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専門小委員会、低リスク前立腺癌の治療延期および監視療法の実施を推奨、管理手法の明確化に向けた今後の研究を求める

  • 2011年12月24日

NIHプレスリリース 2011127

米国国立衛生研究所(NIH)が召集した第三者小委員会は今週、限局性で低リスクの前立腺癌患者の多くは、厳密なモニタリングを実施すべきで、治療は癌の進行が確認されるまで延期してもよいという結論に達した。しかしながら、こうした監視療法(active surveillance、*日本ではPSA監視療法とも呼ばれる)などの観察戦略については統一的な研究が行われておらず、既存のデータは明確な経過観察手順を示唆するに至っていない。同委員会は、定義を標準化するとともに、患者の転帰を最も良好なものとするだろう経過観察の方法を特定するために、さらなる研究を行うよう勧告した。

 

「治療を延期することで多くの男性が恩恵を受けることは確実ですが、どのような経過観察戦略をとり、どのような基準で最終的に厳密な観察下にある患者に対する治療を開始するかについては統一見解がありません」と、同委員会委員長を務めたカリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合がんセンターの癌予防・管理リサーチ部門の部長Dr. Patricia A. Ganz氏は述べた。

 

前立腺癌は米国男性の間で、皮膚以外の癌では最も一般的に見られる癌である。2011年には約24万人が新たに前立腺癌の診断を受け、3万3000人が前立腺癌のために死亡すると推計されている。前立腺癌の半分以上が限局性(前立腺内にとどまる)である。診断時の悪性度は高くなく、生命を脅かすようになる可能性は低い。しかしながら患者の約90%は、診断後すぐに手術や放射線などの治療を受けている。多くの患者にとって、こうした治療は生存率向上などの恩恵が明確でないにも関わらず、性機能の低下、排尿障害といった著しい短期的、長期的な副作用をもたらす。異なる患者群に対し、それぞれ適切な管理戦略を特定することが、生存率向上や副作用の負担軽減にとって非常に重要である。

 

現在、低リスク前立腺癌に対し、直ちに治療を行うことの代替策として、臨床医は2通りの対応を提示している。治癒を意図する観察と、意図しない観察である。しばしば無治療経過観察とも呼ばれる治癒を意図しない観察は、症状がでたら緩和治療を行うという受動的なアプローチである。積極的監視と呼ばれる治癒を意図する経過観察は、定期的に血液検査、直腸診、前立腺の生検を繰り返し行う積極的なフォローアップで、癌が進行した場合には根治治療を開始する。

 

同委員会は、医療界で統一見解になりつつある低リスク前立腺癌の定義を特定した。すなわち、前立腺特異抗原(PSA)値が10ng/mL未満であり、腫瘍の悪性度(グリソンスコア)が6かそれ以下の癌を、低リスク前立腺癌とみなす。この定義に基づく同委員会の推計では、毎年、前立腺癌の診断を受ける男性のうち10万人以上が、直ちに治療を行うのではなく積極的な監視療法の対象者になりうる。しかし同委員会は、積極的なモニタリングの管理手法には現在でも大きな開きがあり、研究知見の評価や比較を妨げているという重要な認識に至った。

 

「50歳以上の男性の約30%から40%が前立腺癌になる。すぐに治療することで恩恵を受ける人もれいば、監視療法による利益を享受する人もいる。定義を標準化し、リスクにより患者を分類し、低リスク前立腺癌を管理する最良の経過観察手順を特定するために、さらなる研究を行う必要がある」と、Ganz氏は話した。

同委員会はさらに、前立腺特異抗原(PSA)検査がもたらした前立腺癌患者層の変化を反映し、前立腺癌に関する用語を見直すことを提言した。PSA検査で見つかった低リスク前立腺癌の予後は非常に良好であり、こうした状態に対しては不安をあおる「癌」という言葉を使わないことも真剣に考えるべきだと提言した。

