2008/09/09号◆特集記事「ゲノム研究により脳腫瘍の複雑な仕組みが明らかに」 | 海外がん医療情報リファレンス

2008/09/09号◆特集記事「ゲノム研究により脳腫瘍の複雑な仕組みが明らかに」

更新日

Facebookでシェアする Twitterにツィートする LINEに送る print

2008/09/09号◆特集記事「ゲノム研究により脳腫瘍の複雑な仕組みが明らかに」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年09月09日号(Volume 5 / Number 18)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

____________________

特集記事

ゲノム研究により脳腫瘍の複雑な仕組みが明らかに

脳腫瘍における分子レベルの変化に関するこれまでで最も包括的な2つの研究が先週発表された。この情報により、致死的疾病である脳腫瘍に関与する遺伝子ネットワークの現時点での知見は著しく豊富になり、治療戦略の可能性が示唆された。

癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)研究ネットワークは、様々なタイプの遺伝子データと臨床上の情報を基にした統合的アプローチを用いて206例の膠芽細胞腫(GBM)を解析した。Nature誌オンライン版に発表された研究結果によると、GBMにおいてこれまで認められなかった遺伝子変異および、しばしばそれらの遺伝子変異とともに本腫瘍疾患で多くみられる制御不能の主要分子経路が同定された。

脳腫瘍に対する化学療法剤テモゾロマイドへの耐性機序の発見という予期せぬ研究成果は、数年以内に臨床に応用されるであろうと研究チームは述べている。

「膨大な数の腫瘍を対象とした偏りのない包括的な分子変化の調査を行うことにより予想外の貴重な知見が生まれることをこの研究は示しています」とダナファーバー癌研究所の医師であり、TCGA委員会の共同委員長を務めるDr. Lynda Chin氏は述べた。同氏は同施設の研究者Dr. Matthew Meyerson氏とTCGAの研究論文を共同執筆しNature 誌に発表した。

これらはTCGAパイロット・プロジェクトの最初の研究成果である。同プロジェクトは米国立癌研究所(NCI)および米国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute)の資金提供による共同プログラムで、癌における分子レベルの変化を解明するのに用いられる統合的ゲノム戦略の有用性を明らかにすることを目的としている。18の施設および機関で行われたこの研究プログラムは、NCIの副長官であるDr. Anna Baker氏らが主導している。

本プロジェクトの目的はDNAのコピー数、遺伝子発現、DNAのメチル化状態の変化(遺伝子活性を調整するエピジェネティック変化)によって腫瘍特性を分類することであった。また、91例のGBM腫瘍から601の遺伝子の塩基配列を解析した。

本研究ではGBMに関与する3つの遺伝子(ERBB2、NF1、TP53)に焦点を当て、さらに3つの経路(RB、p53、RTK/RAS/PI3K)に注目をしている。解析したGBM腫瘍のうち、ほとんど全腫瘍においてこれらの経路は相互に影響し合い、また制御から外れていた。これらの経路を標的とした併用療法が有効な戦略となる患者も存在するであろうと研究者らは述べている。

「われわれは研究に研究を重ねた結果、発癌遺伝子はある特定の経路に存在し、またそれら経路は様々な変化を引き起こしうることがわかった」とMeyerson氏は述べる。「そして、その変化の状態を総合的に調べることによってのみ、これら腫瘍の遺伝子構造がわかってくるのである」。

テモゾロマイドの研究により、MGMT遺伝子がメチル化(不活化されている)されている場合、テモゾロマイドに対する感受性があると予測できることがわかった。メチル化されたMGMT遺伝子を有する一部の患者では、テモゾロマイドに耐性を生じ、DNAの修復に不可欠な遺伝子に変異をもたらす可能性があることをデータは示唆している。

「これらの研究結果が確認されれば、二次癌の発症を抑制するための併用療法の組み立て方やテモゾロマイドの効果的な使用法などがすぐにわかるようになるだろう。この研究は癌ゲノムプロジェクトで達成するのに最適な事例である」とChin氏は述べた。なぜならば、この結果はいずれも予測できないことであり、さまざまなタイプの情報を分析しなければ判明しないことだからである。

ジョンズホプキンスキンメルがんセンターのDr. Bert Vogelstein氏、Dr. Kenneth Kinzler氏、およびDr. Victor Velculescu氏らによって率いられた第2の研究では、22例の膠芽細胞腫に存在するほぼ全てのヒト遺伝子が解析された。その研究報告は、24例の膵臓癌の解析などがScience誌オンライン版に掲載された。膵臓癌は、脳腫瘍同様、新たな治療法や早期発見方法が必要な疾病の一つである。同チームは過去に11例の乳癌および11例の大腸癌のゲノム解析を発表している。

TCGA研究と同様に、ジョンズホプキンスのグループはさまざまな型の遺伝子情報を統括し、変化した遺伝子や経路を同定した。以前GBMとの関連が認められていなかったIDH1という遺伝子は、彼らが解析した149例のGBM腫瘍のうちの18例で変異を起こしてしていた。

TCGAの研究報告およびジョンズホプキンスの研究員らによる補足的研究は、豊富な患者検体における多次元的データを開発することにより、活性化経路を基に癌のサブタイプを明らかにすることが可能になることを示唆しているとBaker氏は述べた。「ここまで理解できれば、科学的根拠に基づいた治療や診断の決定に現実的な希望が持てる」。

TCGAは現在、さらなるGBMの分類を行っており、今後、より多くの解析を行う予定である。「これらの研究結果は、この疾病の最終報告ではないが、われわれの知見が患者治療の新たな展開を導くことを示している」とNCIの癌遺伝子学研究室のDr. Daniela Gerhand氏は述べた。

******

Yuko Watanabe  訳

島村 義樹(薬学) 監修

******

printこの記事を印刷する Facebookシェアする Twitterツィートする LINE送る

免責事項当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

注目キーワード

新着ドキュメント

一覧

arrow_upward