赤血球促進剤とハーセプチンの同時使用で乳癌治療が弱体化/M.D.アンダーソンがんセンター | 海外がん医療情報リファレンス

赤血球促進剤とハーセプチンの同時使用で乳癌治療が弱体化/M.D.アンダーソンがんセンター

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赤血球促進剤とハーセプチンの同時使用で乳癌治療が弱体化/M.D.アンダーソンがんセンター

ハーセプチンによる乳癌治療にエリスロポエチンが拮抗
M.D.アンダーソンがんセンター
2010年11月15日

HER2標的療法に対する寛解が、赤血球生成促進剤により低減

貧血治療に使用される赤血球促進剤によって、ハーセプチンによる乳癌治療が弱体化する可能性があると、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者がCancer Cell誌11月16 号に発表した。
ハーセプチンは、細胞の癌化を促進するHER2タンパク質を阻害するための標的治療薬である。

「私たちの研究によると、赤血球促進剤とハーセプチンを同時に使用した場合、ハーセプチンの有効性が低下します。」 と、MD アンダーソンExperimental Therapeutics科の准教授であるZhen Fan医師は述べる。

天然のエリスロポエチン(EPO)は、体内の赤血球生成を調整している。人工的に製造されたエリスロポエチンは、赤血球生成促進剤または遺伝子組換えエリスロポエチンと呼ばれ、腎不全や癌治療による貧血の治療に使用される。

「遺伝子組換えエリスロポエチンは、大変役に立つ薬で、多くの命を救ってきました」とFan氏。「しかしながら一部の研究において、同薬剤が癌細胞に影響を与えるとの指摘がありました。今回の試験では、遺伝子組換えエリスロポエチンがハーセプチンを妨害するのかどうかを、既存の知識を踏まえ確認したかったのです。」と同氏は続けた。乳癌マウス・モデルを使用して同仮説を試験し、追跡研究として分子レベルでの詳細を解明するための癌細胞株を使用した実験室内の実験を実施した。マウス試験における知見は、111人の乳癌患者に関する後ろ向きコホート研究により支持された。

乳癌の25〜30パーセントにおいて、ヒト上皮増殖因子2(HER2)は過剰発現する。
ハーセプチンという商業名で知られるトラスツズマブは、HER2を阻害するように設計された抗体であるが。ただし、耐性ができてしまうため、HER2陽性患者のわずか三分の一程度しか同薬剤に反応しない。

HER2陽性乳癌に見られる機能的エリスロポエチン受容体が、耐性機構の一部である可能性を、Fan氏は指摘する。

「HER2タンパク質標的療法のもともとの考え方は、HER2により引き起こされる下流分子活動を阻害するということにあります。」Fan氏。また、「エリスロポエチンの受容体が癌細胞上に発現すると、エリスロポエチンが同様の下流伝達経路を活性化することがあり、それにより、二つの薬剤の拮抗作用が生じるのです。」と述べた。

エリスロポエチンが受容タンパク質(EpoR)と結合すると、トラスツズマブが阻害する伝達経路の重要な要素であるSrcを活性化する一連のイベントがおこることをFan氏らは証明した。
エリスロポエチンと受容タンパク質(EpoR)との結合は、PTENと呼ばれ広く知られている癌抑制遺伝子も妨害する。PTENは、トラスツズマブが抗がん活動をする際に重要な遺伝子であると考えられている。

癌細胞および血液生成に関係しないタイプの細胞に存在するEpoRの役割および機能については、学界でも意見が分かれている。今回の実験において、遺伝子組換えエリスロポエチンが単独で癌の増殖を促進する証拠が得られていない点に注意すべきであると、Fan氏は指摘した。

細部の追跡研究

HER2陽性乳癌の細胞株3株において、トラスツズマブは癌細胞の生存および増殖を阻害したが、遺伝子組換えエリスロポエチンは癌細胞の生存および増殖を促進した。この3株をトラスツズマブおよび遺伝子組換えエリスロポエチン併用で治療したところ、細胞の生存率はそれぞれ、58パーセントから80パーセント、57パーセントから77パーセント、34パーセントから57.5パーセントに上昇した。

