2011/09/20号◆クローズアップ「公表されない第3相癌臨床試験:否定的な結果の排除か?」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/09/20号◆クローズアップ「公表されない第3相癌臨床試験:否定的な結果の排除か?」

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2011/09/20号◆クローズアップ「公表されない第3相癌臨床試験:否定的な結果の排除か?」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年9月20日号(Volume 8 / Number 18)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

公表されない第3相癌臨床試験:否定的な結果の排除か?

癌研究において第3相臨床試験は、癌治療の有効性を支持する最高水準のエビデンスを提示する「ゴールド・スタンダード」である。通常、このような試験には多くの施設で数百人の患者が参加し、完了までには何百万ドルもの費用と何年もの時間が費やされる。最も重要なのは、公表された第3相臨床試験の結果が、特定の組織型や病期に対する標準治療を実質的に変える可能性があることである。

腫瘍医にとって最大規模の学会、ASCO年次総会では、診療を変える可能性のある臨床試験結果がしばしば初めて紹介され、その後、より具体的な詳細を盛り込んだ報告が査読誌で公表される。

しかしながら、新たな調査によると、ASCO年次総会で抄録として発表された第3相臨床試験のおよそ10件に1件が、その後6年以上経過しても公表されないままであることが明らかになった。23,000人を超える癌患者が参加したことになるこれらの未公表臨床試験の多くは、否定的(ネガティブ)な結果に終わったか、結論に達しなかった―つまり、臨床試験での試験治療が標準治療あるいは対照治療よりも優れているということを示すことができなかったのである。

パブリケーション・バイアス(出版バイアス)

これまでの研究により、肯定的(ポジティブ)な結果を得た臨床試験―試験治療が標準治療あるいは対照治療よりも優れていることを示すことができたもの―は、結果が否定的あるいは結論に達しなかった試験よりも公表される傾向が高い、と述べるのは、Journal of Clinical Oncology誌8月号に発表された研究の統括著者でプリンセス・マーガレット病院(カナダ・トロント)のDr. Monika Krzyzanowska氏である。肯定的な研究結果が選択的に公表される傾向は、パブリケーション・バイアス(出版バイアス)として知られている。

「否定的な結果を得た研究が公表されないと、治療のベネフィットが過大評価され、不適切な治療法の決定により患者に悪影響が及ぶかもしれません」とKrzyzanowska氏は述べる。

以前行われた研究で、Krzyzanowska氏らは、1989年~1998年のASCO年次総会で抄録として発表された第3相臨床試験510件のうち26パーセントが、その後5年以内に論文発表されなかったことを明らかにした。今回の研究では、1989年~2003年のASCO年次総会で発表された第3相臨床試験709件に対象を拡大して解析を行った。

「否定的な結果は、肯定的な結果と同様に重要なこともあるのです」と、NCI癌治療評価プログラム長であるDr. Jeff Abrams氏は述べる。「否定的な知見が科学的な論文として公表されなければ、他の研究者らはそのアプローチがすでに試され、失敗に終わったことを知らないままに重複した研究に時間を費やし、誤った方向に進んでしまうかもしれないのです」。

重要な疑問

公表されない臨床試験の大部分は、乳癌、消化器癌、血液癌、肺癌の治療法に関するものである。その試験の抄録の評価依頼を受けた各癌種の専門医らによると、その大部分が重要な臨床的疑問を呈するものであり、時機を逸せずに公表されていれば、臨床診療に影響を及ぼしていたであろう、という。

この専門医らの意見は主観的である、とKrzyzanowska氏は認めている。「古いものでは15年以上前に行われた、過去の試験の臨床的影響の可能性を、レトロスペクティブに評価するのは困難なことです」。

未公表の臨床試験に携わった研究者らは、結果を公表しない理由として、時間、資金、その他の資源不足を挙げることが多い。試験結果を公表するために論文を提出したが、却下されたという研究者もいた。

臨床試験結果を公表しないということは、試験への参加が科学的知見の発展につながるという信念を少なくともある程度は持って登録を決めた患者と研究者の間の「暗黙の契約を破る」ものである。同時に、研究者と資金提供機関の間の信頼関係も壊すものであり、これは今後の臨床試験への資金提供に悪影響を及ぼす可能性がある、とKrzyzanowska氏らは記している。

「“ネガティブ”という言葉は、結果の公表を妨げる心理的障壁です」と述べるのは、オープンアクセス、オンライン査読誌であるJournal of Negative Results in Biomedicine誌の編集長を務める、ハーバード大学医学部のDr. Bjorn R. Olsen氏である。「編集者も査読者も、その分野を前進させると信じられる研究結果を求めています。否定的な知見を報告している論文の公表が却下されるのは、その結果が試験デザインや実施に欠点があったためであると査読者や編集者が考えるからかもしれません」と付け加えた。

試験の登録

2007年以降、法律により米国内の1カ所以上の施設において開始されるすべての臨床試験(第1相試験を除く)は、公的に利用可能なデータベースであるClinicalTrials.govに登録しなければならない。また、試験依頼者は2008年以降、試験終了後1年以内に結果の要約をClinicalTrials.govに提出しなければならない。

このような要件を設けることにより、試験結果が査読誌に公表されなくても、その知見の要約は研究者、患者、そして世間全体の目に触れることができる、とAbrams氏は説明した。

Krzyzanowska氏は、癌治療に特化した否定的な結果を掲載する雑誌も、問題解決の一助となるかもしれないという。しかしAbrams氏は、否定的な結果のみを扱った雑誌が読者の関心を引くか、という点に疑問を呈している。より良い方法として彼が推奨するのは、否定的な結果が得られた試験に関する短報を掲載するよう医学雑誌に働きかけることである。こうすることで、公開されないだろうと信じ、否定的な試験の長い論文を書く事に時間を費やしたくはないであろう研究者たちに、インセンティブを与えることができるかもしれない。このような短報は抄録よりも多くの情報を提供できる。

「結論に達しなかった試験や否定的な結果を得た試験を公表しないのは、科学にとっての損害です」と、Abrams氏は述べた。

—Eleanor Mayfield

 

 公表の遅延:遅れとはどのくらいか?Krzyzanowska氏らは、ASCO年次総会での抄録発表後6年間公表されていない試験の他に、13パーセントが抄録発表後5年以上経過して公表されていたことを明らかにした。

試験結果が診療に与える影響は、時機を逸せずに公表されるか否かに左右される、と彼女は説明する。

さらに、「250語の抄録では、試験の主要な結果にごく簡単に触れるのみですが―その結果が抄録発表と最終的な論文発表までの間に発展することもあるのです。臨床医と資金提供機関の多くが論文の公表を待っているのは、それが試験に関するより詳細な情報を提供するだけでなく専門家により厳密に査読されているからなのです」。

抄録が中間の試験結果を発表するものであった場合、十分なデータを得るために時間が必要なため、公表の遅延は理解できる、とKrzyzanowska氏は述べた。「十分な研究が実施されている場合は、診療に影響を与えることを目標とするのならば、抄録の発表から論文公表まで5年以上の遅延は長すぎる、とする意見が大勢を占めるでしょう」。

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河原 恭子 訳
須藤 智久(国立がん研究センター東病院 臨床開発センター) 監修
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