2011/11/15号◆癌研究ハイライト「タンパク質が乳癌のホルモン感受性を制御する」「エピジェネティック療法は進行肺癌に有効」「抗体と光線を用いた癌細胞の標的治療」「悪性黒色腫のリスクを増す遺伝子変異が同定される」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/11/15号◆癌研究ハイライト「タンパク質が乳癌のホルモン感受性を制御する」「エピジェネティック療法は進行肺癌に有効」「抗体と光線を用いた癌細胞の標的治療」「悪性黒色腫のリスクを増す遺伝子変異が同定される」

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2011/11/15号◆癌研究ハイライト「タンパク質が乳癌のホルモン感受性を制御する」「エピジェネティック療法は進行肺癌に有効」「抗体と光線を用いた癌細胞の標的治療」「悪性黒色腫のリスクを増す遺伝子変異が同定される」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年11月15日号(Volume 8 / Number 22)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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癌研究ハイライト

・タンパク質が乳癌のホルモン感受性を制御する
・エピジェネティック療法は進行肺癌に有効
・抗体と光線を用いた癌細胞の標的治療
・悪性黒色腫のリスクを増す遺伝子変異が同定される
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タンパク質が乳癌のホルモン感受性を制御する

最新の研究によると、TWISTと呼ばれるタンパク質は、エストロゲン受容体(ER)の発現を制御することで乳癌の悪性度の増加や進行において重要な役割を果たしている。この発見は、最終的には、ER陽性乳癌と比べて悪性度が高く治療が難しいER陰性乳癌に対する新しい治療法の道を開くかもしれないと、本試験を率いた研究者らは述べた。ジョンズホプキンス大学医学部とユトレヒト大学メディカルセンター(オランダ)の研究者らによるこの知見は、Oncogene誌11月7日付電子版に掲載された。

エストロゲンに依存して増殖しエストロゲンの作用を遮断する薬剤でうまく治療が行えることが多いER陽性乳癌と異なり、ER陰性乳癌は増殖のためにエストロゲンを必要としない。この新たな知見によると、TWISTタンパクを発現する細胞でのERの発現低下(または消失)は、エストロゲンとは無関係に細胞を増殖させ、抗エストロゲン薬の治療効果を低下させる原因となる。

これまでの研究にて、悪性度が高い乳癌のなかにはTWIST遺伝子が過剰発現しているものがあり、TWIST遺伝子が乳癌の発生に関与している可能性が示唆されていた。TWISTがどのように機能しているかを調べるために、研究者らは、さまざまなTWIST発現レベルの乳癌細胞株のER発現レベルを調べた。この解析により、TWISTタンパクの発現レベルはER のmRNAおよびタンパク質の発現レベルと負の相関を示すことが明らかになった。そしてTWISTがER遺伝子の転写を阻害することでその発現を抑制することを示した。

さらに、TWISTタンパクの発現が高い乳癌細胞は、エストロゲンが無くても、培地での培養やマウスでの腫瘍形成が可能であることも示した。TWISTを発現しているこれらの細胞や腫瘍は、抗エストロゲン薬であるタモキシフェンやフルベストラントを投与しても増殖を続けた。これらの細胞のTWIST発現レベルを低くしたところ、細胞のER発現量は著明に増加し、エストロゲンと抗エストロゲン薬に反応するようになった。

細胞株で認められたTWISTとERの逆相関関係が、ヒト乳癌腫瘍でも見られるかを検討するために、原発部位の腫瘍73検体におけるTWISTとERの発現レベルを調べた。その結果、グレード1と2の腫瘍においては、TWIST発現レベルとER mRNA発現レベルの間に統計学的に有意な逆相関関係を認めた(グレード3の腫瘍では逆相関関係を認めなかった)。

「乳癌のエストロゲン抵抗性の制御においてTWISTが重要な役割を果たしていることが判明したので、抗TWIST療法の価値を研究することができる」と、首席筆者であるDr. Venu Raman氏は記者発表の席で述べた。例えば、そのような治療によってER陰性の癌をER陽性に変えることができれば、癌の増殖がエストロゲン依存性となって抗エストロゲン薬に反応するようになるかもしれない、と示唆した。

