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乳癌の肺への転移機序がジョンズホプキンス大学研究者らにより発見/ジョンズホプキンス大学

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乳癌の肺への転移機序がジョンズホプキンス大学研究者らにより発見/ジョンズホプキンス大学

ジギタリスが肺転移を減少させる

乳癌の転移は乳癌死の原因の90%以上を占める。今回、乳癌の広がり、または転移の過程がジョンズホプキンスの研究者らにより明らかにされた。

論文2本の報告によると、研究者らは乳癌細胞を移動させ、肺が受け取ることを可能にするスイッチを発見した。

この結果は、2本の独立した論文に報告され、ひとつは9月12日付全米科学アカデミー会報誌(PNAS)オンライン版に、他方は8月22日付 Oncogene誌に掲載された。

「転移は乳癌を局所の治療可能な疾患から全身性で致死性の疾患へと変化させる」とジョンズホプキンス大学McKusick-Nathans Institute of Genetic Medicine の一員であり細胞工学研究所血管プログラムの指導者でC. Michael Armstrong Professor of Medicine であるGregg L. Semenza医学博士は述べた。「転移は長い間、癌進行過程における後期イベントであると考えられてきたが、今回われわれは転移がHIF-1に依存した初期イベントであることを示した」

Semenza氏のチームは約20年前、HIF-1タンパク質が遺伝子を調節し、固形腫瘍の細胞のように、細胞を低酸素で生存可能にすることを発見した。さらに最近になって、他の研究者らにより、乳癌患者にみられるHIF-1活性の上昇と、転移の増加および生存率の減少との相関性が確認されている。

乳癌の肺転移におけるHIF-1の役割を確認するために、研究チームはまず肺を観察した。肺は乳癌細胞から産生された酵素により転移細胞の到着に備え準備する。研究チームはヒト乳癌細胞を用い、これら酵素をコード化する遺伝子を解析し、HIF-1が DNAに結合しうる領域を発見した。HIF-1は低酸素環境下において活溌であるため、研究者は遺伝子操作により細胞のHIF-1生成量を減少させ、正常酸素あるいは低酸素環境下で成長した細胞の酵素産生遺伝子の活性度を解析した。その結果、細胞はHIF-1欠損状態ではこれらの酵素を産生できないことを発見した。

次に研究チームは、これら同じヒト乳癌細胞で、HIF-1産生量の正常な細胞と減少させる細胞のいくつかをマウスに移植し、その肺を45日後に観察した。HIF-1正常量の乳癌細胞と比較すると、HIF-1産生量を減少させた細胞は腫瘍体積、肺の変化ともに小さい結果となり、HIF-1が肺転移にとって重要であるという結論が導かれた。

乳癌細胞が肺へ広がるためには、乳癌細胞が乳房から離れ、肺に至る血管へ侵入し、その血管から侵出しなければならない。「血管は堅固に密着しており、細胞1個が血管壁を通過することは容易ではない」とSemenza氏は述べた。

「HIF-1は、肺に対する乳癌細胞の到着準備を誘発することから、われわれはHIF-1がまた、血管への侵入侵出に関わっているのではないかと考えた」

Semenza氏のチームは低酸素環境で増殖させた乳癌細胞を用い、転移に関与することで知られる88の遺伝子活性を解析した。

彼らは、低酸素に応答して発現する遺伝子を探索し、2個の遺伝子アンギオポエチン様因子4 (ANGPTL4)とL1細胞接着分子( L1CAM)と呼ばれる遺伝子を発見した。さらにこれらの遺伝子周辺のDNAを調べるとHIF-1の結合可能領域が明らかとなり、細胞からHIF-1を除去すると2個の遺伝子の作用発現が不可能となった。

乳癌細胞がANGPTL4を作動させると、細胞の血管壁通過が促進される。研究者らはこれらの細胞をANGPTL4正常またはノックダウンのいずれかをマウスに注射しその肺を調べた。HIF-1が欠乏し追加のANGPTL4を含む細胞は追加のANGPTL4を含まない細胞よりも肺への侵入度が高く、ANGPTL4が細胞の血管からの侵出を誘導することを結論付けた。またL1CAMについても同様の事実を確認した。

最後になったが、数年前Semenza氏のチームは不整脈の治療に汎用されるジギタリス製剤またはジゴキシンが、HIF-1の生成を阻害し肝癌および前立腺癌の増殖を阻止することを発見している。

ジギタリスが転移性乳癌に対しても同様の作用を有するかどうかを確認するため、研究者らはヒト乳癌細胞をマウスに移植した。

2週後、マウスにジギタリスか生理食塩水のどちらかを連日注射したところ、ジギタリスを投与したマウスで肺転移の発生頻度、腫瘍体積ともに減少していることが判明した。

「これは非常に興味深い発見である。ジゴキシンの治療域はすでに十分確立されており、われわれの発見は、臨床試験に際し、HIF-1を阻害し乳癌の増殖および転移を遅らせる必要かつ十分な投与量を決定する根拠となる」とSemenza氏は述べた。
これらの研究は以下の施設により資金提供を受けた。
the Emerald Foundation, the National Institutes of Health, the Johns Hopkins Institute for Cell Engineering, the Croucher Foundation and the Postdoctoral Training Program in Nanotechnology for Cancer Medicine.

PNAS誌の著者は以下の通りである。
Carmen Chak-Lui Wong, Daniele Gilkes, Huafeng Zhang, Jasper Chen, Hong Wei, Pallavi Chaturvedi, Stephanie Fraley, Denis Wirtz and Gregg Semenza, all of Johns Hopkins, and Chun-ming Wong, Ui-Soon, Khoo, and Irene Oi-Lin Ng of the University of Hong Kong.

Oncogene誌の著者は以下の通りである。
H. Zhang, C.C.L. Wong, H. Wei, DM Gilkes, P. Korangath, P. Chaturvedi, L. Schito, J. Chen, B. Krishnamachary, P.T. Winnard Jr., V. Raman, L. Zheng, W.A. Mitzner, S. Sukumar and G. Semenza, all of Johns Hopkins.

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武内優子 訳
原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター) 監修
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原文

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