希少消化器がんに対する分子標的治療が生存を延長

早期臨床試験において、特定の遺伝子変異がある腫瘍を標的にする薬剤の併用により、その遺伝子変異を持つ消化器領域希少がん患者の転帰が改善した。

その併用とはダブラフェニブ(タフィンラー)とトラメチニブ(メキニスト)で、これにより進行した胆道がんと小腸腺がんの腫瘍が縮小した。いずれのがん種についても有効な治療法はほとんどなく、長期生存成績も不良で胆道がんについてはとりわけ不良である。

試験に参加した36人の患者は全員BRAF遺伝子に特定の変異(BRAF V600E)を有していた。その変異が認められるのは胆道がん患者と小腸腺がん患者の15%程度であると、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)消化器腫瘍学プログラムのZev Wainberg医師は言う。

ダブラフェニブはBRAFタンパクをブロックし、トラメチニブはMEKを阻害する。MEKとは、BRAFと同じ細胞シグナル伝達経路にある分子である。これら薬剤の併用は、メラノーマ、甲状腺未分化がん、そしてBRAF V600E変異を有する非小細胞肺がんの治療用に米国食品医薬品局(FDA)が承認済で、臨床で使用されている。

この試験の知見は11月16日、米国国立がん研究所、欧州がん研究治療機構、アメリカがん研究協会がスポンサーとなって行われた分子標的とがん治療に関するシンポジウムで発表された。本試験結果はまだ出版されていない。胆道がんと診断された患者の「予後は非常に不良で」治療の選択肢も限られているため、「この結果はとても注目せずにはいられない」とWainberg医師は述べた。

胆道がんにとって有望な結果

現在、胆道がんの一次治療はシスプラチンとゲムシタビンを併用した化学療法である。一次治療後に病勢進行した患者に対する標準治療はなく、二次治療の有効性はほとんど認められない場合が多い。

ROARと呼ばれるこの国際共同第2相試験は、対象を特定のがん種に限定せず、同じ分子異常を有する9つの異なる希少がん患者が参加した「バスケット試験」だとWainberg医師は説明した。

この試験には、標準治療後も病気が進行した患者が参加した。シンポジウムでは、評価可能な胆道がん患者32人のうち13人と、小腸腺がん患者3人のうち2人が「奏効」と分類するのに十分な程度に腫瘍が縮小したと発表された。

試験に参加した患者のように進行または転移のある胆道がん患者は、余命数ヶ月と予想されることが通常である。しかし、参加した患者は中央値で12カ月間生存した。

同医師の報告によると、試験に参加した患者が経験した副作用でもっとも多かったのは疲労、微熱、血球数の変化であった。

胆道がんで標的にできる分子数が増加

この試験には、欧州と米国の計8カ国にある大学、医療機関と製薬会社の研究者が関与した。BRAF遺伝子変異を有する希少がんを対象としていたため、試験に参加できた患者の数は比較的少数であったものの、この試験は米国食品医薬品局の承認プロセスの迅速化を目的として設計されたとWainberg医師は述べた。同医師によると、目標はグループ全体にとっての毒性を考慮しながら、比較的少数の患者群で有効性を示すことであったという。

「彼らの説明する奏効率には非常に勇気付けられます」と米国国立がん研究所(NCI)がん研究センターの消化器悪性腫瘍部門責任者であるTim Greten医師はコメントする。IDH1遺伝子、IDH2遺伝子の変異やFGFR融合遺伝子など、胆道がんの一部で認められる遺伝的特徴についてもさまざまなフェーズで進行している複数の臨床試験で、分子標的治療の可能性が検討されていると同医師は話した。

「胆道がん患者は腫瘍シークエンスや解析をして変異の有無を確認すべきだという我々の知識を今回の試験が確固なものとしてくれました」とGreten医師は言う。「この試験のおかげで、治療で標的にできる変異が増えました」。

小腸腺がんに関する結果については、試験に参加した患者数が非常に少なかったため、Wainberg医師もGreten医師も確定的に話すことを避けた。Wainberg医師によると、試験の対象になった希少がんについて各10名以上を募集しようと試みたものの、小腸腺がんについては3人しか登録できなかったという。

BRAFをがん種問わずに標的にする

BRAF V600E変異があると、BRAFタンパクにあるアミノ酸の1つが別のアミノ酸と置き換えられてしまう。この変化がタンパクを過活動状態にし、MEKや他のタンパクを介した過剰なシグナル伝達を誘導し、無秩序な細胞増殖を引き起こす。 V600E変異は、がん細胞で見つかるBRAF遺伝子変異の90%を占める。

過去の研究、特にメラノーマの研究では、MEKと変異のあるBRAFを同時に阻害する方が、単独で阻害するよりも効果的であることが示されていた。

「複数のがん種において、この併用療法がBRAF阻害剤単独療法よりも優れていることがすでに証明されています」とWainberg医師は述べる。併用療法を利用するのは薬剤耐性の予防にも役立つと同医師は話した。

9つの患者群(コホート)のうち4つについては有望な結果が得られたと同医師は言う。甲状腺未分化がん治療用にダブラフェニブとトラメチニブの併用を米国食品医薬品局が承認したのはこの試験の結果に基づいてのことだ。この研究グループは、12月初めの米国血液学会で、有毛細胞性白血病治療を目的とした併用に関しても有望な結果も発表した。(下記を参照のこと)。

「データでも裏付けられていると思うが、これら結果からわかっていただきたいのは、BRAF遺伝子変異の確認はいつの段階でも出来ること」「もし変異があるなら、これら薬剤の使用を検討すること」だとWainberg医師は述べた。

分子標的薬併用療法が有毛細胞性白血病に関して有望な結果を示す

ROAR試験の他の結果によると、ダブラフェニブとトラメチニブの併用は有毛細胞性白血病(HCL)患者にも有望な選択肢にもなりそうだ。

HCL患者の90%以上にBRAF V600E変異が認められる。本試験の研究者らは、12月初旬に行われた米国血液学会で、1次治療が奏効しなかったか、複数の治療のあとに再発したHCL患者41人に関する結果を発表した。これら41人は全員BRAF V600E変異を有していた。全体として、患者の78%が治療に奏効し、多くは完全奏効を示した。

研究者らによると、5人の患者が治療を中止し、約半数が副作用のために用量が減らしたか一時的に使用を中止したが、全般的には忍容性も良好であった。

翻訳担当者 関口百合

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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