進行膵臓がん個別化医療の指針にリアルタイムDNAシーケンシング

進行膵臓がんの患者を対象にした高速DNAシーケンシングは実施可能であり、その結果は治療決定の指針となりうることが、ダナ・ファーバーがん研究所の研究で示された。

Cancer Discovery誌に発表されたその研究では、転移性膵臓がん患者71人のうち約3分の1で、ゲノムデータに応じて臨床ケアが変更された。また、一部の患者の家族には、膵臓がんの遺伝的素因を持つ可能性があるため、遺伝子検査の検討が勧められた。

「これらの結果は、進行膵臓がんの遺伝子構成を知ることが患者のケアに影響を及ぼすことを示唆しています」と上席著者であるBrian Wolpin医師(MPH)は話す。同医師はダナ・ファーバーのGastrointestinal Cancer CenterとHale Center for Pancreatic Cancer Researchに所属しており、本研究にはこれらの機関とLustgarten Foundationが資金提供した。

転移した膵臓腫瘍の分子解析には困難を伴う。生検試料の細胞構成が不均一であることと、病勢が速いことが原因だ。ダナ・ファーバーの研究者らは、集学的生検プログラムであるPancSeqと、全エクソームDNAシーケンシングを活用し、生検から約1カ月以内に解析結果を得た。すべての患者について、腫瘍DNAと、両親から受け継いだ遺伝的DNAの塩基配列を決定した。

このコホートの患者のうち48%(34/71)で、1つ以上の遺伝子変異を有するがんが見つかり、実施中の臨床試験に適格となる可能性や、他の適応症で承認された薬剤の適応外使用につながる可能性があることがわかった。PancSeqに参加した患者の計24%(17/71)が、臨床試験への参加、または承認薬の適応外使用のいずれかにより、試験中の薬剤を用いた治療を受けた。

「この研究で注目した1例として、相同組換え欠損を伴うBRCA2の体細胞変異(腫瘍細胞の変異)を有する腫瘍が認められた症例があります。この変異は遺伝性乳がんや卵巣がんの原因になることがあり、これらの疾患に対して分子標的薬が承認されています。しかし、この変異が患者の膵臓がんから検出されたため、同様の分子標的薬を使ってこの患者を治療することができました。この患者は転移性膵臓がんと診断されて2年以上経過しますが、画像診断でがんのエビデンスは見つかっていません。腫瘍の遺伝子変異を知ることで、この患者の治療を個別化することができたと考えています」とWolpin医師は述べた。

研究者らは、患者の18%で膵臓がんになりやすい遺伝子変異が認められたと報告した。年齢や家族歴を問わず、膵臓がん患者に生殖細胞系列遺伝子(遺伝的変異)検査を行う必要性が高まっているが、今回の知見でその必要性がさらに増している。

「われわれの目標は、両親から受け継いだDNAと腫瘍DNAのゲノム評価や、各患者のがんの脆弱性を明らかにする新たな方法などによって、個別化治療を膵臓がん患者の標準とすることです」とWolpin医師は話した。

翻訳担当者 関口百合

監修 北丸綾子(分子生物学/理学博士)

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