小細胞肺がんにノギテカンとベルゾセルチブの併用療法が有望

最も悪性度の高い肺がんである小細胞肺がんの患者の一部に対して、腫瘍を縮小させる2剤の組み合わせが研究者により見出された。

小細胞肺がん患者の多くに対して、一次治療としての化学療法または免疫療法薬、あるいはその併用は有効である。しかし通常がんは再発し、追加の化学療法は効かないことが多い。こうなるとこの疾患は典型的にはものの数週間以内で致死的となる。

新しい併用療法では、米国食品医薬品局により一部の小細胞肺がん患者に対して承認されている化学療法剤トポテカン(国内での一般名:ノギテカン、販売名:ハイカムチン)と、治験薬ベルゾセルチブ(損傷したDNAの修復を助けるタンパク質を阻害する)が用いられる。

4月12日にCancer Cell誌に発表された結果によると、米国国立がん研究所(NCI)が支援する臨床試験において、治療後にがんが再発した小細胞肺がん患者25人のうち9人(36%)で併用療法により腫瘍の縮小が認められた。

さらに、一次治療としての化学療法に抵抗性であった6人のうち4人(67%)に対して併用療法が有効であり、その効果は平均して6カ月以上継続した。

「化学療法に対する抵抗性を獲得した患者に対する効果にはたいへん驚きました」と、筆頭研究者であるNCIがん研究センターのAnish Thomas医師は述べた。「これらの患者が月単位にわたって併用療法を続けられたことが、この研究のもっとも興奮すべき発見です」。

この“概念実証”臨床試験の結果に基づき、2つの新たな試験が開始された。

NCIは、再発小細胞肺がん患者を対象として併用療法とトポテカン単独療法とを比較する第2相ランダム化臨床試験を実施している。この臨床試験には、膀胱や子宮頸部といった肺以外の臓器に発生する小細胞がん患者も別途含まれている。

さらに、ベルゾセルチブの製造元であるEMDセローノ社は、化学療法に抵抗性の小細胞肺がん患者を対象とした併用療法の臨床試験に資金提供している。

小細胞肺がんに対する併用療法を探す

今回の研究の目的は、トポテカン単独よりも有効性の高いトポテカンを含む併用療法を見出すことであった。

「この疾患では、単剤療法よりも併用療法の方が効果があります」と、Thomas医師は述べた。「私たちは既存の標準治療を基礎として検討を進めたかったので、トポテカンと併用できる薬剤を探しました」。

トポテカンのような化学療法剤は、分裂している細胞のDNAに損傷を与えることで成長の速いがん細胞を死滅させ腫瘍を縮小させることができる。しかし、一部の患者では化学療法が効かなくなり、それはおそらく腫瘍細胞がDNA損傷を効率的に修復する能力を持っているためであろうと、研究チームは書いている。

「ほとんどの小細胞肺がん患者に対して、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は、最初はとても良く効きます」と、Thomas医師は語った。「しかし残念ながら、この効果はごく一時的なものであり、ほとんどの患者は3カ月から4カ月でがんを再発します」。

再発したがんは、その後の治療に対して抵抗性である傾向にある。「私たちは、腫瘍はDNAを修復する能力を内在している可能性があり、それが腫瘍の再発が早いことの説明になるのではないかと考えています」と、Thomas医師は述べた。

トポテカンと併用した場合に腫瘍細胞が損傷したDNAを修復する能力を阻害できる治療法を探すために、研究者らは、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS)の研究者らとチームを組んだ。

国立先進トランスレーショナル科学センターは、実験室で培養しているがん細胞に対する多くの薬剤や、薬剤併用の効果を迅速に評価できるマトリックス・コンビネーション・スクリーニングと呼ばれるロボットを用いたスクリーニング技術を保有している。これらのスクリーニング結果は、有望な併用療法を特定するためにどこに注力すべきかについて研究者らが優先順位付けするのを助けてくれる、と臨床試験に参加した国立先進トランスレーショナル科学センター・前臨床イノベーション部門のCraig Thomas博士はプレスリリースで述べた。

今回の研究で研究者らは、数千の可能な候補をスクリーニングにかけた。最も期待の持てる結果の一つは、トポテカンと治験薬ベルゾセルチブとの組み合わせであった。ベルゾセルチブは、ATRと呼ばれるDNA修復に重要な役割を果たすタンパク質を阻害する。

ATRタンパクを阻害すれば、がん細胞は化学療法により引き起こされたDNAの損傷を効率的に修復することができなくなる、と、この研究に参加した国立先進トランスレーショナル科学センター・前臨床イノベーション部門のMichelle Ceribelli博士は言及した。このことにより、化学療法の有効性が高まる可能性がある、と加えた。

小細胞肺がん患者で併用療法を検証

小細胞肺がん患者25人がん参加した臨床試験で、一次化学療法が有効であった患者にも、一次化学療法が有効でなかった患者にも、併用療法の効果が認められた。

一次治療としての化学療法に抵抗性であった6人の患者のうち2人(33%)が、治療開始後1年以上(ひとりは13カ月、もう一人は24カ月)にわたってがんが進行することなく併用療法を継続した。

化学療法抵抗性の小細胞肺がん患者の腫瘍にトポテカン単剤が効くことはほとんどないので、このように効果が持続することは注目に値する、とThomas医師は述べた。

全生存期間(死亡までの期間)中央値は8.5カ月であったと研究者らは報告しており、試験に参加した患者の1/3以上はそれまでに複数の治療を受けていたことは注目すべきことであると強調した。

併用療法で最もよく見られた副作用は、貧血、正常値以下のリンパ球(白血球の一種)数と正常値以下の血中血小板数であった。

両剤とも静脈内投与される。「両剤の投与順序はたいへん重要です。実験室レベルの研究で、私たちは両剤を同時に投与することが最も有効であることを見出しており、臨床試験でも同じ投与法が用いられました」と、Thomas医師は述べた。

この結果はより大規模な臨床試験で確認される必要があり、そのような試験が進行中である、と研究チームは書いている。

他の小細胞がんを対象に臨床試験を拡張

研究者らは臨床試験期間中に、肺以外に発生した小細胞がんの患者で一次治療の後に病態が悪化した10人を試験対象に加えた。それらの患者の一部にも併用療法は有効であった。

「これらの腫瘍は肺の小細胞がんに類似しており、同じくらい悪性度が高い」と、Thomas医師は述べた。

肺あるいは他の臓器の小細胞がんを持つ患者に対して併用療法が効いたりまたは効かなかったりする理由を解明するために、研究者らは、治療前に採取した腫瘍サンプルでの特定の遺伝子の発現を解析した。

「私たちは、併用療法が効く可能性の高い腫瘍を持つ患者のグループを特定することができました。それらの腫瘍は、細胞の急速な成長や損傷したDNAの修復に関与する遺伝子を含む特定の遺伝子の発現に特徴がみられます」とThomas医師は語った。

ほとんどの小細胞肺がんはすべてが同一の疾患であるかのごとく治療されるが、新しい研究により、分子的に異なる様々なタイプがあることが示唆された。「これらの知見は、どの小細胞肺がん患者が特定の治療により最も恩恵を受ける可能性が高いかを予測できるようになるための一歩です」と、Thomas医師は述べた。

翻訳担当者 伊藤 彰

監修 田中文啓

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