委員会はまた、臨床医が癌管理の選択肢をどのように考えるかも患者の意思決定における重要な要因になると結論した。さらに家族の意向や家族や友人の癌に関する経験、ライフスタイル上の優先順位、個人の哲学なども意思決定に影響を与える要因である。情報に基づく意思決定の共有を促すため、コミュニケーション科学や行動経済学の研究知見を臨床の場で応用することも可能である。研究により引き続き知識の差が埋まり、コンセンサス形成が進む一方で、限局性の低リスク前立腺癌の診断を受けた患者と医師が直面する決定は、生物学的、心理的、社会的、文化的な要因にも配慮した個別のものであるべきだ。

今後の研究について委員会は、連邦政府の予算を単一施設による研究に当てることには反対し、逆に多施設による臨床試験支援の重要性を強調した。さらに積極的な監視療法参加者から臨床的および患者が報告する転帰を含めた長期的なデータを集める目的の、登録制コホート研究の確立を支持した。

公開会議で受け付けた一般からの意見を含めた専門小委員会声明草案の改訂版は、http://consensus.nih.govで公開される。

最先端科学会議はNIHのOffice of Medical Applications of Research(医学応用研究室)、米国国立癌研究所(NCI)、米国疾病対策予防センター及び、他のNIH、米国保健社会福祉省の関係部門より支援を受けている。同会議は既存の科学的エビデンスを評価し、意見の分かれる医学的問題に関し客観的な声明をまとめるためのNIHコンセンサス開発プログラムのもとで実施されている。

14人の委員からなる最先端科学会議には、癌予防と管理、泌尿器学、病理学、疫学、遺伝子学、移植、生命倫理、経済学、保健サービス研究、意思決定の共有、保健コミュニケーション、地域連携分野からの専門家が含まれる。委員名と各委員の所属機関一覧は、同会議の声明案にも掲載される。委員の経歴、写真、その他関連情報などの付属資料は、http://consensus.nih.gov/2011/prostatemedia.htmを参照されたい。

同会議のウェブキャストも、アーカイブとして保管され、http://consensus.nih.gov/2011/prostate.htmで視聴できる。

前立腺癌に関する情報が必要な人は、NCIの癌情報サービス1-800-4-CANCER(1-800-422-6237)か、電子メールでcancergovstaff@mail.nih.govまで、あるいは米国疾病対策予防センターの全米窓口センター1-800-CDC-INFO(1-800-232-4636)か、電子メールでcdcinfo@cdc.govまで。

会議では、発表者が使用した資料や参加者が討議中に述べたコメントに加え、公開されている研究文献や、その系統的レビュー結果が検討された。系統的レビューは、Agency for the Healthcare Research and Quality Evidence-based Practice Centers(EPC)

プログラムを通じ、タフツ大学メディカル・センターのEvidence-based Practice Centerにより作成された。EPCは科学的文献を綿密かつ包括的に統合・分析し、それに基づきエビデンスを報告し、技術評価を実施しており、方法、根拠、仮説についての明確で詳細な文書化を重視している。限局性前立腺癌患者の管理における積極的監視療法の役割についてのエビデンス報告は以下のリンクを参照のこと。

http://consensus.nih.gov.2011/prostate.htm

会議の声明は独立的立場からの報告であり、NIHや連邦政府の方針声明ではない。NIHコンセンサス開発プログラムは、意見の分かれる医療・公衆衛生問題を公平かつ公正に判断する場として、1977年に設立された。NHIは123のコンセンサス開発会議と、33の最先端科学会議(旧称「技術評価(technology assessment)」)を開催し、多岐にわたる問題を取り上げている。NIHコンセンサス開発プログラムの背景説明はhttp://consensus.nih.gov/backgrounder.htmで公開している。

 

NIH本部の研究所所長室は、27の研究所および施設からなるNHIの方針策定を担っている。これにはNIH全組織のプログラムや活動に関する計画、管理、連絡調整が含まれる。また所長室下には、特定分野の研究についてNIH全体にわたり促進する複数のプログラム・オフィスがある。NIHとNIHのプログラムに関する詳細は、www.nih.govを参照されたい。

 

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片瀬ケイ 訳

林 正樹 (血液・腫瘍内科)監修

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原文


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