2010/01/26号◆スポットライト「乳癌遺伝子変異において重視される予防的選択肢」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/01/26号◆スポットライト「乳癌遺伝子変異において重視される予防的選択肢」

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2010/01/26号◆スポットライト「乳癌遺伝子変異において重視される予防的選択肢」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年1月26日号(Volume 7 / Number 2)
日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

 乳癌遺伝子変異において重視される予防的選択肢

米国女性の30万人以上は、乳癌感受性遺伝子1および2(BRCA1、BRCA2)として知られる2つのDNA修復遺伝子の1つに異常がある。Dr.Mary-Claire King氏らによる研究により、第17染色体と第13染色体上の遺伝子に有害な変異を同定した1990年代半ば以降、米国および諸外国で行われた多数の研究によりBRCA1やBRCA2に変異がある女性は、乳癌に罹患する生涯リスクが60%、卵巣癌に罹患する生涯リスクでは15〜40%など、ある種の癌リスクがかなり高くなるという事実が確認されてきた。

「真の課題は、女性たちはこの遺伝子変異に対して何ができるか、そして、こうした女性たちが自分の癌リスクが高いことを理解し、それに対処していくのをわれわれはどのように手助けできるか、ということです」とシダーズ・サイナイ医療センターの婦人科癌研究所と婦人科腫瘍部門のディレクターであり、カリフォルニア大学ロサンゼルス校デイヴィッド・ゲフィン医科大学院の産科・婦人科教授であるDr. Beth Karlan氏は述べた。「多くの場合、女性はなにか行動しなければならないと考えますが、リスクを低減するとわかっている予防手段の潜在的影響を十分には理解していないかもしれません」。

予防的乳房切除術を行うことで、遺伝子変異がある人の乳癌リスクが90%減少することは一般に示されている。予防的卵管卵巣摘除術により卵巣癌リスクは約80%低下し、さらに乳癌リスクは半分になる。そして、スタンフォード大学のDr. Sylvia K. Plevritis氏、Dr. Allison W. Kurian氏、Dr. Bronislava M. Sigal氏らが率いる、このハイリスク集団に対して年に1度の乳房MRI検査でマンモグラフィーを補う研究は、許容できる費用対効果で、さらに彼女らのリスク管理を支援した。(この研究に基づき、アメリカ癌協会(ACS)は、2007年にスクリーニングのガイドラインを変更し、BRCA遺伝子変異のある人に対し年1度のMRI検査を加えた。)

このようなリスク低下手段や観察の選択肢があるにもかかわらず、BRCA遺伝子変異がある女性は、これらの極めて侵襲性の高い治療方針を行う時期とそれを受け入れるかどうかの意志決定に難渋している。それらを受け入れても癌リスクが皆無になることはなく、長期にわたり身体的影響を与えるものである。そして、予防的乳房切除術または予防的卵巣摘除術といった思い切った介入に女性を無作為に割り付けるのは不可能なため、遺伝子異常がある女性に対してどちらかの処置を行うのがよいかを決定するための明確なエビデンスはない。

モデル化が重要なものと認められる

1つのアプローチは、臨床試験、観察研究や臨床的専門知識など広範な情報のエビデンスにしっかりと根付かせたコンピューターシミュレーションを構築し、それによる意思決定支援ツールを開発することである。「目標は、利用可能な最良のデータをすべて統合したモデルを用いてエビデンスとのギャップを埋めることです」とPlevritis氏は述べた。

2009年12月、Plevritis氏、Kurian氏、Sigal氏の3人は、予防的乳房切除術と予防的卵巣摘除術を集中的スクリーニングと併用した結果を分析した、これまでの研究を進展させた結果をJournal of Clinical Oncology誌に発表した。彼女らの以前のMRI研究では、政策レベルの意思決定ツールを提供していたが、現行モデルは個人の意思決定をサポートするように設計されていた。

一般集団においては、25歳女性の84%は70歳まで生存すると思われる。BRCA2遺伝子変異がある女性は、何らかの原因で死亡するリスクがより高いが、リスクを低減させる介入がなくても、71%は70歳まで生存するとされ、BRCA1遺伝子変異がある女性が70歳まで生存する確率はわずかに53%とみられる。

このモデルは、特定のリスクを減少させる方法を単独または組み合わせることで70歳まで生存する確率がどのように改善されるかを示している。一番積極的なリスク減少戦略は、25歳で予防的乳房切除術、そして40歳で予防的卵巣摘除術を行うことである。これにより、BRCA2遺伝子変異をもつ女性の83%(一般集団の推定と比べてわずかに1%しか下回っていない)が70歳まで生存を延長することできる可能性がある。このモデル解析により、同様の戦略を行うことでBRCA1遺伝子変異がある女性の生存率を79%まで向上させる可能性と思われる。