2種類のHER2陽性乳癌細胞を注入されたマウスに、疑似治療のみ、トラスツズマブのみ、エリスロポエチンのみ、または両薬剤併用のいずれかを施した。トラスツズマブにより治療された腫瘍は縮小または増殖が抑制され、ひとつめの細胞株の50日経過後の平均腫瘍体積はゼロに近く、またもうひとつの細胞株にもほとんど癌が見られなかった。
エリスロポエチンで治療された腫瘍の増殖は対照群とほとんど同様の経過で、一方の細胞株は1500平方ミリメートル、もうひとつの細胞株で600平方ミリメートルまで急速に増殖した。両方の薬剤で治療された腫瘍は、約700平方ミリメートルと約300平方ミリメートルまで、エリスロポエチンで治療された腫瘍と比べると穏やかに増殖した。

小規模試験における患者生存期間の改善

癌が転移したHER2陽性乳癌患者に関する後ろ向きコホート研究を実施した。トラスツズマブ投与と並行して化学療法と遺伝子組換えエリスロポエチン投与を受けた37人の患者群と、同群に対応する対照群として、同様の治療を受けたがエリスロポエチンの投与を受けなかった74人の患者群を設定し、全生存率と無増悪生存率を比較した。

一年経過時には統計的に有意な差異が見られ、対照群においては40パーセントに疾患安定がみられたが、エリスロポエチン群においては19パーセントであった。ただし、二年経過後の全無増悪生存率における統計的に有意な差は見られなかった。

対照群の方が全生存期間がエリスロポエチン群と比較して長く、これは多変量解析においては統計学的に有意であった。

今回の試験は小規模また後ろ向きであったことから、臨床所見を注意深く解釈する必要がある、とFan氏は強調する。エリスロポエチンを投与された患者がエリスロポエチンの投与を受けなかった患者より重症であった可能性も否定できない。今回の知見は、さらに大規模な臨床試験で確認する必要がある。

「他のタイプの癌も加えて、今回の試験を拡大していきます。もちろん、異なるタイプの癌は異なるタイプの標的治療薬によって治療されます。ハーセプチン以外の標的治療薬を使用した試験を設計し、それらの標的治療薬に対してもエリスロポエチンが拮抗作用をもつのかどうかを確認する必要があります。」とFan氏は述べる。

将来的には、なぜ、そしてどのように一部の癌細胞にエリスロポエチン受容タンパク質が発現し、癌細胞がどの程度EpoRを発現するのかを解明する必要があるとFan氏は述べる。また、「遺伝子組換えエリスロポエチンは、輸血せずに患者の全身症状を改善するのに役立ちます。もし、エリスロポエチン受容体発現が癌細胞のなかでどのように制御されているのか解明できれば、癌患者の貧血や疲労を治療するための薬剤を投与しながらも、ハーセプチンによる抗HER2治療などの最新の標的治療薬をあきらめないですむような、新しい治療方針がたてられるかもしれない。」と述べた。

今回の試験は、米国国立癌研究所の補助金、およびBreast Cancer Research FoundationとMDアンダーソンCancer Center Support Grant from the NCIのリサーチ・アワードからの資金提供を受けている。

以下、Fan氏の共同著者(全員MDアンダーソン所属)。
First author Ke Liang, Yang Lu, Xinqun Li, M.D., Ph.D., and John Mendelsohn, M.D., all of the department of Experimental Therapeutics; Francisco Esteva, M.D., Ph.D., Giampaolo Bianchini, M.D., Ching-Yi Yang and Gabriel Hortobagyi, M.D., all of the Department of Breast Medical Oncology; Yong Li, Ph.D., Constance Albarracin, M.D., Ph.D., of the Department of Pathology; Katherine Stemke-Hale, Ph.D., and Gordon Mills, M.D., Ph.D., of the Department of Systems Biology; and Chun-Te Chen and Mien-Chie Hung, M.D., Ph.D., of the Department of Molecular and Cellular Oncology.

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内田彩香 訳
林 正樹 (血液/腫瘍内科医)監修
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原文


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