2011/11/29号◆スポットライト「予期せぬ合併症:妊娠中の癌治療」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/11/29号◆スポットライト「予期せぬ合併症:妊娠中の癌治療」

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2011/11/29号◆スポットライト「予期せぬ合併症:妊娠中の癌治療」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年11月29日号(Volume 8 / Number 23)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

予期せぬ合併症:妊娠中の癌治療

カリフォルニア州フォートゥナに住むトリーナ・ポケット(Trina Pockett)さんは、当時23歳、2歳の子どもの母親であり、鎖骨の下のしこりに気づいた時は第2子を妊娠中であった。しこりに痛みはなかったため、しばらくの間は気に留めていなかった。しこりがなくならず医師に診てもらったところ、緊急での生検実施となった。

診断結果は衝撃的なものであった。彼女は、若年層に最も多くみられるがん種の一つである免疫系のがん、ホジキンリンパ腫を患っていた。がんはすでに頸部、胸部、胃に転移しており、医師はただちに化学療法を開始することを勧めた。

ポケットさんは、突如として、自分自身が極めて小さい集団の一員となったことを悟った。すなわち、米国において毎年推定で3,500人が妊娠中にがんと診断される、その集団である。どの患者と医師にとってみても、この診断結果は激しいジレンマを引き起こす。治療が遅れれば、母親の命が危険にさらされるかもしれず、治療を進めれば胎児に害をもたらす恐れがあるからである。

厳密な試験がない

妊娠1000件あたりのがん(乳癌、子宮頚癌、リンパ腫およびメラノーマが最も一般的)の発症割合は、約1件である。妊娠中の癌はまれな事例であるため、たいていの医師は出くわすとしても少なく、指針を与えるような厳密な試験結果を提供している医学文献もわずかしかない。

「妊娠中のがん患者にとっての意義ある研究を実施するのは、非常に難しいのです」とDr. Clifford Hudis氏(スローンケタリング記念がんセンター・乳癌診療科部長)は述べ、20年以上に及ぶ診療の中で大まかにみて、「毎年または2年毎」に1人の割合で妊娠中の乳癌患者を診ているという。

妊娠中のがんがまれであることに加えて、胎児に対する化学療法リスクについての懸念が、妊娠中のがん患者を対象とした臨床研究を実施する上で深刻な障壁となっている、とNCI癌治療評価プログラム・婦人科癌治療の元部門長であるDr. Ted Trimble氏は説明する。

「試験のスポンサーの大半は、その作用機序が先天異常や胎児死亡を引き起こしかねないようないかなる薬剤の試験にも、妊婦の参加を促すことを快く思っていません」とTrimble氏は述べる。

女性の出産年齢が30代、40代にまで引き延ばされるにつれて(がんリスクがまだ低いとはいえ、徐々に上昇し始める年齢)、妊娠中のがんの診断が増加していくと予測する研究者もいる。スウェーデンの研究者らの推定によれば、妊娠中または出産後2年以内に乳がんと診断される割合は、1963 年から2002年の間に2倍以上に増加している。

DNAへの毒性

動物実験では、化学療法薬が奇形を引き起こすことが知られている。先天異常のリスクは、臓器器官が形成される妊娠初期に最も高くなる。

「化学療法薬の使用は、急速な細胞分裂の阻害を意味します。すなわち、DNAへの毒性があると考えられています」とDr. John J. Mulvihill氏(オクラホマ大学保健科学センター・癌遺伝学専門医)は説明する。

1984年よりMulvihill氏は、Registry of Pregnancies Exposed to Chemotherapeutic Agents(化学療法薬の曝露があった妊娠に関する登録制度)の管理に携わっており、1950年以降の医学文献からがん治療を行った妊婦845人の転帰データを集積している。「大規模な集団ベースのデータではありません」と氏は述べる。「それよりも、まれな臨床経験の収集といえるでしょう」。

「確かに妊娠初期に化学療法の曝露があった胎児では、19%過剰に奇形がみられています」と、Mulvihill氏は続ける。「妊娠中期および後期での曝露については、出産間近に化学療法が実施されれば白血球数の減少などの一時的な影響を引き起こし得るのですが、その点を除けば有害作用を増加させることはないようです」。

妊婦に対して臨床試験を実施する上での障害を考えると、登録簿のデータを基にした試験というのは、制約もあるとはいえ、出生前に化学療法に曝露された子どもの転帰について最も優れた利用可能なエビデンスをもたらしてくれるのだと、Trimble氏は述べる。

楽観視できる理由

「妊娠初期が過ぎると、先天異常に関する懸念よりも、臓器または脳機能障害の危険性に関する懸念が大きくなります。脳は妊娠期間を通して発達し続けるからです」とDr. Elyce Cardonick氏(米国ニュージャージー州カムデンCooper University Hospital・母体胎児医学専門家)は述べる。

Cardonick氏は、Pregnancy & Cancer Registry(妊娠とがんの登録制度)の管理に携わっており、1997年から、がんを患っている妊婦300人近くの情報を収集し、247人の母親と子どもについて長期追跡中でもある。同氏の行った試験やその他からは、楽観視できる理由も幾分示されている。一般に、出生前に化学療法に曝露された子どものほうが、そうでない子どもよりも、先天異常または発生異常の頻度が高くなるということはないようである。

メキシコの研究者らは、妊娠中、血液腫瘍によって化学療法を受けた母親の子ども84人(うち38人は、妊娠初期に化学療法を受けた)を詳しく追跡した。追跡期間の中央値は18年であった。この結果、いずれの子どもも肉体的および神経学的に正常であり、学校での行動も普通であった。自らの子どもを産んでいる者もおり、12人の2世代目の子孫が試験集団に加わった。

