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プロジェクト・アキレスで卵巣癌の弱点を発見/ダナファーバー研究所

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プロジェクト・アキレスで卵巣癌の弱点を発見/ダナファーバー研究所

癌依存性を示した100個の細胞株によるゲノムスケールの研究

2011年7月11日

癌は無敵ではないが、弱点を検出するのがなかなか難しい。その弱点をピンポイントに見つけ出す体系的手法の開発を目的として、プロジェクト・アキレスとして知られる試みが始まった。この名称は、1つの弱点から身の破滅を招いたギリシアの戦士にちなんで名づけられた。このプロジェクトは今までにない大規模かつ最も包括的な試みで、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同施設であるブロード研究所とダナファーバー癌研究所の研究者らは、癌が依存する遺伝子を探るべく、25の卵巣腫瘍を含む、100検体以上の腫瘍から採取した細胞を解析した。そのうちのひとつ、PAX8遺伝子が、今回調査したうちの約1/5という、かなり高い割合の卵巣腫瘍で変異していることが確認された。この結果について7月11日付 Proceedings of the National Academy of Sciences誌オンライン版に掲載された。

「このプロジェクトでわれわれは、癌の“アキレスのかかと(※注:「弁慶の泣きどころ」の意)”をすべて探し求めた。つまり、ある遺伝子を不活性化しそれが癌細胞の生存に与える影響を網羅的に探索した」とブロード研究所の上級共同研究員でありダナファーバー癌研究所とハーバード大学医学部准教授のWilliam Hahn医学博士は述べた。研究者らは低分子ヘアピン型RNAs(shRNAs)により数千もの遺伝子を発現停止または抑制し、その結果から各遺伝子を標的とする薬物や治療の効果を予測できると考えた。

最近、別の大きな癌プロジェクトである、癌ゲノムアトラス(TCGA)に関与した研究者らは、卵巣癌ゲノムのうち1800種の遺伝子が繰り返し増幅され、あるいは過剰なコピー数を発現していたと報告した。プロジェクト・アキレスチームは癌細胞が増殖および生存するために必要な遺伝子を確認するため1万以上の遺伝子を発現停止させた。TCGAの結果を利用することにより、研究者らは卵巣腫瘍の増殖に欠かせない1800種の遺伝子を迅速かつ正確に確認することができた。

Hahn氏はブロード研究所でこれら2つのプロジェクトを統合させたことは、癌研究における本質的な変化を象徴していると述べている。「どの遺伝子が変異しているのか、または変化しているのかを明らかにするだけでなく、同時にどの遺伝子が機能的に重要であるのかを評価することができる。」

研究チームはブロード研究所のRNAi プラットフォームにより構築されたライブラリから54,000以上を含むshRNAsプールを用いた。「RNAi プラットフォームでわれわれが構築した方法であれば、ゲノムスケールでのshRNAsのスクリーニングが現実的かつ比較的安価に実施することができ、癌研究の中でもっとも応用が進んでいる分野である」と本研究所の RNAi プラットフォーム責任者であるDavid Root氏は述べた。「最新論文で報告したように細胞株を100個にスケールアップすることは、非常に困難であったが、また非常に大きなチャンスに巡り合うことにもなった。もっと多くの細胞株によるデータを用いれば、機能的に重要な癌標的を同定するさらに大きな原動力になるであろう」

最新のプロジェクト・アキレス研究はまた、癌生物学の基本的な問題についても触れている。数十年もの間、癌は起源の組織にもとづいて分類されてきたが、ここ10年の間に、多くの研究者がその癌の初発部位がどこであるかではなく、遺伝子変異にもとづいた腫瘍分類が、よりその癌の性質を明確にすると提唱するようになった。

「ゲノム科学分野の研究者の多くは、私も含めて、いずれその癌がどの器官由来であるかには関心がなくなり、その癌を駆動する遺伝子変異にのみ着目するようになるだろう」とHahn氏は述べた。「TCGAとわれわれのプロジェクト・アキレスの研究から、今後も細胞系列特異性が重要であることは明らかだ」

Hahn氏はいくつかの症例では、細胞系列がそれぞれの臓器系の発生機序に依存するのかもしれないと考えている。プロジェクト・アキレスチームが卵巣癌細胞で検出した最多遺伝子のうちのひとつがPAX8であり、この遺伝子は女性生殖系の発生に重要な役割を担っている。研究者らは彼らが調査した卵巣癌の16%にかなり多数のPAX8コピーを発見した。PAX8が過剰発現している細胞株において、PAX8を抑制したところ細胞死を誘導した。

卵巣癌における発見以外にも、研究者らはその他の病型の癌を探索すれば、癌の原因遺伝子が検出されうることを確認したが、それはサンプル数が多いことが条件となる。

「従来の方法によるこの種の研究では、1個の細胞株と他の細胞株を1対1で比較していた。これでは、あまり確固たる結果が得られない。今回の論文に示したように、もしそれぞれ比較しようとする8~9個の細胞株があれば、出現している候補遺伝子の信頼度は高い」とHahn氏は述べた。

今後数カ月間、Hahn氏とそのチームはPAX8の結果を追跡する予定である。その遺伝子が転写因子をコード化しているとはいえ、主制御タンパク質に分類されるものは、残念ながら“新薬の開発にはつながらない“とみなされてきた。研究者らはブロード研究所のChemical Biology Platform(化学生物学基盤技術)部門と協力し、彼ら独自の何万にものぼる化合物の中からPAX8を無効にできるものを探索するつもりである。「PAX8は転写因子であり、これを標的とした医薬品を創造するのは困難、あるいは不可能と考えられているが、まさにこれこそブロード研究所が目指したプロジェクトの神髄である」とHahn氏は述べた。

一方、Hahn氏の研究室、RNAiプラットフォーム、その他ブロードの研究者らはさらなるプロジェクト・アキレス戦略を継続中であり、より多くの細胞株をスクリーニングし、多数の異なる癌における有望な標的遺伝子を選定するための新規分析法を研究している。

プロジェクト・アキレスの全データはhttp://www.broadinstitute.org/IGPで検閲可能である。本プロジェクトは米国国立衛生研究所助成金 R33 CA128625, RC2 CA148268,U54 CA112962, ノヴァルティス社, リチャード・ハント氏、 H. L. スナイダー基金の支援を受けた。

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武内 優子 訳
石井 一夫 (ゲノム科学/東京農工大学) 監修
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