進行肺癌患者におけるタルセバ+セレブレックス

進行肺癌患者で示された実験的療法の有望性
カリフォルニア大学(UCLA)ジョンソンがんセンター 2006/6/1

実験的な標的療法とよく使用される抗炎症薬とを併用した初期臨床試験で進行肺癌患者に有望な結果がもたらされたことが、UCLAのJonsson Cancer Center(ジョンソンがんセンター)の研究者らによって報告された。 

血液腫瘍科の助教授で本試験の筆頭執筆者であるKaren Reckamp医師は、標的薬タルセバ(エルロチニブ)を抗炎症薬セレコキシブ(セレブレックス、日本ではセレコックス)と併用すると、肺癌患者の奏効率が約3倍上昇したと言う。研究はAmerican Association of Cancer Research(米国癌学会)の査読誌であるClinical Cancer Researchの6月1日号に発表される。

以前にUCLAで実施された実験室レベルの研究では、タルセバのようにEGFR(上皮増殖因子受容体)タンパクを標的とすることによって腫瘍細胞の増殖をブロックする薬剤に対する抵抗性には、COX-2として知られる細胞シグナル伝達経路が関わっている可能性が示された。研究者らはCOX-2阻害剤であるセレブレックスをタルセバとともに投与すれば理論的には抵抗性を抑えることができると想定し、事実、肺癌に対する有効な併用療法であることがわかったわけである。

概ね、肺癌患者の約10%にタルセバが奏効するが、Reckamp医師による今回の併用試験では、患者の約33%に奏効した。

「タルセバは単独でみてもすばらしい薬剤で多くの臨床効果をもたらしますが、その恩恵を受けられるのは患者のごく一部です」とReckamp医師は話す。「今回の薬剤併用により奏効率が上昇し、抵抗性はいくぶん克服されたことが示されました。また、その抵抗性の機序についてもわかり始めています」。

従来の治療がいずれも無効であった進行肺癌患者が第1相試験の志願者となり、セレブレックス数錠およびタルセバ1錠を毎日服用した。8週間後、研究者らが奏効率を調べた。患者は腫瘍の増殖が認められない限り、試験を続けることができた。最長奏効期間は93週間であったとReckamp医師は報告した。進行肺癌患者の平均奏効期間の約3~4倍である。

試験はSPOREプログラム(Specialized Program of Research Excellence[注:優秀性調査のための特別プログラム])の一環としてUCLAのジョンソンがんセンターで実施されたものである。このプログラムには米国国立癌研究所が出資し、全国のトップクラスの研究所で肺癌の予防、検出および治療のために、これまで以上に優れた効果的な方法が研究されている。

「今回の試験は、肺癌に併用標的療法を用いる重要な第一歩となりました」と、UCLA肺癌SPOREプログラム責任者で、肺・救命医療科教授のSteven Dubinett医師は話した。「Reckamp医師の試験は、肺癌を対象としてCOX-2阻害剤の用量を増大させ、生物学的至適用量を明らかにしようとした最初の試験です。現在、この用量を用いる併用療法について規模を拡大した試験の実施が求められています。」

個人の腫瘍にみられる生物学的諸側面は、タルセバが奏効するかどうかの決め手となる。しかし、タルセバが奏効するのはどのような生物学的特徴によるものかが十分にわかっていないため、最初に患者を検査してからどの患者にタルセバを投与するべきかを決定することができない。患者の90%ではタルセバが奏効しないため、同剤は選択肢のひとつとはされていなかった。Reckamp医師は、現時点なら無効患者90%の一部が、セレブレックスとの併用によりタルセバを服用できると言う。

タルセバのような薬剤は、癌細胞内の破壊された部分を標的として正常細胞のみを残すため、増殖が速い細胞をことごとく標的として患者を副作用で衰弱させることが多い化学療法など従来の治療法より副作用が少ない。Reckamp医師は、併用療法でみられた副作用は軽度であったと述べた。

次の段階は、この併用療法の有効性を確認し、タルセバ抵抗性の機序をさらに探るため規模を拡大した第2相試験を実施することであるとReckamp医師は話す。その試験は今秋、UCLAで実施される予定である。

今回の試験は、肺癌にセレブレックスを用いるときに最も安全で効果的な用量を明らかにした最初の試験であった。以前は、大腸癌患者に実施した試験に基づく用量で用いられていた。

「この初期臨床試験の結果は有望だと思います。近い将来、タルセバ抵抗性についても理解を深めていけると考えています。」というのがReckamp医師の見解である。

肺癌は、男性女性ともに癌による死亡原因の第1位であり、全癌死の約29%を占める。今年だけでも、米国では174,470人が肺癌の診断を受けるものと思われる。American Cancer Societyによれば、そのうち162,460人が亡くなることになると考えられている。

肺癌患者のうち、5年生存を達成するのは約15%にとどまっている。進行癌患者の余命は通常、1年に満たない。

「この疾患について現在より優れた治療法を開発していくのは、きわめて重要なことです」とReckamp医師は話した。


翻訳担当者 Nobara

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

欧州肺がん会議2024の画像

欧州肺がん会議2024

ESMO肺がん会議2024は、呼吸器外科医、胸部外科医、呼吸器内科医、呼吸器専門医、腫瘍内科医および放射線腫瘍医、画像下治療を行う放射線科医、病理医など、胸部腫瘍学分野の様々な専門家が...
免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望の画像

免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望

MDアンダーソンがんセンターデュルバルマブ+セララセルチブが肺がん患者の免疫反応を高め、予後を改善することが第2相試験で明らかにテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者...
ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢にの画像

ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢に

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ2023年11月、食品医薬品局(FDA)は、ROS1遺伝子融合と呼ばれる遺伝子変化を有する一部の進行肺がんの治療薬としてrepotrecti...
非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性の画像

非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性

ダナファーバーがん研究所アロステリック阻害薬EAI-432は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する新たな治療法を提供するEAI-432は、ATPポケット以外の部位に結...