化学療法よりも、早産のほうが、出生前に化学療法の曝露を受けた子どもの認知機能を損傷する可能性が高い。こうした報告が、9月に開催された欧州の癌会議で、国際研究グループによってなされた。試験対象となった70人の子ども(生後18カ月〜18歳)のうち、47人が早産であった。ほとんどの子どもは正常であったが、認知機能に問題のあった子どもの多くは早産であった。

試験責任医師であるDr. Frederic Amant氏(University Hospitals Leuven in Belgium)は、化学療法が早産を引き起こすのかどうかは明らかでないが、多くのケースで早期産が誘発されたと述べている。「本試験の結果から、早産の誘発は避けられるべきだと言えるでしょう」。

2011年米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会において、Dr. Jennifer Litton氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの乳癌専門腫瘍内科医)は、プロスペクティブな登録試験で、妊娠中期または後期に標準的な多剤併用化学療法レジメンによる治療を受けた女性らの子ども41人について報告した

子どもたち(現在1〜21歳)の状態は総じて良好である、と同氏は述べた。3〜4%の子どもには先天異常があるが、これは出生前に化学療法の曝露を受けていない子どもの全国平均と同等の割合である。このコホート集団は、現在90人近くまで増加しており、Litton氏らが現在も追跡中である。

MDアンダーソンの試験には、1989年より現在までに、乳癌を患う妊婦81人が登録しており、試験開始時から同じ化学療法レジメンの5-FUドキソルビシンおよびシクロホスファミドを用いている。一般的に、妊娠中の患者に対しては昔からある抗癌剤を用いることが多い。Trimble氏によれば、これは新規治療法については、安全性データが欠如しているためであるという。

しこりを見逃さないで

Pregnancy & Cancer Registryのデータから、約5件に1件で医師ががん治療の開始前に妊娠中絶を勧めていることが示唆されるとCardonick氏は述べる。同氏が聞いた話では、中絶をするように言われるのを恐れて、妊婦が医師にしこりやその他の異常を言わないこともあるようである。

「患者とがん専門医らは、妊娠状態を続けながらがん治療を成功させることは可能なのだと知る必要があります」と同氏は言う。「患者が、乳房のしこりやあざを医師に診せるのをためらうべきではありません」。

「がん専門医の多くが、患者が妊娠などしていないものとして治療したがりますが、大部分では妊娠中期および後期なら、そうすることも可能なのです」と同氏は続ける。「ただ、いくらかの調整は必要です。例えば、妊娠34週を過ぎての化学療法は実施すべきではありません。これは、もし患者の白血球数が低下しているときに陣痛が始まった場合、乳児が好中球減少症となって産まれる可能性があるためです」。

トリーナ・ポケットさんの主治医は、中絶も考慮するようにとは言ったが、妊娠を続けるという彼女の決断をサポートしてくれた。彼女は、娘のケイトちゃんが6週早産で産まれてくるまでに4サイクルの化学療法を受けた。出産後に化学療法を終え、その後放射線療法を受けた。

ポケットさんのがんは、2001年から消滅している。およそ4週間にわたって新生児集中治療室で過ごしたケイトちゃんも、今では元気な11歳に成長し、獣医になることを夢見ている。3人目の子どもノア君も2004年に出産した。

2009年には、サンディエゴのハーフマラソンに出場し、個人的な目標も達成した。「化学療法を受けたこの街を走るのは、とても特別なことだったわ」彼女はそう述べた。

— Eleanor Mayfield

癌と妊娠に関する資料Collection of Outcomes Data for Pregnant Patients with Cancer(妊娠中のがん患者の転帰に関するデータの収集)
妊娠中のがん患者200人の疾患の特徴、治療法および転帰に関するデータを収集した観察試験Consortium of Cancer in Pregnancy Evidence(妊娠エビデンスのがんの団体)
妊娠中のがんに対する診断、管理、生命予後および胎児の転帰に関するエビデンスに基づいた情報の概論Hope for Two—The Pregnant with Cancer Network (2人分の希望–がんを患う妊婦のネットワーク)
妊娠中にがんと診断された女性のための患者間支援ネットワーク。可能な限り、どの女性も妊娠中に同じようながんの診断を受けた女性とペアを組む。

Pregnancy & Cancer Registry(妊娠とがんの登録制度)
妊娠中にがんと診断された女性とその子どものための機密登録であり、彼らの同意と主治医の協力のもと、毎年追跡される。

Primary Breast Cancer Occurring Concomitant with Pregnancy(妊娠と同時に起こる原発性乳癌)
妊娠中に乳癌と診断された女性への標準的な多剤併用化学療法レジメンを評価するプロスペクティブな登録試験。試験の参加者は、分娩および出産の転帰、出生前に化学療法の曝露を受けた子どもの長期にわたる健康転帰について追跡される。

Registry of Pregnancies Exposed to Chemotherapeutic Agents(化学療法薬の曝露があった妊娠に関する登録制度)
妊娠中の化学療法についての文献報告(1950年から現在まで)および医師紹介例のデータベースであり、オクラホマ大学医学部で管理している。連絡先:Susan-Hassed@ouhsc.edu

【上段画像下キャプション訳】
妊娠中のがんは稀な事例であり、その発症頻度は妊娠1000件中1件程度である。(画像提供: Swangerschaft on Flickr.com)

【下段画像下キャプション訳】トリーナ・ポケットさんは、娘Kateを妊娠中にがん治療を受けた [画像原文参照

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濱田 希 訳
原 文堅(乳腺科/四国がんセンター) 監修
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