2011/11/01号◆特別リポート「アスピリンにより大腸癌高リスクの人の発症率が低下することが示される」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/11/01号◆特別リポート「アスピリンにより大腸癌高リスクの人の発症率が低下することが示される」

更新日

Facebookでシェアする Twitterにツィートする LINEに送る print

2011/11/01号◆特別リポート「アスピリンにより大腸癌高リスクの人の発症率が低下することが示される」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年11月01日号(Volume 8 / Number 21)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

PDFはこちらからpicture_as_pdf

____________________

◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

アスピリンにより大腸癌高リスクの人の発症率が低下することが示される


大腸癌リスクの高い人々において、高用量のアスピリンを少なくとも2年間使用する、この種類では初めての大規模臨床試験の知見から、癌の発症が大幅に減ることが示唆された。

英国で実施されたCAPP2と呼ばれる試験において、リンチ症候群として知られている、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)を有する男性および女性で1日あたり600 mgのアスピリンを服用した患者群とプラセボ群を比べた結果、アスピリンを服用した患者群では大腸癌発症率の約60%の低下が認められた。HNPCCは遺伝性の疾患で、ある遺伝子群に変異を有しており大腸がんや他の癌の発症リスクを大幅に高める。DNAミスマッチ修復と呼ばれる遺伝子修復過程における遺伝性の変異を持つ患者の多くが40代で癌を発症する。これは全大腸癌の約15%にあたり、ミスマッチ修復遺伝子における欠陥に起因している。

Lancet誌10月27日電子版に掲載された今回の知見は、2008年に発表された最初の試験結果を最新情報に基づいて更新したものである。当時、追跡調査の平均29カ月では、アスピリンの日常使用が大腸癌や前癌病変の発生を減らすことは確認されなかった。

今回の改訂された結果は、HNPCCを有する参加者861人、追跡調査の平均値が約56カ月のデータに基づいている。全般的に、アスピリンを服用していた試験参加者では大腸癌の発症率が低下する傾向が強くみられたが、統計学的有意性は示されなかった。

しかしながら、アスピリンを最低2年間服用していた参加者(258人)では、同じ期間プラセボを服用していた参加者と比較して大腸癌の発生率が約60%低下した。最低2年間のアスピリン使用は、HNPCCに関連する神経膠芽腫を始め、胃、尿管、胆管、皮膚(皮脂腺)、また子宮内膜などにおける他の癌の55%の発症率低下と関連していた。

「最近の研究と併せ、この結果はリンチ症候群における標準的治療としてアスピリンによる化学的予防を推奨するための根拠の一つを提供するものです」と、試験責任医師であるニューキャッスル大学のDr. John Burn氏らは述べた。「至適用量および治療期間についてはこれから検証が必要です」。

これらは、アスピリンが癌の予防薬となる可能性を示した最新の知見である。昨年、他の臨床試験(アスピリンを対象としていたが、癌の発症率をあらかじめ評価項目として定義していなかった)から得られた知見の2つのメタ解析で、平均4年間のアスピリンの日常的使用が全体的な癌リスクおよび大腸癌リスクの大幅な低下に関連していることが示された。

アスピリンを対象とした他のランダム化試験で、癌発症率を事前に評価項目として規定した唯一の試験はWomen’s Health Studyであったが、全体的な癌や特定の癌での発症率の低下は認められなかった。しかしながらこの試験の参加者には、癌リスクの上昇もなく、1日おきに摂取したアスピリンの量は約100 mgであった。ただしアスピリン摂取量が多いCAPP2の参加者よりも投与期間は長かった。

CAPP2試験参加者の継続的な追跡調査は、試験であらかじめ指定された要素であったと研究者らは説明した。「観察研究では、癌を遅延させる化学予防の概念は明らかであり、アスピリンを常用している患者では、癌への予防作用により発症までの期間は約10年である」と研究者らは述べている。「長期の結果は、大腸癌に対するアスピリンの遅延効果の仮説を支持している」と研究者らは続けて述べた。

Lancet誌の付随論文においてテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDr. Scott Lippman氏とハーバード大学医学部のDr. Andrew Chan氏はそれぞれ、この知見は「リンチ症候群の患者におけるアスピリンの常用に対する強い論理的根拠を与えるものである」と同意した。標準検診の手段を用いた継続的な「集中癌観察」にこの知見を加えるべきだと付け加えた。

アスピリンを服用している試験参加者では他のHNPCC関連癌の発症も低い。癌の高リスクにある他の患者において、「最も少ない副作用で患者に最大のベネフィットをもたらす」至適用量および治療期間についての今後の研究が必要であると、NCI癌予防部門のDr. Asad Umar氏は述べた。

特発型の大腸癌とは異なりHNPCCを有する患者では、癌の発症に炎症は関与していないようであるとUmar氏は付け加えた。同氏は1990年代の研究により、細胞における重要なDNA修復過程により損なわれた遺伝子変異がこの症候群に関連していると特定した。アスピリンおよび他の非ステロイド系抗炎症薬、NSAIDの主な作用機序は、身体の炎症反応の基であるCOX1およびCOX2タンパクを阻害することである。

「この研究は、少なくともHNPCCを有する患者にあってはアスピリンが全く違う作用機序を持って作用していることを現実に示唆しています」とUmar氏は述べた。(囲み記事参照)

CAPP2からの新しい知見には、特にアスピリンや他の抗炎症薬に関連する消化管出血などの副作用に関する情報は含まれていなかった。低用量のアスピリンでも癌の予防効果があるのかを特定することが重要であるとUmar氏は強調した。癌予防のための、短期あるいは長期のアスピリン使用による毒性を抑制できる可能性があるからである。

作用機序への洞察が得られるよう、アスピリン投与群とプラセボ投与群とに分けた試験参加者から採取した腫瘍標本を分析し、両群での差異を特定できるかを調べる予定であると、CAPP2研究チームのBurns氏はLancet誌の音声ファイル(podcast)で述べた。また、HNPCCを有する患者に対し、アスピリンの投与量を検証するために新たにCAPP3試験を現在準備中であると語った。

【爆弾質問】:アスピリンはどのように癌を予防するのか?アスピリンや、糖尿病薬といった一般的に使用されている医薬品が癌リスクや死亡率を低下させるという蓄積された証拠は十分に説得力があるため、NCI局長Dr. Harold Varmus氏の爆弾質問実例集に収められた。特にこの爆弾質問(PQ 5)は、アスピリンや、抗癌作用を発揮する他の薬剤の作用機序を解明することに的を絞った研究プロジェクトの実施を強く求めるものである。

「癌の予防がここ何年かで長足の進展を遂げる可能性と必要性がある領域だという認識が広まっています」とUmar氏は述べた。「これらの薬剤がどのように作用しているかを特定することが、このプロジェクトの非常に重要な部分であり、この分野の研究者が研究申請してこの重要な問題に答えを出すよう奨励しています」。

******
岡田 章代  訳
辻村 信一 (獣医学・農学/メディカルライター) 監修
******

printこの記事を印刷する Facebookシェアする Twitterツィートする LINE送る

免責事項当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

注目キーワード

新着ドキュメント

一覧

arrow_upward