高悪性度脳腫瘍小児患者に個別化薬剤カクテルが有望

個別化治療薬の臨床試験が小児がん生存率向上の後押しする

UCSF Benioff 小児病院が、あるタイプの悪性脳腫瘍に罹患している小児患者を対象とした新規試験を実施した。その試験では、個別化した薬剤のカクテル(組み合わせ)を開発するための次世代ゲノム技術を利用している。今回利用した高精度医療(プレシジョン医療)により高悪性度神経膠腫の治療に新たな戦略がもたらされる。高悪性度神経膠腫は難治性の脳腫瘍で、生存率は数十年の間変化していない。

本試験では、UCSF Healthの神経腫瘍医であるSabine Mueller医学博士率いる パシフィック小児神経腫瘍コンソーシアム(Pacific Pediatric Neuro-Oncology Consortium/PNOC)のチームが小児とAYA世代を合わせて最大で44人を治療する予定である。患者の登録は、’18病院PNOC ネットワーク’に参加しているUCSF Benioff サンフランシスコ小児病院などの施設で行う。 18病院PNOCネットワークは、がん生物学での新たな知見をより有効な治療法につなげることを目的としている。

今回の薬剤カクテルは、小児腫瘍を特異的に対象とした最大4種類の治療薬を利用して開発する予定である。患者は個別にUCSF500がん遺伝子パネル(NantHealth社製(NASDAQ:NH))による分子プロファイリングと解析サービス、およびRNAシーケンシングによるスクリーニングを受ける。UCSF 500 がん遺伝子パネルは最も一般的ながん遺伝子変異に印をつける。NantHealth社提供の解析サービスは、全DNAと遺伝子を対象とした全ゲノム解析と全エクソーム解析からなり、がんの増殖を促進するあらゆる変化を検出する。RNAシーケンシングでは、がんを増悪させるがん遺伝子発現と遺伝子融合に関する重要な手掛かりが得られる。

本試験は、高悪性度神経膠腫の患者を対象に行われる。高悪性度神経膠腫とは退形成性星細胞腫、膠芽腫、正中線高悪性度神経膠腫などで、全種類が高悪性度の脳腫瘍で、現在のところ治療選択肢がほとんどない。

「1970年代以来、小児がんの中には生存率が向上しているものもあります。ですが、ある種の小児脳腫瘍を含む一部の固形がんにおいては生存率は向上していません」、とMueller医学博士(PNOCのプロジェクトリーダー)は述べた。

「ここ数年で高悪性度神経膠腫の分子レベルの構造について多くを学びました。分子レベルの構造が多様であることから、包括的な治療法ではほとんどの患者に有効でないことがわかりました」、とMuller医学博士は述べた。「この個別化治療戦略が高悪性度神経膠腫やそれ以外の難治性脳腫瘍に罹患している小児患者の命を救うことが出来る方法につながればいいと思います。」

毎年、米国の小児およびティーンエージャーにおいて4,610件の脳および中枢神経系の腫瘍が発生している。その約10%が高悪性度神経膠腫であり、2年生存率は35~10%未満に至るまでさまざまである、とMuller医学博士は述べた。脳腫瘍の外科処置は永年の間に向上したものの、高悪性度神経膠腫の中に手術不能、あるいは完全摘出不能なものもある。化学療法と放射線照射により生存期間が延長する可能性があるものの、寛解状態は長期間保たれないことが多い。

腫瘍の縮小に標準療法は有効でない

「通常、高悪性度神経膠腫小児患者の腫瘍が増大あるいは再発をきたした場合、腫瘍医は別の化学療法剤あるいは放射線の再照射を提案するかもしれません。ですが、これらの治療法は腫瘍特有の病態に適合せず、腫瘍の縮小に何ら効果がない可能性があります。その一方で消耗性の副作用をもたらす可能性があります」とMuller医学博士は述べた。

本試験の研究チームは、専門の研究室で腫瘍のサンプルを解析し、DNAシークエンサーを用いて腫瘍と正常細胞の両方の遺伝子構成を「解読」する。すべての遺伝子変異は、がんを増悪させる標的分子を妨害することでがんの増悪を阻止する役割を有する既存の分子標的治療あるいは研究段階の新薬に適合する可能性がある。

「それぞれの小児に最適な薬剤を特定する上での落とし穴は、多くの治療薬が血液・脳関門を通過できないこと、言い換えると生物学的効果を引き起こすのに十分な濃度に到達しないという点です」とUCSF Benioff 小児病院の神経腫瘍医でPNOC創設者兼共同プロジェクトリーダーであるMichael Prados医師は述べた。

「研究成果や以前の臨床試験の結果に基づき、血液・脳関門を通過することが明らかになっている薬剤について研究を進めています」とPrados医師は述べた。「ですが、血液・脳関門を超えた送達を想定することは、患者それぞれに及ぼす影響を実際に知ることには繋がりません。今後行われる試験ではUCSF Benioff 小児病院はPNOCと共にこの点をさらに研究する予定です。」

また研究チームは正常細胞のDNAシーケンスを検討し、神経膠腫以外のがんのリスクを高める生殖細胞系あるいは遺伝性の変異があるかどうかを確認します。

「我が社のGPS Cancer® を用いた分子プロファイリングおよび解析技術を用いて小児脳腫瘍の重要な研究を助けとなることは喜ばしいことです」とNantHealth社会長兼CEOであるPatrick Soon-Shiong医師は述べた。「全ゲノムのシーケンシングを行うことで、本技術を用いれば腫瘍の生物学に関する最も包括的で治療に結び付くデータが治療開始前にがん専門医がきちんと利用できるのです。本研究の臨床への適用は特に関心のある事柄です。なぜならば、成人のがんよりも小児がんの方がDNA変異が一般的に少ないためです。」

UCSF Benioff サンフランシスコ小児病院とそれ以外のPNOCの施設で、同様の高精度医療の手法を用いた試験が並行して実行中である。この試験の対象は小児脳幹部グリオーマという極めて致死率の高い高悪性度の神経膠腫患者となっている。数十年に及ぶ研究にもかかわらず、小児脳幹グリオーマの平均生存期間は1年未満である。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 西川亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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