BRCA1、BRCA2に変異がある女性の70歳の生存の可能性

単独介入:
BRCA1遺伝子が変異している BRCA2遺伝子が変異している
介入無し群 53% 71%
40歳で予防的卵巣摘出術 (PO)を行った群 68 77
25歳で予防的乳房切除群(PM)を行った群 66 79
40歳でPMを行った群 64 78
50歳でPOを行った群 61 75
25〜69歳の間にマンモグラフィーと乳房MRIを行った群 59 75
併用介入:
25歳でPM +40歳でPOを行った群 79% 83%
40歳でPMとPOを行い25〜39歳の間マンモグラフィーとMRIを行った群 77 82
40歳でPOを行い25〜39歳の間マンモグラフィーとMRIを行った群 74 80
50歳でPOを行い25〜49歳の間マンモグラフィーとMRIを行った群 69 79

厳しい選択を迫られる女性に対する支援

コンピューターモデルによる計画の係数は、BRCA遺伝子変異があり癌リスクを減らしたいと願う女性のための方程式の一部なだけである。「BRCA1、BRCA2に変異がある人と癌リスクについて話し合うことは、個人、文化、感情などあらゆる理由で複雑で込み入ったものになると思われます」とKarlan氏は説明した。

「個々の女性は、家族歴、医療施設の利用、出産の懸念、同時診断される疾患や個人的嗜好などによって、癌リスクをどのように管理するか、多岐にわたる選択をしています」とKurian氏は同意した。「これらの予防的選択は、生存率の違いは少ないですが、身体および感情に対する影響は潜在的に大きな違いがあります」。

スローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク市)ではBRCA遺伝子変異検査を行う際、非常なストレスあるいは迷いから決断が難しい女性に対して、臨床精神科医のDr. Karen Hurley氏を紹介する制度を設けている数少ない病院の1つである。

「データに飢えていた人、そしてこのモデルのような意思決定支援ツールを欲していた人にはとても有益なものとなり得ます」とHurley氏は説明した。「しかし一方では、数字だけでは捉えられないこともあります」。

Hurley氏は、このリスクの数値を見て生存率のわずかな違いで頭がいっぱいになってしまう患者をときに見かけるという。「専門家として私たちは、常に実務的で淡々とした言葉で生存数値を扱っています。しかし、これらの数値は死亡率を取り上げるものであり、そこには必ず感情が伴うことに敏感でなければなりません」。20代、30代、40代で自分の寿命と対峙することが容易だという人はめったにいないと彼女は述べたが、それでも「BRCA遺伝子変異は、他の要因と相まって時間を早送りしてしまいかねません」。

「私は、これらの飛躍的なリスク低下戦略に関する決断は、医学的判断と心情的判断の両方に基づくべきであるとあえて言います」とHurley氏は続けた。「多くの人はそれほど弱くありません。彼女らは数値を理解する助けが必要であるかもしれないし、過去の不幸や他の日常生活のストレスといった、意思決定に影響を及ぼす未解決問題があるかもしれません。私たちはそれらも一緒に克服しようと努めています。臨床医として私は、1つだけ明確になった次の言葉に耳を傾けます。『リスク低下のため選んだその介入方法に彼女らが期待することとは、その介入方法が彼女たち一人一人に対してどのように有益であるかということなのです』」

最終的には、女性一人一人が、BRCA1、2変異による癌リスクを管理していく最良の方法を自分で決定しなければならない。「私たちのモデルは、量的に女性の選択を支援することを目的としており、BRCA1、BRCA2に変異がある女性が多くの情報を得た上で予防的手術と検診方針の選択の間でより良い決断ができるように導くものです」とKurian氏は述べた。

—Addison Greenwood

関連記事全米放射線学会(ACRIN)によりRadiology誌2010年1月号に掲載された研究は、乳房MRIの診断成績と結果の両方を調査したものであった。結果は、BRCA1/2に変異がある何人の女性が、アメリカ癌協会(ACS)のガイドラインに従い、実際に乳房MRI検査を受けるかに影響を及ぼしうるかという挑戦を示す。

マンモグラフィーと超音波検査による2年間のスクリーニングを終了した1,200人以上の女性に対して、費用のかからない乳房MRI検査の提供を申し出た。実際には52%の女性のみがこの検査を終え、42%の女性は参加を辞退した。参加辞退をした女性の4分の1は閉所恐怖症であり、18%は時間的あるいは行程的に不都合であったためとし、12%は経済的問題を辞退の理由とした。

著者らは、「検診が実用化されるには、広く実施され、不利益も少なく、費用対効果に優れたものでなければならない」と記し、これらの結果は、「MRI画像検査が受け入れられない乳癌リスクの高い女性のグループが大勢いる可能性」を示している。

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Nogawa 訳
原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修

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