併用療法により遺伝性がん症候群患者の大腸ポリープ数が減少

予防的臨床試験の新たな分析結果から、大腸がん発症の遺伝的リスクが非常に高い患者で、2剤併用療法により前がん病変である大腸ポリープの数が大幅に減少したことが明らかになった。

この臨床試験では、遺伝性疾患である家族性大腸腺腫症(FAP)患者をエルロチニブ(タルセバ)+スリンダク(アフロダック)の併用療法群またはプラセボ群にランダムに割り付けて6カ月投与したところ、併用療法群ではポリープ数がプラセボ群の3分の1以下になった。最新の解析結果が、2月8日付JAMA Oncology誌に掲載された。

このランダム化臨床試験の初期の結果では、これら2剤の併用療法で十二指腸(小腸の最初の部分)ポリープ数が約70%減少したことが示された。十二指腸ポリープの減少は、この試験の主要目標であった。また、大腸ポリープの減少を副次的評価項目として検討する予定もあった。

NCIのがん予防部門消化器および他種がん研究グループのAsad Umarグループ長(獣医学博士)は、「他の薬剤は十二指腸ポリープ減少における有効性を示せていなかったため、十二指腸ポリープ減少という初めての解析結果も注目に値するものであった。今回の解析結果では、この併用療法は大腸ポリープに対するがんの予防効果もあることが示された」と語った。

しかし、Umar博士は、FAP患者においてどちらかの薬剤の単剤投与より併用療法の方が著しく優れているかどうかは、併用療法のみを試験したこの臨床試験からは判別できない、と警告した。

この臨床試験を主導したメイヨークリニック(アリゾナ州フェニックス)のJewel Samadder医師は「結果は期待できるものだが、FAP患者の化学予防に関する多くの疑問はまだ未解決である。しかし我々は、最終的にFAP患者のがんリスクを著しく低下させる化学予防レジメンを作成できるという希望をもっている」と語った。

侵攻性細胞増殖が標的

FAP患者では、正常であれば消化管の細胞増殖の抑制に関わるAPCと呼ばれる遺伝子に遺伝的変異がある。APCの変異は細胞増殖抑制を阻害し、一人の患者で生涯に何百から何千ものポリープが形成されることにつながる。

FAP患者では、ポリープが大腸がんに進行するリスクが100%近くあり、また、その12%が十二指腸がんも発症する。

そのため、FAP患者は、定期的に内視鏡での観察とポリープ切除を受けることになる。しかし、大腸のポリープ数がこの方法でコントロールできる限界を超えると、大腸切除術(大腸の全部または一部の除去)を受けることが一般的である。この手術により大腸がんのリスクがほぼ無くなるが、生活の質に非常に大きな影響を与える可能性があるとSamadder医師は語った。

さらに「十二指腸がんの方が予防または外科的な治療をするのがはるかに難しい。そのため、併用療法によりFAP患者の十二指腸ポリープが減少するかどうかを確認することがこの臨床試験の主目的となった」と述べた。

APC遺伝子の変異がどのように消化管ポリープの発症につながるかについて多くの研究が行われてきた。消化管ポリープの発症に関与するタンパク質のうちの2つ、EGFRとCOX2は、既存の薬剤で阻害することができる。EGFRとCOX2のそれぞれを標的とする薬物を組み合わせることでポリープ形成を減少させる可能性があることが長年示唆されてきた。

現在行われている試験では、既に肺がんと膵臓がんの治療で使用されているEGFR阻害剤であるエルロチニブを、COX2を標的とするスリンダクと併用している。

ポリープ数の大幅な減少

この臨床試験では、2010年にFAP患者92人が登録された。参加者は、エルロチニブ+スリンダク錠投与群と、同一に見える2つのプラセボ錠投与群にランダムに割り当てられ、毎日服用した。6カ月間の治療の前後に、十二指腸および大腸のポリープ数を内視鏡で測定した。

