2009/02/10号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2009/02/10号◆癌研究ハイライト

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2009/02/10号◆癌研究ハイライト

同号原文 

NCI Cancer Bulletin2009年2月10日号(Volume 6 / Number 3)

日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・大腸癌の分子標的薬の併用療法は治療成績を悪化させる
・子宮内膜癌患者における卵巣温存は安全かもしれない
・医療費負担のため一部の癌サバイバーは医療ケアを見送っている
・遺伝子組み替え免疫細胞がマウスにおける大きな腫瘍を縮小または消失させる

大腸癌の分子標的薬の併用療法は治療成績を悪化させる

ベバシズマブ(アバスチン)およびセツキシマブ(アービタックス)を化学療法と併用した場合と、ベバシズマブのみ併用した化学療法とを比較したランダム化臨床試験の結果、セツキシマブの追加によって患者の無再発生存期間と全生存期間中央値を実際には短縮することがわかった。癌の動物モデルを用いたいくつかの研究では、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする薬剤と上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする薬剤の併用は、いずれの単独使用より効果が高まると示唆されているが、今回はこれと矛盾する結果が得られた。この試験結果は、New England Journal of Medicine誌の2月5日号に発表された。

この報告はオランダの研究者によるもので、手術不能の転移性結腸癌または直腸癌患者755人を試験に登録し、疾患の進行、死亡または許容できない副作用が認められるまで治療を継続した。全体として「セツキシマブの追加により無再発生存期間の中央値が有意に短くなり」、10.7カ月から9.4カ月になったと報告された。全生存期間の中央値は、ベバシズマブ併用化学療法の患者で20.3カ月、ベバシズマブ/セツキシマブ併用化学療法の患者で19.4カ月であった。治療中のQOLと健康の総合的改善度はセツキシマブの投与を受けた患者のほうが低かった。

患者の腫瘍のKRAS遺伝子が正常であるか変異しているかという点から上記の結果が解析された。これまでの多くの研究では、KRAS遺伝子が正常な患者だけが、EGFRを標的とするセツキシマブなどの薬剤の恩恵を受けられることが示されている。セツキシマブ投与群のうちKRAS変異を有する患者では、ベバシズマブ併用化学療法群の患者より無再発生存期間が有意に短かった。KRAS遺伝子が正常な患者では無再発生存期間にセツキシマブの影響はみられなかった。

このように、予期しなかった否定的な結果が生じた理由は著者らにも不明とのことであるが、一つの可能性として、セツキシマブとベバシズマブの負の相互作用が考えられる。

子宮内膜癌患者における卵巣温存は安全かもしれない

子宮内膜癌ではエストロゲンが増殖を促進する可能性があるため、子宮摘出とエストロゲンを産生する卵巣の摘出が標準療法である。しかし、Journal of Clinical Oncology誌電子版の1月26日号に発表されたレトロスペクティブ研究から、低悪性度の初期子宮内膜癌の閉経前女性では、卵巣を摘出しても実際には生存率が改善しない可能性が示唆された。

コロンビア大学内科・外科学部(Columbia University College of Physicians and Surgeons)のDr. Jason D. Wright氏らはSEERデータベースを用い、卵巣摘出術を受けた子宮内膜癌患者2,867人の生存率を、卵巣を温存した子宮内膜癌患者402人と比較した。患者は全員が1988~2004年に診断を受け、子宮摘出術を受けた。

卵巣を温存した女性は、摘出した女性より若く、腫瘍低悪性度かつ初期で ある割合が高く、補助放射線療法を受けた頻度も低かったため、結果に影響した可能性がある。しかし、これらの差を調整したが、疾患特異的5年生存率、全生存率に影響はみられなかった。放射線の骨盤照射により卵巣機能が影響を受けた可能性がある女性を除外しても、卵巣摘出による生存率の上昇は認められなかった。

卵巣摘出は早期閉経を招く。このため、卵巣を温存した女性は、ほてり、膣の乾燥のほか、心疾患・骨粗鬆症・大腿骨頸部骨折のリスク上昇といった長期的な健康問題に見舞われずにすむ。「手術による閉経の帰結を考えれば、初期の子宮内膜癌患者である若い女性で卵巣を温存することの安全性をさらに検討する必要があるのは明白」と著者らは結論づけた。著者らはこのほか、卵巣摘出に踏み切る前に、患者女性と治療選択肢について念入りに話し合うべきであることも強調している。

医療費負担のため一部の癌サバイバーは医療ケアを見送っている

約200万人の癌サバイバー(特にヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人)が、経済的な理由で処方薬投与などの医療を受けずに毎日を過ごしている、とNCIの研究者らが報告した。

