免疫療法薬の併用はタイミングと順序が重要

がんマウスでのある新しい研究において、免疫療法薬2剤の併用治療は、投与のタイミングと順序が治療の有効性と安全性に極めて重要であることが示唆された。

本研究の責任者らは、マウスの治療で異なる2剤の免疫療法薬を同時に投与しても、1剤のみの投与ほどは腫瘍の成長に影響を与えないことを見出した。一方、2剤の投与のタイミングをずらすと、マウスの腫瘍の成長はかなり遅くなり、生存期間が延長された。このような効果は、投与の順序を逆にした場合には観察されなかった。

本研究の上級責任研究者であるEarle A. Chiles Research Institute Robert W. Franz Cancer CenterのBernard A. Fox博士は、次のように話している。「これらのマウスの研究で、併用治療のスケジュールがいかに重要かということに気づかされました。」

本研究はNHIが一部資金提供を行ったもので、その結果は8月28日にClinical Cancer Researchで発表された。Bernard博士はこれについて、「私たちは患者さんをもっとしっかりと研究することに時間を費やし、免疫療法薬の併用治療について適切な臨床試験を行わなければならないことを改めて強調しています」と述べた。

併用薬: PD-1阻害薬とOX40作動薬

T細胞とは、感染細胞またはがん細胞を含む異常細胞に対し、攻撃能力や殺傷能力をもつ免疫細胞の一種である。この殺傷能力は、T細胞表面のいくつかの分子により慎重にコントロールされている。例えば、PD-1という分子はT細胞の殺傷能力を制限するが、OX40はT細胞の殺傷能力を高める。

T細胞表面のPD-1あるいは腫瘍細胞上のその結合パートナーであるPD-L1を阻害する標的治療では、T細胞活性が亢進し、より高い抗腫瘍免疫応答を惹起できるかもしれない。米国食品医薬品局(FDA)は、肺がんや黒色腫を含むある種のがん治療に使用されるいわゆる免疫チェックポイント阻害薬を何剤か承認している。

しかし、PD-1阻害薬やPD-L1阻害薬は、乳がんを含む多くのタイプのがん患者で有効性が限られている。

米国国立がん研究所のがん研究センターで免疫療法部門の責任者を務めるJames Gulley医学博士は、本研究には関与していないが、次のように話した。「どうすればいくつかの免疫療法で私たちが目にしているような、持続性があり迅速な効果を得ることができ、また、これらの驚くべき効果を得られる患者集団を拡大できるか、答えを見つけ出すことに奮闘しています」。

同医師は、「免疫療法では効果が得られない患者さんの場合、腫瘍がこれらの薬剤で誘発される免疫応答に拮抗していることが一つの問題であると考えられます。単剤のみの免疫療法は、腫瘍が抗腫瘍免疫応答を排除してしまいます」とも述べた。

Fox医師とそのチームは、PD-1阻害薬に反応しない腫瘍に対しては、他のタイプの免疫療法と併用することで腫瘍の防御に打ち勝ち、より効果的な抗腫瘍免疫応答が得られるか確認したいと考えた。

同医師らは、OX40作動薬として知られる新規クラスの免疫療法薬に注目した。OX40作動薬は、OX40と結合してその活性を高め、T細胞活性を増強する可能性がある。現在、いくつかのOX40作動薬が、かん治療への潜在的治療薬として臨床試験で評価されている。

この仮説を検証するために、Fox医師の研究チームは、ヒトにおいてかなり類似した病気の進展を示す乳がんのマウスモデルを使用した。同研究者らは、マウスに腫瘍が形成された後、無治療、PD-1阻害薬治療、OX40作動薬治療あるいは両免疫療法薬の同時投与による治療を行った。

PD-1阻害薬のみの治療を行ったマウスは、無治療マウスと比較して腫瘍の成長や生存期間に影響が認められなかったのに対し、OX40作動薬のみで治療したマウスは、腫瘍の成長速度が減少し、生存期間が改善されることがわかった。

一方、併用治療は、OX40作動薬のみの治療と比較して腫瘍の成長にさほど影響を与えなかった。さらに、併用療法では、OX40作動薬の単剤治療で観察された生存期間の改善は低減した。

