2008/09/23号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2008/09/23号◆癌研究ハイライト

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2008/09/23号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年09月23日号(Volume 5 / Number 19)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・染色体の過剰なコピーはHER2検査結果に影響を及ぼす
・ワクチンでマウスのHER2腫瘍を予防する
・遺伝因子が血液癌リスクに関係する
・ほとんどの癌臨床試験結果は発表されない

染色体の過剰なコピーはHER2検査結果に影響を及ぼす

ベルギーの研究者チームの報告によると、HER2遺伝子が存在する17番染色体のコピーが腫瘍細胞に過剰にある浸潤性乳癌の女性においては、HER2検査の結果が境界域もしくは「判定不能」となる可能性が高い、ということである。Journal of Clinical Oncology(JCO)誌9月15日号で発表された試験では、17番染色体のコピーは過剰にある(17番染色体polysomyと呼ばれる状態)がHER2増幅つまりHER2遺伝子の過剰コピーがない腫瘍は、HER2陰性の腫瘍と同様の性質をもつようになったことが明らかにされた。

HER2の検査結果は、HER2陽性疾患の治療用に特別に開発された医薬品 トラスツズマブ(ハーセプチン)の適応対象となるかどうかなど、乳癌患者に重要な影響をもたらす。

「体内の17番染色体polysomyはHER2の過剰発現と関係していないこと、また正確なHER2遺伝子増幅と同じような臨床病理学的意義を有していないことから、17番染色体polysomy腫瘍に対してトラスツズマブのようなHER2標的療法が有効であるかどうか疑問に思うかもしれない」とベルギーのルーベンにある Gasthuisberg大学病院の Dr. Isabelle Vanden Bempt氏の研究チームは記した。

研究チームは、最も一般的なHER2検出方法であるFISHとIHCを用いて226人の患者の腫瘍サンプルを検査し、さらに同サンプルで17番染色体polysomyについても検査を実施したところ、17番染色体polysomyがHER2の結果が判定不能であった患者全員(226人中47人)に認められたこと、また、ホルモン受容体が陰性であったり無病生存期間が短いなどの、HER2陽性癌の特徴を伴っていなかったことを明らかにした。

著者らは、17番染色体polysomy腫瘍を有する女性がトラスツズマブによる治療で効果を得ることができるかどうかの判断の一助として臨床試験を要請した。JCO誌の関連する論説の中で、今回の試験を評価したボストン大学医療センターDr. Carol Rosenberg氏は、新たな臨床試験は時期尚早であるかもしれないと論じた。

「今回の試験結果によって、HER2検査結果の解釈に影響が及ぶはずであり、ひいてはHER2標的治療に対する患者選択が改善される可能性も考えられる」と同氏は記した。しかしながら、「この問題を直接検証する新たな臨床試験を行うことが最も効率的な方法ではないかもしれない」と追記し、現在ある臨床試験のデータの見直しもしくは再分析によって、HER2増幅が欠如している17番染色体polysomy腫瘍にトラスツズマブもしくはラパチニブ(lapatinib)が奏効するかどうか判断することができるかもしれない点を指摘した。

ワクチンでマウスのHER2腫瘍を予防する

ミシガン州のカルマノス癌研究所において実施された研究で、乳癌細胞を注入したマウス腫瘍の予防に、ワクチンの100%の有効性が認められた。Cancer Research誌9月15号にその試験結果が掲載された。

研究には乳癌症例の20~30%を占める、女性のHER2陽性腫瘍に類似する乳癌細胞が用いられた。HER2陽性腫瘍の女性に対しては、トラスツズマブ(ハーセプチン)およびラパチニブなどの、HER2受容体を標的とする薬剤による治療が可能であるが、女性によってはやがてこれらの薬剤が効かなくなってしまう場合もある。

HER2が過剰発現するHER2陽性乳癌の女性に対して様々な予後を示す4つの細胞型のパネルが使用された。4つのうち2つは標的薬に対して完全に感受性を示し、1つは標的薬に対して最初は感受性を示すがやがて耐性を示し、1つはHER2標的薬に対して完全に耐性を示した。

マウスには、HER2受容体の大部分の遺伝子配列を含むように操作した細菌DNAのワクチンを接種した。研究者らは「エレクトロヴァクシネーション[electrovaccination](電気的に強化されたワクチン接種)法」を用い、電気パルスを与えることで細胞にDNAの取り込みおよび免疫細胞に提示するための関連タンパク質の産生を促した。

電気的強化ワクチン接種後、マウスに4つのHER2乳癌株のうちの1つが注入された。どのマウスにも腫瘍は発生しなかった。しかしながら、エレクトロヴァクシネーション法でHER2のDNA配列がないプラスミドを接種されていた対照マウスでは、全症例に腫瘍が発生した。1年後の追跡調査において、ワクチン接種による有害事象は認められなかった。

HER2標的薬に対する耐性のメカニズムを説明する際、研究者らは、様々な細胞型が一つの乳房腫瘍に共存することもあり得ること、また薬剤感受性細胞が除去されたことにより薬剤耐性細胞がさらに増殖をもたらすこともあり得ることに言及した。一部の女性に見られる再発はこれによって説明されるであろう。

今回の試験で実施したその他の検査では、HER2標的治療の「回避機構」によって、マウスの治療耐性細胞がどのようにHER2を破棄し、その細胞のシグナル伝達方法を修正できたかという点が明らかにされた。