エピジェネティック療法は進行肺癌に有効

遺伝子のエピジェネティックな変化 – つまり、DNA配列は変化していないにもかかわらず、遺伝子発現に影響を与えるような化学的修飾 –を標的とした薬物治療の有望性が、進行非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象とした小規模な臨床試験で示されたことが、先週発表された。この第1/2相試験は、固形腫瘍に対するエピジェネティック療法の成功を初めて示したものと考えられる。ジョンズホプキンス大学の研究者らによる本試験の結果は、Cancer Discovery誌11月9日号に掲載された。

この試験は、前治療後に再発した転移性非小細胞肺癌患者45人に対し、低用量のアザシチジン(ビダーザ)とentinostatを投与するものであった。両剤とも、遺伝子サイレンシング、つまり遺伝子発現抑制に関与するエピジェネティックな変化を標的とした薬剤である。臨床試験参加者の生存期間中央値は6.4カ月であった。これは、米国食品医薬品局(FDA)が、標的薬エルロチニブ(タルセバ)を進行非小細胞肺癌患者に対して承認するに至った臨床試験の結果と似ている(FDAは、2004年にアザシチジンを骨髄異形成症候群の治療薬として承認している)。

両剤による治療を最低でも1サイクル終えた患者の生存期間中央値は8.6カ月であった。本試験の患者7人は現在でも生存しており、うち2人は約4年前に治療を始めていた。NCIの癌治療評価プログラム(Cancer Therapy Evaluation Program)から一部資金提供を受けている本試験では、この試験薬を投与しない対照群は設定しなかった。

エピジェネティック治療というアプローチは、遺伝子変異とは異なり、遺伝子のエピジェネティック変化は潜在的には可逆性変化である、という事実を利用して開発された。高用量の薬剤を用いたこれまでの試験は患者に対する毒性が強すぎたため、本試験ではエピジェネティック変化を元に戻すことができるが毒性は限られたものになるような低用量の薬剤を投与したと、上級著者であるDr. Charles Rudin氏は記者会見で述べた。

両剤とも「忍容性が良好であり」、さらに、完全奏功が14カ月継続した1人を含む患者2人の腫瘍反応は驚くものであったとRudin氏は述べた。他の10人の病状は安定していた。しかし、この結果は大規模試験により確認する必要があると、同氏は注意を喚起した。

この治療で腫瘍に反応があった患者は、数カ月間の治療によって徐々に効果が現れてきた。つまり、この治療が、エピジェネテックなメカニズムを通して確かに作用していることを示すと、試験の共同著者であるDr. Malcolm Brock氏は指摘した。両剤による治療中止後、19人は、化学療法、他の標的療法、またはその両方を用いた治療を少なくとも1サイクル継続した。これらのうち4人は(長期生存者2人を含む)、追加療法の後に明らかな腫瘍縮小が認められた。

この結果は、エピジェネティック薬と標準治療を組み合わせた試験や一番効果が期待できるであろう患者のサブセットの特定など、エピジェネティックな癌治療の研究継続を後押しするであろうと、ハーバード大学医学部のDr. Jeffrey Engelman氏は記者会見で述べた。Engelman氏は、本試験には関与していなかった。

ステージIの肺癌患者における術後補助療法として、この2剤の併用療法を評価するために、小規模多施設試験が開始されているとBrock氏は述べた。

抗体と光線を用いた癌細胞の標的治療

NCI癌研究センター(CCR)の小林久隆博士が率いる研究グループは、光線免疫療法(photoimmunotherapy)を用いた新しい癌標的治療を開発した。光線免疫療法では、光により活性化する「ナノ爆弾」がモノクローナル抗体に結合しており、腫瘍細胞に細胞破壊物質として送達される。この治療法は培養細胞やマウスモデルを用いた実験において、細胞表面にモノクローナル抗体の標的タンパクを多く発現する癌細胞を効果的に殺す一方で、正常細胞は傷害しなかった。これらの結果は、Nature Medicine誌11月6日付電子版に掲載された。

従来の(光活性化による)光線力学的抗癌療法では、特定の波長の光により活性化され細胞死を誘導する光増感剤という化合物を用いる。しかし、光増感剤は癌細胞を殺すだけでなく、正常組織にも傷害を与える。この治療法をより癌細胞に選択的にするため、小林氏らは、IR700という光増感剤を、トラスツズマブパニツムマブの2つのモノクローナル抗体のいずれかに結合させたハイブリッド化合物(複合体)を作製した。これらのモノクローナル抗体はそれぞれHER2、HER1という、ある種の癌細胞で過剰発現する細胞表面タンパクに結合する。