試験のデータ・安全性監視委員会は、最初の67人の参加者が6カ月間の治療を終えた後、エルロチニブ+スリンダク投与群の患者で十二指腸ポリープ数が大幅に減少したため、登録の中止を勧告した。

フォローアップ期間中、6カ月間のエルロチニブ+スリンダク投与群では、大腸ポリープ数もプラセボ群と比較して、試験開始時から約70%減少した。

2剤併用群の患者のほぼ3/4が副作用(多くは痛みを伴う発疹)のためにエルロチニブの用量を減らさなければならなかったが、それでもこの効果がみられた。また、2剤併用群の患者の約半数は、吐き気や下痢を含む副作用のために、スリンダクの用量を減少した。

総用量と大腸ポリープの減少数の間には相関が無かったため、この試験での用量はAFP患者における有害な分子シグナル伝達を阻害するのに必要以上の量であったと推測される、と研究者らは主張した。

残された課題

このレジメンをFAP患者に広く使用することについて残された課題は、ポリープががんに進行するリスクを減らせるどうか、十二指腸および大腸ポリープの数を長期間にわたり減らせるかどうかということである。Samadder博士は「研究チームは、FAP患者の大腸切除術の必要性を減らせるかどうかを明らかにしようとしている」と述べた。

さらに「十二指腸がんや大腸がんの化学予防薬は、継続的に服用する必要があるのか、間欠的な投与で患者の副作用やコストを軽減できるのかどうかも検討したい」とも述べた。

また「予防薬を長期間服用する必要がある場合は、エルロチニブの副作用に耐えられない場合もあるため、薬剤の種類と量を調整する必要がある」とSamadder医師は説明する。研究チームは現在、新しい試験への患者登録を行っている。新しい試験では、低用量エルロチニブのみの低頻度投与でも、この試験での2剤併用療法と同様の有効性かつ低毒性を示すかどうかを調べている。

「私たちはがんを治療しているわけではなく、予防しようとしているので、服用すべきレジメンは耐えられる範囲でなければならない」とSamadder医師は述べた。

大腸がん化学予防の別の臨床試験を行っているカリフォルニア大学アーバイン校のJason Zell医師(Osteopathic=オステオパシー医師)は「この2剤の低用量併用療法の試験は非常に興味深い」と述べた。「FAP患者において、エルロチニブが低用量であっても、スリンダクとの相乗的効果により同様の効果をもたらすのであれば、それは画期的である。」

大腸がんサバイバーにおける高リスク腺腫および二次がんの予防

大腸癌治療後の患者における、腺腫と言われる高リスクの前がん病変の発症、または、二次性の原発性大腸がんの発症を予防する薬剤の試験に対する関心が高まっている。

大腸がんの治療に成功した人々は、一般集団よりも腺腫または新たな大腸がんを発症するリスクが高い。一方で、大腸がんサバイバーはFAP患者よりはリスクが低いため、化学予防レジメンによる副作用はほとんど発現しないことが必要である、とPACESと呼ばれる大腸がんサバイバーを対象とした化学予防薬の臨床試験を主導しているZell医師は述べた。

NCIのがん予防部が資金提供し、全国の500以上の病院で実施されているこの試験は、転移のない大腸がんの治療を前年に受けている患者を登録している。参加者は、スリンダク+エフロルニチン、スリンダク+プラセボ、エフロルニチン+プラセボ、2つのプラセボの4つの投与群の一つにランダムに割り当てられる。

エフロルニチンは、大腸直腸のがん形成を促進する可能性があるポリアミンとして知られるある種の酵素の活性を阻害するとZell医師は説明する。スリンダクは、COX2を標的とするだけでなく、ポリアミン活性も阻害する。参加者は3年間錠剤を服用し、合計で8年間追跡調査が行われる。Zell医師は、一方または両方の薬剤が腺腫および二次の原発性大腸がんのリスクを約半分低下させることを期待しているとも述べた。

翻訳担当者 山岸 美恵野

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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