「化学療法および抗体療法で効果が認められない腫瘍の患者においては、積極的なワクチン接種による包括的な免疫誘導が長期的な予防に極めて重要になるであろう」と著者らは述べている。

遺伝因子は血液癌のリスクに関係する

血液を供給する幹細胞が制御不能に増殖もしくは分化し始める稀な種類の白血病を含め、骨髄増殖性新生物(MPN)と呼ばれる疾患群があり、原因については、まだ大部分が不明である。しかし、最新の研究で、このような疾患と診断されたことがある患者の一親等血縁者の間でこの疾患群の発生率は5~7倍高いことが明らかにされており、遺伝的つながりに関する強力なエビデンスとなった。米国国立癌研究所(NCI)癌疫学・遺伝学部門の研究者およびスウェーデンの共同研究者による今回の分析はBlood誌9月15日号に掲載された。

研究者らは、国民皆保険制度があるスウェーデンの集団ベースのデータを用いて1958~2005年の間にMPNの診断を受けた患者全員を同定した。そして各患者の性別、生年、居住郡に対応させた4つの集団ベースの対照群をスウェーデンの人口データベースから無作為に抽出した。1932年以降に生まれたすべてのスウェーデン人の親子関係に関する情報が含まれるスウェーデン多世代登録から、患者および対照群両方の一親等血縁者(親、兄弟姉妹、および子)全員に関する情報を入手し、スウェーデン癌登録と関連づけて癌の発生症例に関する情報を収集した。研究には、MPN患者が合計11,039人、対照群43,550人、患者の一親等血縁者24,577人、および対照群の一親等血縁者99,542人が含まれた。

患者の一親等血縁者の間でMPNが発生する相対リスクは(対照群の一親等血縁者に対して)5.6倍増大することが明らかにされた。真性赤血球増加症(PV)、本態性血小板血症(ET)、および分類不能(NOS)の骨髄増殖性新生物を含む特定の疾患に対する相対リスクは、それぞれ5.7、7.4、および7.5であった。患者の一親等血縁者の間でリスクの増大が認められなかったのは、骨髄が線維性瘢痕組織に置き換えられる疾患である骨髄線維症(MF)のみであった。ただし、この疾患の全体の発生率は極めて低かった。MPN患者の一親等血縁者では、対照群の一親等血縁者と比べて、慢性骨髄性白血病のリスク増大は1.9倍でぎりぎり有意であった。

研究者らは、「今回の結果は、PV、ET、MF、そして場合によっては慢性骨髄性白血病にかかりやすくさせる既知の、強力な、共有の感受性遺伝子が存在する、という説を裏付けるものである」と結び、今回の研究はこの種のものでは最大規模の集団ベースによる症例対照研究であること、並びに「高リスク家系および症例対照研究への遺伝子地図や候補遺伝子アプローチの応用の論拠となる」ことに言及している。

同誌の関連する論評の中で、ジョンズホプキンス大学のDr. Jerry Spivak氏は、MPNにおいて、疾患の特徴は「すでに明らかになっている遺伝的影響と同じくらい、場合によってはそれ以上に、まだ不明の遺伝的影響に左右される」ということを、今回の研究は指摘していると結論づけている。

ほとんどの癌臨床試験結果は発表されない

9月15日号のThe Oncologist誌に掲載された調査によると、登録された癌臨床試験の試験結果がピアレビュー誌に発表されるのは5件のうちの1件にも満たない、ということである。今回の調査結果は癌臨床試験における出版バイアスへの懸念を提起するものである、と著者らは述べている。

フレッド・八チンソン癌研究センターおよびワシントン大学のDr. Scott Ramsey氏とDr. John Scoggins氏は、1999~2007年の調べで、ClinicalTrials.gov(重篤なもしくは生死にかかわる状態の診療行為に関する臨床試験の連邦政府登録)に登録された癌関連試験のうち、広く閲覧されるPubMed.govオンラインデータベース掲載のジャーナル誌に発表されたのはわずか17.6%であることを明らかにした。

さらに、評価項目を達成しなかった試験の結果は発表されない傾向にある、試験責任医師側の選択バイアスのエビデンスも明らかにした。登録された企業主導臨床試験の94%以上が一度も発表されることはなかったにもかかわらず、PubMed.govに載った試験の3/4で報告された結果は好ましいものであった。ちなみに、NCIが支援する臨床試験については、59%が発表されており、その半数が芳しくない結果を報告していた。

関連する論評の中で、NCI癌診断治療部門ディレクターのDr. James H. Doroshow氏は、「最終的な有効性および毒性データが明らかに不足している場合…複数の科学的および倫理的問題が生じてくる」と記した。同氏は、NCIの支援下にあるすべての介入研究の管理および転帰に関するデータを入手することによってこの問題に対処する、2009年の開始が見込まれているNCI臨床試験データベースプロジェクトについて説明した。

ある意味では「ネガティブ」だが「それでもなお有用な」試験に対して、The Oncologist誌では「評価項目において肯定的結果を出せなかったが、よい計画設計のもと実施された試験」として、ピアレビューを行い、検索可能な場を創設することも検討している、と編集主幹のDr. Bruce A. Chabner氏および編集主任のDr. Gregory A. Curt氏は記した。

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豊 訳

小宮 武文 (NCI研究員) 監修

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