[ 記事 ]

2011/11/29号◆クローズアップ「リスクの解釈:消費者直販(DTC)の遺伝子検査」

  • 2011年12月6日

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年11月29日号(Volume 8 / Number 23)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
PDFはこちらからpicture_as_pdf

____________________

◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

リスクの解釈:消費者直販(DTC)の遺伝子検査

2009年冬、シャノン・バーマン(Shannon Behrman)氏はインターネットで遺伝子検査を申し込んだ。メラノーマのリスクの高い家系で、自分も受け継いでいるかどうか知りたかったからだ。消費者直販(DTC)の遺伝子検査の結果、メラノーマと自己免疫疾患のリスクは高いが、乳癌、パーキンソン病、他のほとんどの疾患のリスクは平均的であることがわかった。

バーマン氏は、医師や遺伝カウンセラーと相談せずに検査結果を受け取った。しかし、ほとんどの受診者と違うのは、バーマン氏は医師で、分子生物学の博士号を持ち、NCIの癌ゲノム学オフィスのヘルスコミュニケーション学の研究員であることだ。

DTC遺伝子検査は、医師からの指示や遺伝カウンセラーとの相談なしで、顧客に直接営業して販売するDNA検査である。近年、遺伝子検査は新しい遺伝子検査会社が林立して利用しやすくなっている。さらに、DTC遺伝子検査の料金は下がり続けており、一般市民にも手が届くようになっている。

DTC遺伝子検査が一般に普及するにつれ、一般市民が遺伝カウンセラーの助けを借りずに自分の検査結果を正確に解釈できるかどうかに関する研究が行われている。

一般市民の観点

Public Health Genomics誌に掲載された最新の研究によると、一般市民はDTC遺伝子検査の結果が理解しやすいと考える傾向にあるが、結果を正しく解釈していない可能性がある。また、DTC遺伝子検査の結果が医療についての意思決定をする上で役立つと考える度合いは、一般市民のほうが遺伝カウンセラーより高い。

本研究では、一般市民(ここでは、筆頭研究者のFacebookの友人)と米国遺伝カウンセラー学会の会員に、模擬的なDTC遺伝子検査結果を解釈するよう依頼した。しかし、筆頭研究者のFacebookの友人は、一般市民の代表サンプルとはいえない。全体的にみると、参加者は若年、白人、女性、高学歴という特徴があり、ほとんどが医療分野の職業に従事していた。これは偏りのある集団なので、研究結果では一般市民がDTC遺伝子検査の結果を解釈するときに直面する問題が十分浮き彫りになっていない可能性がある。

ほとんどの参加者は、検査結果が高リスクと低リスクのどちらを意味しているか正しく解釈していたが、全体的にみて、理解度は遺伝カウンセラーより低かった。また、一般市民のほうが遺伝カウンセラーよりも検査結果への信頼度が高かった。

一般市民がDTC遺伝子検査結果の意味を誤解した場合、自分の健康について必要以上に不安になったり、誤った安心感を持ったりする可能性が指摘されている。どちらの反応も、たとえば、検診を受ける習慣を根拠なく変えた場合に最終的に有害な結果を生むことになる。

第3の可能性

この研究結果は意外ではないとNCIの癌ゲノム学オフィスのDr. Jean Claude Zenklusen氏はいう。経験上、ほとんどの人が見たい現実しか見ないことを知っているからだ。「『リスクは低い、だがゼロではない』と言えば、『よかった、それなら問題ない』と受け取るのです」。多くの人は高リスクという検査結果をあまり気にしないが、中には過剰に心配する人もいるという。

ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院/国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)遺伝カウンセリングトレーニングプログラムのDr. Gillian Hooker氏は、予想される第3の結果について指摘する。DTC検査で高リスクという結果が出た場合に、受診者の行動に変化をもたらす可能性である。たとえば、ある疾患のリスクが高いことを示す検査結果を受け取った人がいて、そのリスクを低下させるようなエビデンスに基づく介入が利用できる場合、その人は行動を変える選択をして疾患のリスクを下げることができる。

