gynecological Oncology; Murali K. Ravoori and Vikas Kundra of MD Anderson’s Department of Experimental Diagnostic Imaging; Robert Langley, Ph.D., of MD Anderson’s Department of Cancer Biology; Ming-Chuan Hsu and Mien-Chie Hung of MD Anderson’s Department of Cellular and Molecular Biology; George Calin, M.D., Ph.D., and Lopez-Berestein of the Department of Experimental Therapeutics; Calin, Lopez-Berestein and Sood are members of MD Anderson’s Center for RNA and Non-Coding RNA; and Jae Yun Lim and Ju-Seog Lee, Ph.D., of MD Anderson’s Department of Systems Biology; Rouba Ali-Fehmi, M.D., Department of Pathology at Wayne State University; Christopher Newton, Ph.D., and Laurent Ozbun, Ph.D., Department of Cell and Cancer Biology at the National Cancer Institute; Adnan Munkarah, M.D., of Women’s Health Services, Henry Ford Health System in Detroit; Robert Jaffe, M.D., of the Center for Reproductive Sciences, University of California, San Francisco; Eylem Ozturk Guven, Ph.D., and Emir Denkbas, Ph.D., of Hacettepe University, Nanotechnology and Nanomedicine Division, Ankara, Turkey; Ya-Huey Chen, Ph.D., of the Center for Molecular Medicine and Graduate Institute of Cancer Biology, China Medical University and Hospital, Taiwan; Long-Yuan Li, Ph.D., Department of Biotechnology, Asia University, Taiwan; and Michael Birrer, M.D., Ph.D., Department of Medicine, Harvard Medical School, Massachusetts General Hospital Cancer Center.

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栃木和美訳
関屋 昇(薬学修士)監修
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原文


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