Fox医師は、「2剤の併用治療で得られる効果が、OX40作動薬のみの治療の効果よりも有意に低いとわかり本当に驚いています。」と話している。

研究者らは、併用療法による治療を行ったマウスは、ある種のサイトカインが非常に高値になり、免疫療法の副作用の一つとされるサイトカインリリース症候群(CRS)を示すこともわかった。Gulley医師は、「CRSは、一般的には、T細胞の過活性により大量のサイトカインが産生されることで生じ、低血圧、発熱、悪心、発疹等の症状が現れます」と述べた。CRSは重症化する可能性があり、臓器不全や死に至ることさえある。

またそれだけでなく、併用治療を行うことにより、最終的にはマウスの腫瘍においてT細胞疲弊として知られるT細胞のシャットダウンが引き起こされた。

同チームは、マウスの腫瘍の成長を遅らせるには2剤の逐次治療の方がより高い効果を得られるのではないかと考えた。彼らは、OX40作動薬を使用した治療でまず抗腫瘍T細胞活性による初回ブーストが得られ、後のPD-1阻害薬治療でその効果が延長されるか検討した。

彼らの直観は正しかった。OX40作動薬治療の2日後にPD-1阻害薬治療を行うことで腫瘍の成長を遅らせることができ、OX40作動薬のみの治療よりもマウスの生存期間が延長した。

実際、連続併用治療においてマウスの30%で腫瘍の完全縮小が認められ、同時投与の併用治療と比較して同群のマウスの生存期間は2倍近く延長した。また、本連続治療では、CRS様症状やT細胞疲弊は認められなかった。

一方、マウスへのPD-1阻害薬による治療後にOX40作動薬治療を行う逆順序の治療は、腫瘍の成長を遅らせなかった。

Fox医師は「2剤を別々に投与することは、薬剤の生物学的作用に大きな影響をもたらしました。一番驚いたのは、連続治療により長期の生存期間や明らかな治癒が見られたマウスもいたことです」と述べた。Fox医師は「同様のマウスモデルを使用した他の非臨床試験では、このような効果は観察されていません」とも話している。

免疫療法の臨床試験で考慮すべきこと

Gulley医師は、次のようにも報告している。「マウスモデルは生物学的に完全にはヒトの代替になりませんが、併用治療の潜在的な効果について良い示唆を与えてくれます」。

同医師は、「この研究は、単に無計画に免疫療法薬を併用するのではなく、一歩引いて考えることを促してくれています。臨床試験を実施する前に、私たちが行っていることへの生物学的な理解を深めていきましょう」と述べた。

Fox医師は、免疫療法の併用は、高精度医療(precision medicine)のアプローチを用いることでさらにもっと効果が得られると考えており、「個々の患者さんの腫瘍分子マーカーを検証することにより、どの免疫療法がどの患者さんで最も高い抗腫瘍免疫応答を生じさせるか、医師はより正確に予測することができるかもしれません」と説明した。

また同医師は、「私たちはまだそれが可能な状況ではありませんが、個別化治療を行うことができるようになるでしょう」とも話している。

Fox医師は、「例えば、PD-1阻害薬とOX40作動薬は、いずれも抗腫瘍免疫応答を増強することから、免疫応答が認められる患者さんに最も適しています。しかし、恐らく大半がそうであるように、抗腫瘍免疫応答が全く認められない患者さんには、免疫系を活性化するための別の種類の免疫療法が必要かもしれません」と述べた。

Gulley医師は、「科学者たちは初回の抗腫瘍免疫応答を惹起する他の免疫療法とPD-1阻害薬およびOX40作動薬の併用治療について検証しています」と報告した。

一例として、Fox医師とその同僚らは、進行がん患者を対象に、がんワクチンとOX40作動薬を含めた併用治療を研究中である。非臨床研究では、併用治療により抗腫瘍T細胞活性の有意な増強が示された。このがんワクチンは、再発リスクが高いがん患者を対象に米国国立がん研究所が資金提供した術後補助療法の第2相試験が実施された。彼らは、後の臨床試験で、同ワクチンとOX40 作動薬およびPD-1阻害薬の併用について検討する計画である。

翻訳担当者 宮武洋子

監修 後藤 悌(呼吸器内科/国立がん研究センター)

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