バーマン氏にとって、DTC遺伝子検査の結果、新たに明らかになった情報はなかった。「[メラノーマの高リスクは]私の家族歴から予測できたことです」という。まだ健康上の習慣を変えることも、遺伝カウンセラーに解釈を求めることもしていない。「ただ健康に気をつけ、日焼け止めを塗っているだけです」。

DTC遺伝子検査の結果を解釈する上で大きな障害となるのが数学的リテラシーである。数学的リテラシーは、リテラシー(読み書きの能力)に類似するが、数字を正しく読み取って解釈する個人の能力を指す。Hooker氏は、数学的リテラシーの問題を指摘する。「1%と2%の違いが、自身の健康にどれほどの意味を持つのか想像するのは難しいことです。リスクコミュニケーション学の文献には、人々が紙に書かれているより大きくリスクを解釈することを示すデータがたくさんあります」とHooker氏はいう。

バーマン氏は、DTC遺伝子検査の結果でも同様の問題があるという。「私のメラノーマのリスクの結果を見ると、リスクが2倍の2.4%であることがわかります。平均的な人がこの数字を見たら、『リスクが2倍もある』と思うでしょう」。しかし、このような結果を受け取った場合、平均的な人の2倍のリスクといっても2.4%であり、リスクはごくわずかであることに注意が必要である。

コミュニケーション学の研究者によると、リスク情報を伝える方法はどのように受け取られるかに影響を及ぼす。ある疾患に発症する可能性が、一般集団の『1000人に1人』に対して、遺伝的な素因を持つ人では『1000人に2人』であるという表現は、ある人が平均的な人と比べて『可能性が2倍』という表現より全体像をつかみやすい。前者の表現を絶対リスクといい、後者を相対リスクという。リスクコミュニケーション学の専門家の多くは、リスク情報を患者に伝える場合は絶対リスクの推定値を用いて、背景情報や意味のわかりやすい情報を提供するよう主張している。

パターナリズム(医療父権主義)

遺伝子検査結果の解釈の問題と誤解から生じ得る深刻な結果を考慮して、一部の企業は医師または遺伝カウンセラーを通じてのみ検査を提供している。バーマン氏は「[高リスクを示す結果が]生物学や統計学になじみのない人にどれほどの不安を与えるかは理解しています。高リスクとだけ書いてあったら、パニック状態になるでしょう」という。そして、医師を通じて自分のDTC遺伝子検査を依頼したとしても、重大な障壁にはならなかっただろうとバーマン氏は語った。

医師を通じた手続きは、自分自身の遺伝情報を自由に入手する障壁となる可能性があるという意見もある。「パターナリズムに陥らないかという懸念もあります」とHooker氏はいう。パターナリズムとは、健康上の意思決定は医療提供者に委ねるのが最善という原理である。「私自身、葛藤があります。一般市民がどの程度まで自由にDTC遺伝子検査を利用できるようにするのか、個人の自由に委ねるのは無責任なのか」。

Zenklusen氏も中間の道をとる。「自分のゲノムは自分のものです。自分のゲノム情報は自由に入手できるべきです。しかし、企業には責任ある方法で[遺伝子検査の結果を]伝える責任があります。結果を伝える方法は、『過度に安心感を与えたり過度に不安を煽ったり』するものであってはなりません」。

Public Health Genomics誌の研究では、調査を継続すべき領域として、リスクコミュニケーション、患者に遺伝情報を伝える最善の形式、SNPと疾患の関係、原因となる変異を検出するアルゴリズム、遺伝データを解釈するための計算、われわれのゲノムの他の修飾因子を挙げている。

— Emma J. Spaulding

******
月橋 純子 訳
小宮 武文 (呼吸器内科/NCI Medical Oncology Branch) 監修
******

【免責事項】

当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。
翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

関連記事