2008/06/24号◆特別レポート「患者に必要のない治療をしない」 | 海外がん医療情報リファレンス

2008/06/24号◆特別レポート「患者に必要のない治療をしない」

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2008/06/24号◆特別レポート「患者に必要のない治療をしない」

NCI Cancer Bulletin2008年06月24日号(Volume 5 / Number 13)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

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特別レポート

患者に必要のない治療をしない

ヒポクラテスも認めることだろう。オーダーメイド医療の幕開けである今、彼の言葉でもある「患者に害をもたらさない」ことが患者に最適な治療法を選択するのと同義であるということを。

癌の分野では一部の分子マーカーが臨床判断の助けとなっている。例えば、検査によってイマニチブ(グリベック)などの治療薬の候補患者を判定することができる。同時に、マーカーによって特定の治療を受けるべきでない患者を識別することもでき、このことは新研究でも示唆されているように価値のある情報である。

「患者にとってよい医師とは、特定の治療法を見送って治療による毒性を回避してくれる医師です」。Lancet Oncology誌6月号に予測バイオマーカーに関する記事を寄稿したシカゴ大学のDr. Richard Schilsky氏はこう話す。

「癌治療への反応を予測する信頼度の高いバイオマーカーというのはほとんどありません」とSchilsky氏は述べる。「おそらく乳癌におけるエストロゲン受容体が今のところ最も信頼できるマーカーでしょう」。

癌の生物学は複雑で、バイオマーカーの研究は、治療効果を予測するバイオマーカーを1つ発見するよりも、薬剤耐性をもたらす遺伝子変異を発見する確率の方が高い。

そのような耐性のマーカーのひとつに大腸癌におけるKRAS遺伝子がある。今月開かれた米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会では、KRAS遺伝子に変異をもつ進行癌の患者では化学療法にセツキシマブを加えても効果はみられないとの研究発表があった。

本学会で研究者らは、この遺伝子変異のある患者(全体の1/3)に対してはセツキシマブおよび関連薬のパニツムマブ〔panitumumab〕の投与をせず、副作用と医療費の発生を避けるべきだと述べた。欧州では、セツキシマブおよびパニツムマブは正常KRAS遺伝子を有する大腸癌患者に限り承認となっている。

この新結果は他の試験結果でも裏づけられており、大きな転換点となった。数日のうちに、NCIおよびその臨床試験協力団体は、大腸癌に対するセツキシマブを用いる臨床試験の患者登録を中止した。KRASに関する新情報を適切に臨床試験に取り入れるまでの措置である。

新薬が次々登場して治療の選択肢が増えているため、どの薬剤を選択すべきでないかということがますます重要となっている。

「われわれは標的薬の時代というエキサイティングな時期に入っています。何百種もの薬剤が近く登場しることでしょう」と、フレッドハッチンソン癌研究センターのDr. Julie Gralow氏はASCO年次総会でこのように述べた。「いかにこれらの薬剤の費用を捻出できるか? 薬剤が奏効する患者を識別することで、コストと毒性を抑えるというのがひとつの答えです」。

臨床試験の最終段階においてバイオマーカーの検証が可能となるように、新薬開発と同時にバイオマーカーを開発することも研究目標のひとつである。検査のエラーによって患者にとって価値のある治療法が奪われたり、患者を不必要なリスクに曝すことのないよう、この検証と信頼性の高い検査方法は必須である。

乳癌治療薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)が承認されてから10年が経過するが、研究者らはいまだに同薬が適合する患者を識別する最良の方法を探し求めている。Scilsky氏によると、現在の検査は薬に反応する患者を識別するとしているが、実際に同薬に反応するのは進行したHER-2陽性腫瘍で、全体の25%にすぎないという。「ですから、この検査は薬が無効な患者を識別するのに有用であると言ったほうがよいでしょう」。

患者が不必要な治療を受けないようにするためのバイオマーカー検査にはOncotype DXもある。TAILORxという臨床試験において、この検査がER陽性で再発リスクがきわめて低い初期の乳癌患者を識別することにより術後化学療法を回避できるかの試験を実施している。

個々の患者に対するバイオマーカーの有益性はもとより、臨床試験に「治療が奏効する可能性のある患者」を登録することにより新薬開発をスピードアップできると研究者の多くが確信している。そうすれば研究目標に必要とする患者数は少なくてすみ、支出も削減できる。

一部の会社は前臨床試験でバイオマーカーを探索しているが、有用なマーカーを発見するには大規模な試験が必要になる。たとえば、KRASとセツキシマブとの関連についてのエビデンスを得るために、数多くの臨床試験から1,200人のデータが収集された。

前臨床試験ではバイオマーカー候補が出てこない場合も多く、「何百人何千人という患者の治療を実施してからようやくバイオマーカーと有効性との関連が見えてくることもあります」と、セツキシマブを開発したImClone Systems社のDr. Eric K. Rowinsky氏は話す。同社は新薬を開発中の試験段階からバイオマーカー研究を始めている。

大腸癌患者がすべて術後にKRAS変異の検査を受けるようになるのは時間の問題だ、と多くの専門家は考えている。また、将来的には治療への反応および不反応を識別する両マーカーを組み合わせることになるであろう。

「このKRASマーカーの発見は非常に大きな意義をもちます」とDr. Rowinsky氏は言う。「腫瘍学の世界では、ほとんどの患者は反応しないということになっており、われわれもそれに慣れきっていました。その理由に目をつぶっていたように感じます。われわれは、患者が治療に反応する・しないの理由を常に考えるべきだ、ということをKRASの話は教えてくれます」。

—Edward R. Winstead

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橋本 仁 訳
小宮武文(呼吸器内科)監修
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