癌細胞は、この複合体と共にシャーレで1時間あまり培養した後、IR700を活性化する近赤外線を照射すると死滅した。このような迅速な反応が起こるには、複合体が癌細胞を殺すためには細胞表面に付着するだけでよいことを示している。従来の光線力学療法剤のように細胞に取り込まれる必要はない。この複合体は、HER2やHER1を過剰発現しない細胞は殺さなかった。

この複合体を動物モデルで調べるために、研究者らはHER2またはHER1を過剰発現する異種移植腫瘍をマウスに定着させた。マウスに小さな腫瘍が形成された後、2つのうちいずれかの複合体を注入し、1日後に近赤外線を照射した。その処置を行ったマウスは、無処置の対照マウスに比べて腫瘍が有意に縮小し、長く生存した。週2回、4週間の複合体処置後、正常組織にはいかなる毒性作用も認められなかった。

新規複合体の蛍光は、非侵襲的な癌診断や治療効果のモニタリングにも有用である可能性があると著者らは説明した。「さらに試験が必要であるが、この『光線免疫療法』はある種の外科的治療、放射線治療、化学療法の代替となる可能性がある」と小林氏は報道発表で述べた。

悪性黒色腫のリスクを増す遺伝子変異が同定される

国際的研究グループにより、悪性黒色腫のリスク増加に関連する稀な遺伝子変異が最近同定された。この変異はMITF遺伝子内の変異で、MITFタンパク質のアミノ酸を1つ変化させるものであり、悪性黒色腫の強い家族歴がある人や一般的な集団においても悪性黒色腫のリスクを増加させることが判明した。この研究Nature誌11月13日付電子版に掲載された。

CDKN2AとCDK4の2つの遺伝子の変異は、家族性悪性黒色腫のリスクを増すことが知られており、CDKN2A遺伝子の変異は家族性悪性黒色腫の約40%の主要原因であり、CDK4遺伝子は悪性黒色腫が多い家系の小集団で悪性黒色腫のリスクとの関連が認められた。

家族性悪性黒色腫に関連する他の遺伝子を同定するために、NCI癌疫学・遺伝学部門の主任研究員Dr. Kevin Brown氏、クイーンズランド医学研究所のDr. Nicholas Hayward氏、トランスレーショナルゲノミクス研究所のDr. Jeffrey Trent氏は、悪性黒色腫を多発する家系の患者数人の全ゲノム配列を決定した。家系のなかにCDKN2AやCDK4の遺伝子変異がある人はいなかった。

うち1人においてMITF遺伝子の変異が発見された。この遺伝子はメラニン細胞と呼ばれる皮膚細胞において多くの重要な機能に関与しており、悪性黒色腫はメラニン細胞から発生する。以前の研究において、悪性黒色腫のなかにはMITFが増幅あるいは変異しているものや、過剰発現しているものがあることが判明していたが、この遺伝子が悪性黒色腫発症のリスクに関わるとは指摘されていなかった。

この同じ人の家系をさらに調査すると、E318KというMITF遺伝子の変異が、全員ではなかったが、悪性黒色腫を発症した数人から見つかった。次に筆者らは、一般集団と悪性黒色腫になりやすい家系を比較した2つの大規模症例対照研究の標本からMITFの変異を検索したところ、E318K変異は対照群に比べ悪性黒色腫患者群でより高頻度で認められた。この遺伝子変異は悪性黒色腫の家族歴が強く、原発悪性黒色腫が多発しているほど、より頻度が高かったとBrown氏らは報告した。

MITF遺伝子変異により悪性黒色腫の発症が促進されるメカニズムは不明であると、統括著者であるBrown氏は説明した。しかし、細胞株を用いた研究では、この変異によってMITFにより調節されるいくつかの遺伝子の発現が変化することが示された。

悪性黒色腫の家族歴のある人に推奨される定期検診やその他予防的手段が、この発見により変わるわけではないとBrown氏は付け加えた。

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野川 恵子、 野長瀬 祥兼 訳

田中 文啓 (呼吸器外科/産業医科大学)、石井 一夫 (ゲノム科学/東京農工大学) 監修
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