免疫系を基にした新しい遺伝子療法が転移性メラノーマおよび肉腫に対して強力な反応をもたらす

記事の概要:
・患者の免疫細胞を用いて癌と戦わせる「養子免疫療法」により、転移性メラノーマや滑膜肉腫といった幾つかの癌を治療できることを示す臨床試験の総括が、2011年1月31日のJournal of Clinical Oncology誌電子版に発表された。これは新たな治療法となる可能性がある。[pagebreak]・この記事は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の癌情報委員会(Cancer Communications Committee)のメンバーであるメラノーマ専門医の Sylvia Adams, MD医師の論文からの引用である。
・追加情報は、リンク先であるASCO・患者向けウェブサイトのCancer.Netを参照のこと。

癌と戦うように患者自身の抗腫瘍免疫細胞を遺伝的に改変することにより、転移性メラノーマと転移性滑膜肉腫を治療するという個別化治療の新たな形が示された。この方法は、これらの癌のみならずその他の癌に対する新たな治療となる可能性がある。

養子免疫療法と呼ばれるこの技術は、身体の免疫系と協働して癌に立ち向かう。T細胞リンパ球と呼ばれる免疫細胞を採取し、遺伝的に改変して大量に増殖させたのち、患者の身体に戻す。この場合、T細胞リンパ球に癌細胞上の特異的な抗原を標的とする受容体を発現させる遺伝的改変を行わなければならない。

「この養子免疫療法という方法は、体の免疫系を用いて癌と戦うもっとも有効な方法だと思います」と試験の統括著者である米国国立癌研究所(NCI)の外科部門部長のSteven A. Rosenberg, MD, PhD医学博士は述べた。「この論文は、遺伝的に改変した細胞を用いた養子免疫療法が、メラノーマ以外の固形腫瘍の治療に有効に活用されたことを初めて示すものです。これが可能となったのは、われわれが多くの癌に発現する抗原を標的としているからです」。

この治療により、悪性メラノーマ患者と滑膜肉腫患者における奏効率は、それぞれ45%と67%となった。

以前の試験において、Rosenberg博士らは養子免疫療法を用いて、十分な治療を既に受けた、治療抵抗性の転移性メラノーマ患者の治療を行った。参加した93人の患者のうち、メラノーマの転移巣がすべて完全に消失した患者20人を含む半数以上に測定可能な奏効が認められた。

今回の試験では、17人の治療抵抗性転移性メラノーマもしくは転移性滑膜肉腫患者が、患者自身の免疫T細胞を用いた治療を受けた。T細胞は、癌細胞上のNY-ESO-1癌-精巣抗原を認識するT細胞受容体を発現するように遺伝的に改変された。NY-ESO-1は乳癌、腎癌、食道癌といった上皮性の癌腫やその他の癌腫の4分の1から3分の1に発現し、滑膜肉腫では約80%に発現している。

滑膜肉腫患者6人のうち4人(67%)に、またメラノーマ患者11人のうち5人(45%)に、測定可能な腫瘍の退縮が認められた。11人のメラノーマ患者のうち2人は、完全な退縮が1年以上持続した。治療による毒性はわずかであった。

「この治療の滑膜肉腫患者での有効性は、この新たな治療法が他の癌患者にも使えるということを意味しているのでしょう」とRosenberg氏は述べた。「そして、ここから新たな免疫療法が生まれる可能性があります」。

最近、Rosenberg博士らのグループは、非ホジキンリンパ腫患者の治療に養子免疫療法を用いた最初の例を報告したが、その後も患者の免疫系を遺伝的に改変して癌を治療する新たな方法を探索し続けている。彼らはまた、実験モデルにおいて、免疫細胞を遺伝的に改変して、腫瘍に栄養分を運ぶ血管を標的として破壊させることができたことを示す報告も最近発表した。

論文の全文をご覧になるにはこちらをクリック

ASCOの見解:
Sylvia Adams, MD医師(ASCO癌情報委員会委員)

「幾つかの試験で、免疫系にT細胞を移入することにより、メラノーマ患者において癌を退縮させることができることが示されています。これまでの研究とは異なり、この研究では肉腫、肺癌、卵巣癌、悪性メラノーマ、乳癌といったさまざまな腫瘍上にある腫瘍抗原だけを標的とするよう遺伝的に改変されたT細胞が用いられています。この抗原を用いる方法により、養子免疫療法を適用できる癌の範囲が広がりますし、毒性はわずかです。転移性肉腫患者と転移性メラノーマ患者において観察された腫瘍縮小は有望視されるものであり、追加の臨床試験で確認されれば、この免疫療法は新たな治療の選択肢の一つとなるでしょう」。

Cancer.Netへのリンク:
・免疫療法の理解のために
・Cancer.Net「メラノーマについて」
・Cancer.Net「肉腫について」

Journal of Clinical Oncology誌は論文審査のある米国臨床腫瘍学会(ASCO)の学会誌であり、月に3回発行されている。ASCOは世界的に主導的な役割を果たしている専門学会であり、癌治療を行っている医師の団体である。

Journal of Clinical Oncologyの許可のない記事の転載はすべて厳禁である。

翻訳担当者 窪田美穂

監修 田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/九州大学大学院医学研究院胸部疾患研究施設)

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