米国癌学会(AACR)の癌患者の医療格差に関する分科会で先週発表された調査結果によると、医療費が高すぎるという理由で、癌サバイバーのうち、およそ10人に1人が処方された薬を買うことができず、8%近くは必要と思われる一般的治療を見送り、必要な歯科治療をやめる患者は11%を超え、さらに3%程度は精神科の受診も先延ばししている。

これは必要とする医療をまったく受けない、あるいは著しく遅らせている患者が存在するということかもしれない、とNCIの癌制御・人口学部門の癌予防学フェローで本研究の筆頭著者であるDr. Kathryn Weaver氏は説明した。今回の結果は、健康保険が利用可能か否かだけでは説明できない。「保険に加入している患者でも、自己負担による出費がかなりあります」とWeaver氏は述べた。

研究チームは本調査の実施にあたり2003年から2006年までにCDCが実施した国民の健康に関する聞き取り調査(NHIS)のデータを利用した。この中に6,600人以上の癌サバイバー(大多数は白人)を同定し、この群と104,000人を超える癌の既往歴のない群を比較した。いくつかの背景因子による補正を加えると差が縮小ないし除去されるものの、ヒスパニック系ではない白人と比べ、ヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人の癌サバイバーは歯科治療および処方薬投与を先送りしている傾向が有意に認められた。

NHISは米国の人口構成比率とほぼ同様であることから、研究者チームは金銭の問題で必要な医療を見合わせる癌サバイバー数は約200万人と、想像以上の推定値を出すこととなった。

2008年のデータはまだ出ていないが、最近の経済の落ち込みで事態は悪化しているに違いない、とWeaver氏は話した。

「必要な医療を受けずに過ごすという状況について最も説得力のある理由の一つが、健康保険に加入していないことというのはわかります。失業すれば、同時に健康保険もなくなり、このことが必要な医療を受けられない人の割合を増加させています」とWeaver氏は述べた。

癌の治療費に関する研究:最新報告2件
治療に必要な高額の費用という困難かつ感情的となりやすい問題を癌患者が乗り切れるよう支援するため、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は先週、「癌治療のコスト管理について」を発行した。この小冊子には、患者にとって今後起こりうることの説明や、医療費について担当医師とスムーズに相談するためのヒントが掲載されている。このほか、医療費の補助が必要な患者を支援してくれる団体組織のリストや、健康保険に関する内容もある。先週に発行された2つ目の報告「生きるために支払う―健康保険制度の落とし穴に直面する癌患者」は、被保険者がもっとも健康保険制度を必要とするとき、すなわち癌になったときに、保険が穴だらけであることが多々ある、と結論づけている。米国癌協会およびカイザーファミリー財団によるこの調査では、20人の患者に焦点をあて、支払える範囲の保険料で健康保険に加入し、健康維持のために支払い続けることがいかに難しいかを解説している。付属のビデオはこちら

遺伝子組み替え免疫細胞がマウスにおける大きな腫瘍を縮小または消失させる

ペンシルバニア大学のDr. Carl June氏率いる研究者らは、NCIがん研究センターと協力し、メソセリンというタンパク質を細胞表面に発現する癌細胞の選択的破壊を可能にするよう遺伝子操作を施したヒトT細胞(免疫系細胞の一種)を作製した。メソセリンは中皮腫(胸膜や腹膜表面に発生する癌)や膵臓癌、卵巣癌、非小細胞肺癌などいくつかの癌で過剰に発現し、従来の抗癌治療に高い抵抗性を示す。

2月9日の全米科学アカデミー会報誌オンライン版に掲載された報告によると、同研究チームはウイルスを用いて遺伝子操作を施したT細胞受容体をコードするDNAを正常なT細胞に導入した。遺伝子操作した受容体は、複数のシグナルタンパク質に付着したメソセリンを認識可能なタンパク質の一種で構成されている。このシグナルタンパク質はメソセリン標的を有するT細胞の増殖および腫瘍細胞の選択的破壊を誘起する。

細胞の培養実験で、遺伝子操作した受容体は首尾よくT細胞上に発現された。このT細胞はメソセリンを発現する癌細胞を選択的に破壊する一方、メソセリンを発現していない細胞を破壊することはなかった。

中皮腫細胞を移植し、腫瘍を発生させたマウスに遺伝子操作を施したT細胞を注入すると腫瘍の縮小または消失が認められた。遺伝子操作したT細胞1個に約40個の腫瘍細胞に対する破壊能力があるとみられ、この細胞は注入から数週間後も血液中に残存していた。

「これらの細胞を少量投与することでサイズの大きい腫瘍を患う患者に対する治療が実現するかもしれません。この治療法について、中皮腫および卵巣癌の患者を対象に検討するため臨床試験を立ち上げているところです」と、記事に付随するプレスリリースでJune氏は述べた。

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nobara、橋本 仁 訳

林 正樹(血液、腫瘍医)、村中 健一郎(生物物理学)監修

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