2008/07/22号◆クローズアップ「頭頸部癌の最新治療」 | 海外がん医療情報リファレンス

2008/07/22号◆クローズアップ「頭頸部癌の最新治療」

更新日

Facebookでシェアする Twitterにツィートする LINEに送る print

2008/07/22号◆クローズアップ「頭頸部癌の最新治療」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年7月22日号(Volume 5 / Number 15)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

____________________

クローズアップ

頭頸部癌の最新治療

通常、臨床試験において、注目を集める患者が存在することはまずない。だが、シカゴ大学で現在実施中のランダム化第2相試験にはそんな患者がいる。Grant Achatz氏はThe New Yorker誌やChicago誌などの雑誌のトップ記事を飾ってきた人だが、その理由は彼が若くして著名なシェフであるからだけではない。治療前、彼の舌は大部分が悪性腫瘍に侵されていたからである。

Achatz氏のケースにより、口腔、鼻腔、喉など頭頸部癌にスポットライトが当てられるようになった。また、多くの症例において外見に影響する外科手術を避け、生存のリスクを冒すことなく重要な器官を残すという選択肢がとられるようになったことなど、大きくても明らかな転移が認められない限局性腫瘍(頭部および頚部の癌患者の4分の3に相当)の治療法が大きく進展している点が注目されている。

これらの進歩は、従来からある化学療法、放射線という2つの治療法を斬新な方法で用いることにより成し遂げられたものである。最新の研究では、分子標的薬や、治療に対して最も効果が期待できる人を判定できるようなマーカーなど、近い将来、さらに治療選択肢が増えてゆくことが示されている。

手術は不要

Achatz氏を診察した頭頸部治療の最先端医療に携わる3人の腫瘍医は、いずれも彼に舌の大部分を切除することを勧めた。しかし、同氏は4人目の医師から提示された「臓器温存治療」の臨床試験に参加することを選択した。報道によれば、現時点でAchatz氏の病気は再発していないという。Achatz氏が手術を回避し、舌を温存するという選択肢が存在したこと自体、向上する頭頸部癌治療の到達度を表わすものである。

喉頭癌に対して外科的切除を実施せずに化学療法と放射線療法を同時併用する現在の治療法を確立するに至った臨床試験の主導者ジョンズ・ホプキンス大学医学部のDr. Arlene Forastiere氏は「頭頸部癌研究の分野はエキサイティングな時期を迎えています」と話している。扁桃および舌根部を含む中咽頭癌に対しても同様に同併用療法が奏効するとの結果が得られている。

「シスプラチンを基本とする現在の化学放射線療法は大きな成果をあげています」とForastiere氏。「ですが、治癒率の点ではまだまだ改善の余地があります」と同氏はさらに付け加えた。たとえば中咽頭癌における5年後生存率はまだ59%程度である。

Achatz氏が参加した臨床試験の主導者であるDr. Everett Vokes氏によると、Achatz氏の例は極めて稀なケースであるという。舌癌は大半が舌根部に発生するのに対し、Achatz氏の場合、中咽頭には含まれない、「口腔内の舌」とも言うべき舌縁部から発生している。また、Achatz氏の癌は進行に数年かかっているが、口腔内の癌の大半は急速に進行すると考えられている。Achatz氏は喫煙せずアルコール摂取も適量であり、若年患者に見られるようなこれら2つの有意な発癌因子も除外されている。

Vokes氏の説明によると、舌の病変が小さい場合は一般的には外科手術の選択が最善となるという。Achatz氏のような症例データは論文で報告されておらず、ほとんどの頭頸部癌の治療指針では外科手術が推奨されるとなっている。「手術すべきかもしれない…でも、同時化学放射線療法をまずやってみようと、私たちは話しました」とVokes氏は振り返る。

Achatz氏が参加した臨床試験では、2種の化学放射線療法にセツキシマブ〔cetuximab〕(アービタックス〔Erbitux〕)を追加することによる比較が行われた。セツキシマブは、頭頸部の癌で過剰発現することの多い上皮細胞増殖因子受容体(EFGR)を標的とするモノクローナル抗体である。臨床試験の参加者は「根治的な」治療を受ける前に、転移を予防するため導入化学療法を受けている。

2006年に出版された臨床試験の結果をもとに、セツキシマブはすでに放射線治療との併用による頭頸部の癌治療への使用が承認されている。しかし、ミシガン大学総合がんセンターのDr. Francis Worden氏の説明では、現時点ではさまざまな理由から、セツキシマブの使用は、通常の化学放射線療法で用いられる毒性の強いプラチナベースの化学療法が適応でない患者のみに限定されているという。

Achatz氏が参加している第2相臨床試験の他に4件の大規模な第3相臨床試験が進行中で、EGFR標的薬の役割を解明する手立てとなるほか、幅広く研究されながらも標準治療になっていない導入化学療法の価値についてもエビデンスを積み上げることが期待されている。

同時化学放射線療法でさえも、一時的に嚥下、発生、味覚などに有意な障害をもたらしうる強い毒性を代償としたものであるため、現在調査研究中である。たとえばVokes氏らが発表した第2相臨床試験の結果では、治療の効果を減ずることなく徐々に放射線照射量を減らすことができると示されている。

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染による癌に思わぬベネフィット

喫煙率の低下にともない、頭頸部の癌発生率は減少している。だがこの減少傾向も中咽頭癌の増加により頭打ちとなってきている。中咽頭癌の患者の大半は45歳以下で、ヒトパピローマウイルス(HPV)、なかでもHPV16の感染に由来している。

この傾向に関し、肯定的な面があるとするならば、数多くの観察研究においてHPV陽性患者はHPV陰性の患者に比べ転帰が良好と示されているという点が挙げられる。

Worden氏のグループが最近発表した小規模臨床試験では、HPV陽性で進行した中咽頭癌患者が治療開始後4年でおよそ5人に4人が生存していたのに対し、HPV陰性の患者ではおよそ4人に1人という結果が報告されており、「2種の腫瘍が存在することがわかりました」と同氏は語っている。現存するデータからは、HPV陽性患者は毒性の弱い治療法の選択が可能であることも示唆されているとWorden氏は付け加えている。

この理論の是非は、まさに今、臨床試験で解明されようとしているとForastiere氏は話す。NCIが支援するEastern Cooperative Oncology Group(ECOG臨床試験団体)は、HPV感染状況により参加者を層別化した臨床試験をまもなく開始し、HPV陽性患者に対しては厳しい化学療法や放射線療法を回避する一方、HPV陰性患者に対しては標準的な化学放射線治療法およびEGFR標的薬による治療を行う予定である。

— Carmen Phillips

******

橋本 仁 訳

平 栄  (放射線腫瘍科)  監修

******

printこの記事を印刷する Facebookシェアする Twitterツィートする LINE送る

免責事項当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

注目キーワード

新着ドキュメント

一覧

arrow_upward