高齢の慢性リンパ性白血病においてイブルチニブが化学免疫療法を上回る

慢性リンパ性白血病(CLL)の高齢患者に対して、これまでベンダムスチン+リツキシマブ投与が最も効果の高い治療法のひとつと考えられてきたが、第3相多施設臨床試験の結果から最新の分子標的薬であるイブルチニブ投与の方が進行を有意に抑制することがわかった。

この試験は初めて両治療法を直接比較したものであり、さらにイブルチニブにリツキシマブ免疫療法を追加してもイブルチニブ単独の場合以上の効果は得られない可能性も示唆している。

試験結果は2018年12月1日、2018年米国血液学会(ASH)年次総会およびNew England Journal of Medicine(NEJM)誌で同時に報告された。

CLLは高齢者に最もよくみられる白血球のがんである。米国食品医薬品局(FDA)はCLLの一次治療として2016年にイブルチニブを承認しており、これは今回の試験に最後の患者が登録された時期とほぼ同じである。これまでの試験では、イブルチニブが別の化学療法薬であるクロラムブシルよりも有効であることは明らかにされていたが、より効果の高い治療法であったベンダムスチン+リツキシマブとイブルチニブを比較したものはなかった。

「今回の結果からイブルチニブがCLL高齢患者の標準治療となるのは確実であり、現在最良とされている化学免疫療法よりも効果的である」と筆頭著者であり、オハイオ州立大学Comprehensive Cancer CenterのArthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Instituteで医学血液内科准教授を務めるJennifer A. Woyach医師は述べている。「今回の知見から、高齢CLL患者を対象とする試験計画時には、イブルチニブを有効性の基準として他の薬剤を検討すべきであることが示唆される」。

試験には、2013年から2016年にかけて未治療の症候性CLL高齢患者547人が登録された。患者の年齢は65〜89歳であり、中央値は71歳であった。無作為化により患者の1/3をベンダムスチン+リツキシマブ投与群に、1/3をイブルチニブ+リツキシマブ投与群に、1/3をイブルチニブ単独投与群に割り付けた。研究者らは患者の転帰を中央値38カ月間、3年強にわたって追跡した。

無増悪生存率(この試験の主要評価項目)は、イブルチニブ+リツキシマブ投与群(投与開始後2年で88%)とイブルチニブ単独投与群(投与開始後2年で87%)の方がベンダムスチン+リツキシマブ投与群(投与開始後2年で74%)よりも有意に優れた値を示した。しかし、この時点では3群間に全生存率の差はみられなかった。

イブルチニブにリツキシマブを併用しても、イブルチニブ単独の場合以上に転帰が改善する様子はみられなかった。各投与群ではいずれも総じて奏効率が高く、全奏効率はベンダムスチン+リツキシマブ投与群が81%、イブルチニブ+リツキシマブ投与群が93%、イブルチニブ単独投与群が94%であった。白血病の完全寛解率はベンダムスチン+リツキシマブ投与群が高かったが、その差は生存率改善や再発率低減をもたらすほどではなかった。

「二次治療の奏効率がきわめて高いうえに、特にこの試験では増悪が確認されるとベンダムスチン+リツキシマブ投与からイブルチニブ投与へのクロスオーバーを実施するため、CLL一次治療の試験で全生存率の差を生じさせるのは困難である。しかしながら 、各イブルチニブ投与群では顕著な毒性がみられており、高齢患者に対する本薬剤の投与についてはさらに試験を実施し、慎重を期さなければならない」。

「今回の試験から、がんの持続的コントロールの観点で高齢CLL患者にはイブルチニブが最も有効であるという決定的なエビデンスが得られた。こうしたデータを医師や患者に報告できるのは喜ばしい。試験は成功したものの、がんを最大限にコントロールし、副作用を最小限に抑える高齢者向けの至適治療法を見つけるため、今後もBTK阻害剤の最適化と治療法の改善に全力を注ぐ」とWoyach医師は加えた。

これまでの試験で明らかにされているとおり、イブルチニブは著しい副作用をいくつか引き起こす。特に、イブルチニブを投与した患者の17%もの患者に脳卒中や他の心血管障害のリスクを増大させる不整脈の一種である心房細動がみられた。

CLLが最も多くみられるのは高齢者であるが、この試験は65歳以上の患者を対象としたわずか数件のうちの1件に過ぎない。CLLの臨床試験の大半が若年患者を対象に実施されており、若年患者に対する標準治療は高齢患者とは異なる。

「この試験から高齢患者を対象に臨床試験を実施する重要性が浮き彫りになった。というのも、同一の薬剤であっても高齢患者と若年患者では毒性が異なる可能性があるためである」とWoyach医師は述べている。

今回の試験研究者らは、イブルチニブに抗体療法を併用した場合と別の新薬を併用した場合を比較評価する新たな試験を計画中である。

2018年12月2日正午(東部標準時、EST)にASHにてオハイオ州立大学Comprehensive Cancer CenterのArthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute所属Jennifer A. Woyach医師がこの試験について口頭発表を予定している。

翻訳担当者 西村かおり

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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