手術直後の放射線治療は低グレードの神経膠腫患者の再発を遅らせるが生存を延長しない

米国国立がん研究所(NCI)

Radiotherapy Immediately After Surgery Postpones Relapse, but not Death, in Patients With Low-Grade Gliomas(Posted: 10/12/2005)Lancet2005年9月17日号によると、手術後すぐの放射線治療を受けた低グレードの神経膠腫(脳腫瘍の一種)患者は、手術後に病気の進行が始まってから放射線治療を受けた患者より再発なしの期間は2年長かった。


要約
低悪性度の神経膠腫(脳腫瘍の一種)の手術後の早い段階での放射線治療を施行した患者は、腫瘍が成長し始めてから放射線治療を施行した患者より再発までに約2年間長くかかりました。しかし、早期治療が全体的な生存率を高めたわけではありませんでした。そして、精神的な機能や生活の質にどのような効果をもたらしたかについては明らかになっていません。

出典  The Lancet(オンライン版は2005年8月18日、書籍版は2005年9月17日) (ジャーナル要旨参照)

背景
神経膠腫は脳の神経細胞を取り囲み保護しているグリア細胞に発症する数種類の原発性脳腫瘍のあるグループに属しています。医師は、一般的に手術により腫瘍を除去しますが、患者を完治に導くことにはなりません。それに続く放射線治療は患者の生存率を高めるかもしれませんが、脳の作用の正常な働きに影響を及ぼすことになるかもしれません。悪性(高悪性度)の神経膠腫の患者は1年以下しか生きられないこともあるので、放射線療法もしくは化学療法が一般的に手術後早い段階で施行されます。しかし、低悪性度の神経膠腫の患者は5年あるいはそれ以上の生存が可能だとされています。ほとんどの低悪性度の神経膠腫患者は最終的に脳に照射を受けますが、問題はその時期です。放射線治療は、神経認知(神経機能)の変化というリスクがあり、生活の質を脅かします。経過を観察する手法を取り、癌の成長を示す臨床的徴候が現れるまで放射線治療を延ばす医師達もいます。また、手術後の早い段階での放射線治療を二つの理由から推奨する医師達もいます。その理由の一つ目は、新しい放射線治療の技術により脳の損傷のリスクを下げる根拠があることです。二つ目は、放射線が癌の成長するまでの時間を延ばすことが明らかであるという理由です。ここに書かれている研究は、この二番目の恩恵を立証する根拠を示すための、数少ないプロスペクティブ無作為化臨床試験の一つです。中間結果は、1998年に発表されましたが、長期の結果が発表されました。。

臨床試験

この臨床試験は、低悪性度の神経膠腫の手術に続く積極的治療と温存治療との比較を検証することを意図したものでした。1986年3月と1997年9月の間に、ヨーロッパにおいて24のセンターからの311症例は2グループのうちの1つに無作為に割り当てられました。早期放射線療法グループの154症例は手術後早い段階で脳の放射線治療が施行されました。経過観察のグループ157症例は腫瘍の成長が始まったあとに放射線治療が施行されました。全ての患者は、臨床試験のスタートにおいて神経認知機能レベルはほぼ同じでした。早期放射線治療のグループの患者は1回、1.8Gyの放射線量を1週間に5回、6週間続けて総量54Gyの照射を受けました。2つのグループは、定期的に腫瘍の成長(再発)の診断が行われました。そして、再発した場合は適切な治療が行われました。1998年の中間解析において、中央値5年間に渡る追跡検査の時点で49%の患者が再発しました。無増悪生存率においては、初期段階の放射線グループでわずかな優越性がありました。そして、2グループの死亡率は30%で、全生存率はおなじでした。長期的な成果を下に記します。この臨床試験は、オランダ、ロッテルダムのErasmus大学病院のM.J.van den Bent 医師率いるものでした。

結果
5年間の臨床試験において、早期の放射線治療を受けた患者の55%は無増悪で、経過観察のグループでは35%でした。約8年間(93ヶ月)の追跡調査後、研究者は早期の放射線治療のグループは約2年間長く再発せず生存した事を確認しました。無再発生存の中央値は5.3年で、経過観察のグループの3.4年と比較して、41%の優位性でした。しかし、全生存率においては、引き続き著しい違いはありませんでした。初期段階での放射線治療が施行されたグループでは全生存期間は7,4年であり、経過観察のグループでは7,2年でした。全生存率が同等であるという事実を反映し、放射線治療グループ(再発まで長い時間がかかる)は、再発後、わずか1年しか生きられないのに対して、経過観察のグループは3.4年、生存しました。

早期放射線治療グループ6症例では、副作用のため治療を断念しなければなりませんでした。しかし、研究者は毒性を「一般に中程度」と表記しています。研究者は、1年後の2グループ間の神経学的徴候や症状における著しい違いはなかったと述べていますが、そのデータについての表記はありませんでした。

臨床試験は、任意での生活の質に関する試験を含んでいましたが、参加したセンターは多くなく、意味のある解析はできませんでした。

制限事項
NCI(米国国立癌研究所)の癌研究センター、神経腫瘍学科の主任であるHoward A.Fine医師によれば、低悪性度の神経膠腫患者の重要な問題は、手術後の早期放射線治療の恩恵は脳損傷の危険性を上回るものかと言うことです。「残念なことに、この臨床試験はこの問題に答えていません。」と語っています。仮に、患者のIQが脳の変化による結果として20ポイント下がったとしたら、生活の質は著しく損ねられるかもしませんが、この臨床試験において追跡されたような有害な症状は一例もないかもしれません、と付け加えました。主任研究者の、M.J.van den Bent 医師らは、「神経学的悪化までの時間は、生存率より将来的な臨床試験において適性評価項目であるかもしれない。」と、認識しています。

低悪性度の神経膠腫より、高悪性度の神経膠腫がより多く存在しています。これらの結果は、低悪性度の神経膠腫グループに含まれる腫瘍の種類にだけ当てはまります。そして、様々な低悪性度の神経膠腫が治療に対してそれぞれ違う反応を示すかもしれませんが、今回の臨床試験はこの問題を取り上げていません、と Fine医師は言います。「たとえば、低悪性度の希突起グリオーマは、低悪性度の星細胞腫に比べて、手術後の化学療法が施行される傾向にあります。」

コメント
「この臨床試験は、低悪性度の神経膠腫に関する数少ないプロスペクティブ臨床試験の一例です。」と、Fine医師は語ります。そして、これらの結果は一般的に知られていて、すでに数年間、臨床診療を導くことに使われていると説明しました。改良された最新の放射線技術を取り上げ、M.J.van den Bent 医師は強調します。「照射が、患者の状況を悪化させるかもしれない証拠はどこにもありません。そして、無増悪生存率を延ばすものです。」と述べました。そして、経過観察の方針は、臨床的進展の根拠のない患者については妥当だと付け加えました。

(Sugiura 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

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